第51話:3人目の奴隷少女、出会いました…
昼食を済ませた後、ボク等は宿の主人の案内で部屋を移った。
元々いつでも夜逃げを出来るよう、大抵の荷物は旅行カバンにまとめてある。部屋を移る時に持って出たのは、旅行カバンが2つ、手作りのバッグが3つ、それ以外には部屋干し用の洗濯紐と干していた下着類位だけだ。
隣の203の部屋も、広さは今までとさほど代わらない。クイーンサイズ位有りそうなワイドなダブルベッドが部屋のやや窓際にありベッドだけで部屋の半分近くを占めそうだ。
窓の側には小さなテーブルとイスが2つ。部屋に窓はが1つだけ、ガラスなど無い木の窓だ。ドアの側には外套や帽子を掛けられるスタンドが1つ、ベッドの足元に洗い桶が2つ。アネモネ用の洗い桶を持ってきて3つ並べたら、少しだけ手狭に感じる。ま、本来は2人用の部屋だから当然か。
主人から部屋の鍵を受取り、前払いの差額である1日銀貨2枚を4日分、合計銀貨8枚を主人に渡す。主人は2枚ずつ「1日分、2日分、3日分、4日分、はい。確かに受取った」と数えて階下に降りていった。
主人が出て行ったら、コスモスの熱風魔宝で念の為ベッドを消毒する。その後で、ボクはベッドに腰を下ろす。当然コスモスはボクの左側に、アネモネはボクの右側に寄り添って腰を下ろす。
『今夜から、3人でこのベッドで寝ます』
「はい」
「はい」
コスモスもアネモネも素直にうなずく。抵抗感があるのはボクだけなのか。
『ボクがこの国で魔宝を発動出来た事は2回あります。1回目はコスモスと、2回目はアネモネと肌を重ねていました。ボクの魔宝発動には、魔宝石だけでなく心通わせる女性の体が必要なようです』
コスモスもアネモネも黙って聞いていてくれる。
『コスモスが火・風の属性を持っているから、ボクはコスモスと肌を重ねる時には火・風の魔宝を使えるでしょう。そしてあの夜、コスモスを通して細く続く聖への道が見えました。だからコスモスは、訓練次第で聖魔宝を使えるようになれると考えています』
「そうなのですか?」
『はい。魔宝師の初夜のしきたりとして魔宝石を纏って身を重ねる事で、互いの魔宝力を高め合いました。あの夜、コスモスは私の魔宝力に引き上げられ、聖の精霊様への細い道を紡いだのだと思います』
「・・・はい」
『そしてアネモネ』
「は、はい」
『アネモネと肌を重ねる時、アネモネの属性で有る生・風の魔宝をボクは使うことが出来るでしょう』
「・・・カノン様は交わられた女性の持つ属性魔宝であれば、七属性全ての魔宝を使う事がお出来になるのですね。以前、カノン様の魔宝石7石を見せて頂いた事がありましたが、本当に七属性全ての魔宝を使える方がいらっしゃるとは思いもしませんでした。」
『この国へ魔宝事故で跳ばされて以降は、コスモスの身体を借りた聖魔宝、アネモネの身体を借りた生魔宝の2種しか使った事はありません。ですが、事故以前は七属性全ての魔宝を使えていました』
「七属性全てですか、すごいです。その上古代魔宝である心話も使えるなんて、本当にお伽話の中のお方に思えます」
『そんな事は無いです。ボクは自分を抑えられない未熟者です。魔宝に関係なく、我慢できなくて2人の身体を求めてしまう事も有ると思います』
「はい、求めてもらえて光栄です」
「妻としてとても嬉しいです」
『それにボクは、3人一緒に上手くやれるか自信がありません。ガッカリさせてしまったらごめんなさい』
「まぁ、カノン様・・・」
「・・・おそらく、その様な心配は不要です」
『・・・どう言う事でしょうか?』
思いの外肌の触れ合いに積極的な2人の態度に少し戸惑う。
ボクが受けた「教育」では、こう言う事は男が積極的にリードするものと習ってきた。なのに、2人にはそんな事は必要ないの?
