■行け行け精髪姫! Episode 001
「行け行け精髪姫!」について。
カノンの話「逃亡奴隷少女、拾いました…」と
セイネの話「魔宝使いの セ・ン・パ・イ」で、
全く同じ内容を載せています。
両方を見る必要は有りません。
「逃亡奴隷少女、拾いました…」の17話「絆」と、
「魔宝使いの セ・ン・パ・イ」の12話「絆」は、
サブタイトルが同じだけの別の話です。
「それは本当なのですか?おじい様」
月子が声を荒げた。彼女はカノンの元婚約者なのだ。そうなるのも無理はあるまい。
「いや、可能性の話だよ。可能性は、誰にでもある」
”可能性”と言う曖昧な言葉で、ボク等の祖父にして『救国の英雄』東郷 神聖は言葉を濁した。
あの魔宝事故から3年が経っていた。
カノンが消え、ボクが女性化して魔宝の力の大半を失い、ボクとカノンの婚約者だった桐生院美夜・桐生院月子の魔宝の成長が止まってしまった、あの事故から3年が経っていた。
この春から、美夜は国立魔宝大学付属第一高等学校の高3、ボクは高2に進級し、月子が新1年に入学することになる。
特別失踪宣告を出していないので法律的にはカノンはまだ生きていることになっているが、流石にそれを信じ続ける事ができない程度には時は過ぎていた。
そんな時に、祖父、神聖が言い出したのである。
「もしかしたら、カノン君の姿を見られるかもしれないよ」
===
発端は祖父の研究である。
国防海軍No2の地位まで出世した祖父は退役後、何故か国立魔宝大学工学部の客員教授に招かれた。
自分の研究室を得た祖父は、全く工学的でない研究を始めてしまった。
研究テーマは「物理事象を伴わない魔宝の発動」である。
魔宝力も、知力や体力と同じく、訓練して鍛えれば鍛えるほど才能の限界までは成長するものである。
ただ魔宝力は強力すぎて、ある程度以上になると鍛えるのが難しくなる。
例えば可能性の話だけど、核爆弾以上の魔宝力を得ようと訓練して、うっかり核融合させて島が蒸発してしまったり、ためしに大きめの隕鉄を地表に落下させたら巨大クレーターを作って氷河期を巻き起こしてしまったり、宇宙に向かって放出した力が原因で新しい星座を作ってしまったり、等など...
魔宝もある限界を超えると、危険すぎて訓練すら出来なくなってしまうのである。
そこで注目されるのが祖父の研究だ。
物理的改変を一切伴わないで魔宝を力一杯・全力全開で使うことができないか?が、出発点であった研究は、「異世界の扉を開く為に使用する」と言う、およそSFやオカルト的な方法で魔宝力を消費する研究へと進んでいったのだそうだ。
祖父を支えたのはひとつの考え、「巨大な魔宝を持つ魔宝使いなら死んでも魔宝の残滓を感じるはず、しかしカノンの消えた後に残滓を感じなかった」事である。
祖父は考えた。
ボクとカノンの巨大魔宝実験の失敗で、SFやオカルト的ではあるが、異世界への扉が開き、カノンは其処へ飛ばされたのではないだろうか?、と。
だからカノンの魔宝の残滓を感じなかったのではないだろうか?、と。
で、あれば、あの巨大魔宝実験を安全に再現できれば、再びカノンと逢える可能性はある。
問題は2点だ。
1つ目、あの実験再現には、魔宝力全盛期のカノンとボクの力が必要だ。もちろんカノンはココに居ないし、ボクも力の大半を失っている。
でも、美夜と月子の魔宝力が驚異的に伸びている。ボクの力も大切なあの人のおかげで随分と戻ってきた。今なら3人合わせれば、当時の2人分の魔宝力に届くかもしれない。
2つ目、巨大な魔宝力が揃ったとして、それを安全に使えるか?、だ。
前回は、無関係な星を1つ消し去った上、地球上でも多くの魔宝を暴走させてしまった。その轍を踏むわけにはいかない。
でもおじい様がお話くださったという事は、その研究成果にそれなりの確信が持てての事なのだろう。
「で、どうなさるおつもりですか?セイネさん、月子」
『英雄の森』の家で、3人一緒に湯船に浸かりながら、美夜が尋ねてきた。この1年で、美夜の胸はけしからん位に成長している。分けて欲しい。
まぁ、ボクだって少しは成長した。高2にして、ようやくジュニアブラサイズにまで育ったし、前回の精密検査ではそろそろ初潮が来るかも、と、まで言われたのだ。
「何で迷うの?私は逢いたいわよ、カノン君に」
月子は迷いが無い。
「今更、”元”婚約者に逢ってどうするつもりなのですか?」
美夜は月子に対しては容赦がないな。
「だからこそよ。きちんと失恋させてくれないから、この3年間苦しんだのだから」
月子の中ではカノンは既に「過去の男」扱いなのか?
「セイネさんはどうなのですか?」
美夜が今度はボクに振ってきた。
そんなの答えは決まっている。
「そりゃ、逢えるなら逢いたいよ。双子の兄だもの」
「そうですよねぇ」
美夜は暫く考えていた。
「私は、”私達”が作り上げつつある”新しい関係”に波風を立てたくは無いのですが、2人がそう言うのなら協力しましょう」
これで話が決まった。
ボクの身体の負担を考えて、実験は今度の満月の夜。おじい様の研究室で行うことになった。
それまでに、あるだけの魔宝石、魔宝具、魔宝衣を準備しないとね。
3年前の魔宝実験の夜を思い出しながら、ボクは『強欲の胃袋』に、学校で使っているセカンドクラスの魔宝石をしまった。




