第45話:緑の魔宝陣
”女同士”と言う言葉に、カノンは非常にイヤな既視感を覚える。
・・アネモネは、ボクを何だと思っているのですか?・・
(カノン様は精髪姫です!、女性です!!)
やはり誤解させていたのか。又、同じ事を繰り返すのかぁ・・・
・・何度も言いますが、私は精髪姫ではありません、男性です・・
(ええぇっ!?、精髪姫は男性なのですか!?)
・・だから私は姫ではありません、男性なのです・・
(でも白いお肌に似合う、美しい紅を唇にさしていらっしゃいますよね?)
・・この瞳と同じです、唇の赤も体質なのです。紅はさしてません!、アネモネに何度口移ししても、あなたの体に紅は移らなかったでしょう?・・
真っ赤になったボクの反論に、アネモネもほほを赤らめた。
(自分の唇に紅が移ったかどうか等、鏡も見ていないのに分かりません)
・・それにしても貴女の精神感応力であれば、ボクの性別など間違えるはず無いでしょう?・・
(ですが、コスモス様とおそろいのオーダーメードにしか見えないワンピースをお召しになっております。どう見ても女性です!)
・・この服は既製品を自分で手直ししたものです。旅をするのに男女2人連れより女2人連れの方が有利と思われたので、このような服装なのです・・
(では・・)
(では・・・)
(カノン様は本当に男性なのでいらっしゃいますか?)
・・はい、男性です・・
「あぁ・・」の様な声を発して、アネモネは目を閉じてしまった。
治療行為とは言え、ボクはアネモネの体の全てを見てしまっているし、体の全てを触ってしまっているし、口移しで水や食事を与えている。
アネモネはボクの事を女だと思ったから受け入れてくれていたけど、男に体を見られたり触れられたりしたと気が付いたのだ。恥ずかしくて悔しくて我慢ならないのかもしれない。
でもボクはアネモネを失うわけにはいかない。
ボクの為に命を懸けようとしてくれたアネモネを失いたくは無いのだ。
・・結果的にだます様な形になってしまいました、アネモネ。許して頂けませんか?・・
(...)
・・アネモネ?・・
(怒ってなどおりません、嬉しいのです)
・・アネモネ?・・
(私の様な者を求めて下さる殿方が現れるなど、想像もしておりませんでした。それがカノン様であるなら、なお更です。私は只、教会で朽ち果てていくものと考えていたのです)
・・では、ボクを受け入れて下さるのですか?・・
(勿論で御座います。カノン様が男性で、この身を捧げる事が出来るなど望外の幸せで御座います)
こうしてボクは、この世界で2人目の女性と結ばれる事になった。
だが、コスモスの時と事情が違う。
コスモスに、本当に残酷な事をお願いしなければならない。
『コスモス』
「はい」
『アネモネに分からぬよう、声で話します。貴女は、はい、か、いいえ、で返事をして下さい』
「はい」
『これから何をするか、理解していますか?』
「...はい」
『では、アネモネの服を全て脱がし、アルコール消毒してください。ボクは自分の身体を消毒します』
「...はい」
コスモスはしつけられた従者として過不足無く、丁寧にアネモネの身体を清浄にした。
恥ずかしいのかアネモネは、目をつぶってじっとこらえている。
まだ昼間だけど一応初夜だ。婚礼の夜の作法として、ボクは裸の身体に7属性全ての石を身に付ける。アネモネの魔宝石は指輪にしていないので、皮袋に収めたまま、左手で握ってもらう。
それが済むと、ボクは裸のアネモネに寄り添ってベッドに横になる。
ベッドサイドで見守るコスモスが、ボクとアネモネに魔宝のテント布をかけてくれる。
『コスモス』
「はい」
『もうしばらく、そこに居て下さい』
「はい」
・・アネモネ・・
(はい)
・・ボクでいいのですね?・・
(カノン様がいいのです)
・・ではまず、誠実の刻印を・・
(誠実の刻印ですか?)
・・はい、誠実の刻印です。お互いの唇に、舌で刻印を刻み合うのです。互いを思う心がある限り、この刻印は消えません・・
(はいっ!、はいっっ!、カノン様っ!)
長い長い時間をかけて、ボク達は刻印を刻みあった。
ベッドサイドで、コスモスはそれをじっと見ていた。
『コスモス』
「はい」
『残酷なお願いをこれからします』
「はい」
『ボクの体は病み上がりで体力が無く、種族の刻印を刻める状態にありません』
「...はい」
『アネモネの手も、ボクを手助けできる状態にありません』
「はい」
『本当にごめんなさい。コスモスの技術で、ボクの身体を刻印が刻めるように刺激して下さい』
コスモスの両の目から涙がぼろぼろあふれ出た。
「ふぁ、ふぁい」
そしてベッドの足元のほうから、カノンとアネモネの2人が寝る布の中に頭を入れて、交配奴隷時代に仕込まれた様々なテクニックをカノンに対し駆使した。
本当は、コスモスがカノンを受け入れられない時用に取っておいた舌の先をつかう技も、出し惜しみ無く使った。
『コスモス』
「はい」
『ありがとう、これからは2人だけの時間にさせて下さい』
「はい」
ベッドを出たコスモスは、そのまま静かに部屋を出た。
そして廊下でうずくまり、1人膝を抱えて泣いた。
何が悲しいのか分からないけれど泣いた。
自分はカノン様の求めに応じただけだ、悲しむ事など何も無いはずだ。なのに何故涙が止まらない?
そして残酷なことに、こんな時でもカノンとコスモスの心は繋がったままだ。
何がどうなっているのか、全て伝わってしまう。
そしてついにその時を迎えた。
『生』の『緑の魔宝陣』が部屋の壁を突き抜けて現れ、コスモスの『白の魔宝陣』の時と同じ様に、世界に放たれ消えていった。
コスモスは、緑の魔宝陣を見るのは初めてだった。
それはとてもきれいな、命の輝きを感じさせる魔宝陣だった。
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前回の『白の魔宝陣』と同じく、『緑の魔宝陣』は世界を一息で駆け抜けた。
当然のことだが、これだけ巨大な魔宝の発動だ。
世界に向かって聖のソナーを放った聖魔宝の使い手、その謎の魔宝使いを捜して単騎で探索の旅をしているカンターク教司教、クルス・フォン・ワイマール子爵の闇魔宝が探知しないはずが無い。
彼は魔宝陣発動のおよその方角を確認すると、愛馬の歩みを速めた。
先日入手した見事な『聖』の魔宝石といい、今回の魔宝陣発動といい、探索の旅が確実に終焉に向かっている事を彼は確信していた。
そして、2人の娘魔宝使いの行方を追っているのはクルス・フォン・ワイマール子爵だけではない。
パンジーも又、彼女が持つ2振りの魔剣に埋められた魔宝石の魔宝探査術式を使って、『緑の魔宝陣』の明確な反応を確認したのである。