「私は、そしておそらくアネモネも、カノン様に触れて頂ける事・カノン様を触れる事を幸せと感じています。今もこうしてカノン様に触れていられるので幸せです」
コスモスがが、ボクの左腕をギュッと抱きしめる。ささやかな2つのふくらみの感触が心地いい。
「はい。私もコスモスと同様です。そして自分が、カノン様を受け入れる事が出来る女の身体に産まれて来た事を幸せだと感じています。こうして心が通じ合った状態で、肌に触れて頂いたり身体を交えて頂けたなら、それだけで充分なのです」
アネモネも、ボクの右腕をギュット抱きしめる。大きくて柔らかな2つのふくらみの感触が心地いい。
良く分からないけど、2人とも1つのベッドで一緒にボクを受け止めてくれると言う事でいいのかな?
魔宝を発動させる以外の目的でも2人に触れたいと思ってしまうのだけれど、もう妻と夫だもの、いいんだよね。
『ありがとうございます、コスモス、アネモネ。でも、妊娠のリスクを下げるため、普通ではないお願いをするかもしれません』
「大丈夫で御座います、カノン様。アネモネと同じベッドになったとしても、今まで通り誠心誠意御奉仕させて頂きます」
「はい、私もコスモスに教えてもらい、お尽くしできるよう努力いたします。それに、私は”生”の魔宝使いです。生殖を伴わない交わりも、魔宝により可能で御座います」
あれ?
カンターク教は、生殖の為の行為、愛情を確かめ合うための行為は認めているけど、快楽の為だけの行為、生殖を伴わない同性間での行為、近親間での行為は禁じているとアネモネに教わった。
魔宝による生殖を伴わない交わりをしてしまってもいいのか?
「はい。愛情を確かめ合うための行為で御座います。問題ありません」
そうなのか・・・
「はい、カノン様。そして今ならコスモスも一緒におります。今、カノン様が望まれるのであれば、ご奉仕させて頂きます」
「はい、カノン様。愛情を確かめ合うため、必要で大切な行為で御座います。アネモネも技術の向上に熱心です」
ひ、必要なのか?必要なんだな、必要で大切なら仕方ないよね。
アネモネの看病でずっと出来なかったし、アネモネの「最初の時」も妊娠が怖くてきちんと出来なかったし。男の子ですもの、女の子にこれだけ言われたらがんばらないといけないよね。
あ、でも、アネモネは身体がまだ痛いのではないだろうか?
「コスモスも耐えた痛みです。カノン様から刻印を頂いた証拠、大丈夫です」
あれ、でも、そろそろ始まるのでは?
「では、念の為ベッドに防水シートを敷きましょう」
アネモネはやる気マンマンだ。
『コスモスは平気ですか?』
「はい。アネモネの魔宝で妊娠を避けられるのなら、今までよりずっと安心してカノン様に身を委ねる事が出来ます。幸せで御座います」
ボク等はベッドにテント用魔宝布を広げて敷いた。今までのシングルベッドなら2つ折りや4つ折りで充分な広さがあった。ワイドなサイズのダブルベッドで心配したが、このベッドでも2つ折りで充分だ。テント布を敷いて、更に折り返して上掛けにする事も出来る。
コスモスは自分でワンピースを脱いでいる。ボクはアネモネの背中に回って、ワンピースのボタンを外す。2人が脱ぎ終わると今度はコスモスとアネモネがボクの服を脱がせてくれる。
締め切った窓から漏れ込む光が今はまだ日中だと教えてくれるが、ボク等3人は全てを脱ぎさって1つのベッドにもぐりこんだ。
ボクとコスモスがキスをする。アネモネは、ボクの背中側から首筋にキスをしてくる。
ボクの舌を絡めるコスモスの舌の感触、ボクの首筋を舐めるアネモネの舌の感触が、ボクの肌を通してコスモスとアネモネに伝わる。
ボクの身体が幸せに震える。その震えが伝播してコスモスとアネモネに伝わる。そしてその喜びが彼女達の舌を通してボクに返ってくる。
身体を痺れさせ震えさせる感覚がエコーの様に繰り返し伝播される。この日、3人の強力なテレパシストが裸で肌を重ね合わす事の凄さをボク等は体感する事となった。
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3人で愛情を確かめ合った後、私はカノン様と買い物に出かけました。危ないからと、念の為コスモスはお留守番です。
私はカノン様に頂いたワンピースにショールを羽織った姿です。カノン様はワンピースの上から桜色の魔宝師のローブと桜色のとんがり帽子をお召しになっておられます。
私はカノン様と手を繋いで町を歩きます。まずは服屋を目指しましょう。
人の縁とは不思議なもので御座います。
ほんの1ヶ月前まで、私は殿方に愛される事など無く、教会で朽ちていくものと考えておりました。
ほんの10日前までは、傷物の下働きの奴隷として、一生を終えるものだと考えておりました。
でも、今は違います。
私の手をこうしてしっかりと握ってくださる男性が居ます。
小柄な私よりも更に身長が10cm以上低く、とても線が細く、姫様と見紛うばかりの美貌と神々しさを備え、守られる側の弱々しくさえ見えるその外見とは裏腹に、カノン様は命を懸けて私を病魔から守ってくださり奴隷商と戦ってくださったのです。
この方が私の夫なのです。カノン様と繋いだ私の左の手に、少しだけ力が籠ってしまいます。
私は来月に15才の成人を向かえますが、カノン様とコスモスが成人を迎えるには後2年待たねばなりません。妻だ夫だ等と言っても、まだまだ未成年である私達の口約束です。大人から見たら可愛い戯言なのかもしれません。でも私もコスモスもカノン様の言葉を疑ったりはしません。
カノン様が成人を迎えられるその日までは、妻とは名乗りません。名乗っても信じてもらえないでしょうから。だから私もコスモスも世間的にはカノン様の通訳、兼従者としてカノン様のお側に従う事としたのです。
『アネモネ、少し貴女の眼を貸してください。帽子を被っていても日中の石畳の照り返しは私の眼に優しくありません』
「はい、私の全てはカノン様の物です。ご自由にお使い下さい。いかがすれば宜しいでしょうか?」
『アネモネの眼に映る景色を、接触テレパスで私に見せてください』
「そのような事ができるのですか?」
『アネモネと私の間なら出来ると思います』
・・コスモスと私の間なら出来たのですから・・
「はい。どうでしょうか?」
カノン様は歩きながら目を閉じられたようです。帽子に隠されていても、繋いだ手を通して、カノン様の心や感覚が伝わってくるから私には分かるのです。
・・ありがとう、アネモネ。貴女の眼を通しても、きちんと世界を見る事ができました・・
今私の眼は自分とカノン様の為に使われています。視線は前方、そして私の足元、カノン様の足元、そして又前方と、カノン様が歩くのに不自由しない情報を捕らえなければ成りません。
服屋への道順を私は知らないので、カノン様が道順を判断できる情報も必要です。
普段よりはずっと気を使って、それでも何とか服屋の店先にたどり着きました。
町の規模の割には、随分と立派な服屋に思えます。
「これはカノン様、いらっしゃいませ。本日のお供はコスモスさまではいらっしゃらないのですね」
「はい、私はカノンの第2通訳のアネモネ・トリフォリア・トーゴーです。本日は私の服を購入するのが目的ですので、コスモスではなく私がお供して参りました」
カノン様はこの店で、10日位の間に随分とお買い物をされたらしく、すっかり店主に顔を覚えられてしまったご様子です。
この町の帽子屋では、とんがり帽子を入手するのが困難だとカノン様から聞いていましたので、私用のローブにはフード付きの物を選びました。コスモスの物と同様、薄い灰色の物です。
でも、カノン様は全く値段を気にしていないようですが良いのでしょうか?
このローブ、生地を見ても表地が上質のウール、裏地がコットンとシルクの混紡で、縫製も2重になっており手間が掛かっているのが分かります。これ、結構なお値段がしてしまいそうです。
・・まだ処分できる魔宝石がありますから値段は気にしないで下さい・・
(え?でも、多分金貨1枚では足りませんよ)
・・今更です。既にこの店では金貨を何枚も使っています・・
あぁ、成る程ぉ。店主が顔を覚えてしまうわけですね。
ローブの他に必要なものとして、長袖ワンピースを1枚、半袖ワンピースを1枚、ノースリーブのAラインワンピースを1枚、長ズボンを3本、靴下を6足、シルクのショールとニットのショールを1枚ずつ、それだけはそろえなさいとカノン様が仰ったので購入します。
着替えが3着もあるなんて贅沢だとは思ったのですが、自分が治療を受けていた際、毎日新しい服に着替えさせて貰っていた事を考えると、衛生管理のためには必要なのだろうとも思えます。
買った衣類はきちんと畳んで、作って頂いたトートバッグと言う肩掛けの大き目のバックに仕舞います。
さすがにローブは仕舞えないので、そのまま着て帰る事にしました。
カノン様はコスモス用に1枚長袖ワンピースをお買い求めになられました。
私用に仕立てて下さったくるぶし丈ワンピースがとても大人っぽく出来あがったので、旅をするのに裾さばきが大変だけど、コスモス用にも1着くるぶし丈の服をプレゼントするのだそうです。
服屋を出てからカバン屋に参ります。背負い紐を注文したのが珍しかったのでしょう、ここでもカノン様の事を覚えていらしたようです。
宿でカノン様用の中型カバン、コスモス用の大型カバン、そしてそれを背負えるようにするカバン留めベルトは見ています。カバンを背負えるのなら、私もコスモスと同じように大型のカバンを選びましょう。私用に防水のしっかりした大き目の旅行カバン、そしてそれを背負えるようにカバン留めのベルトを注文いたしました。
最後に靴屋にも行きます。ここの靴屋もカノン様の事を覚えてらしたようです。
私の足型を取ると、続いて私の腕で3ヒロの魔宝糸を計ります。
魔宝糸とお金を渡して、革靴の製作を依頼しました。
よろしいのでしょうか、3軒の店で、私の買い物だけで金貨が何枚も消えていきました。
自分の為だけに買い物をするのなんて何年振りでしょう、実家で暮らしていた時以来です。
幸せです。カノン様と一緒にお買い物をし、カノン様から愛情を頂き、そして今、カノン様と手を繋いで2人で歩いているのです。
本当に幸せです。
『・・・アネモネ。肩に羽織っているショールを頭から被り直し、ローブのフードも被って下さい』
「カノン様。いかがなされたのですか?」
『コスモスからのテレパスがおかしいのです。コスモスが無理にテレパスを遮断しようとしているみたいです。理由は分かりませんが、コスモスに危険が迫っている可能性があります』
「そうなのですか?」
私もコスモスの気配を感じようと試して見ます。確かに、コスモスの気配が全く感じられません。
『アネモネ、貴女の服は魔宝糸の加護で守られていますが頭は守られていません。だから魔脳布のショールで頭を守って下さい』
「はい!」
『急いで。テレ・ポートで宿の部屋まで飛びますよ!』
「はい、今ショールを被ります!」
私はローブの下からショールを抜き取り、それを頭から被ってアゴの下で結びます。そしてローブのフードをしっかり被りました。そんな私をカノン様がローブの上から抱きしめて下さいます。
と、次の瞬間、私たちは宿の部屋の中に立っていました。
カノン様のテレ・ポーテーションで跳んだのです。
窓を閉め切った暗い部屋の中、ベッドの横の通路側に私とカノン様が”跳躍”で出現しました。
部屋の中には後2人、ベッドの横の窓際のテーブルの側にコスモスが、そして閉じられた出入り口のドアをふさぐ格好で粗末な服を着た1人の少女が立っていました。
少女はカノン様と同じくらいしか背丈が無くて線も細く、茶色の柔らかそうな髪はコスモスと同じように背中の真中辺りの長さで無造作に切られています。
コスモスも少女も突然現れた私たちに驚いたはずなのに何も言葉を発しません。
そして、見知らぬ少女の両の手には2本の短剣が握られています。むき出しの刃からは赤と黄色のオーラが立ち上っています。あれは魔宝石を埋め込んだ魔剣なのでしょう。
ドアも閉じられ、窓も閉められた薄暗い部屋の中を照らす2本の魔剣の放つ怪しいオーラの輝きを、不謹慎ながら私はとても美しいと感じていました。
1人残っていたコスモスが、魔剣の少女に話しかけます。
「パンジー。私は抵抗しませんから、その短剣を収めてください。今現れた2人の魔宝使いに怪我をさせるような事があれば、私は貴女に火炎魔宝を使わなければなりません」
パンジーと呼ばれた少女は黙って立っています。
でも、その立ち居振る舞いに隙がないのは、素人の私にも分かります。私が風魔宝を発動するより速く、彼女の魔剣が振るわれのでしょう。
「パンジー。抵抗しない証拠に、私の指から魔宝石を外します」
そう言うと、コスモスは右手から火のルビーの指輪、左手から風のサファイヤの指環を外し、握り締めました。
「パンジー。短剣を収めてくれませんか?」
パンジーと呼ばれていた少女が、初めて口を開きました。
「コスモス。妹の私より、そこの2人の娘魔宝使いの命が大切なのか?」
これが私たち3人と2振りの魔剣を持つ戦闘奴隷パンジーとの、あまりにも唐突なファーストコンタクトだったのでした。




