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(旧) 逃亡奴隷少女、拾いました……  作者: しゅんかしゅうとう
第2章:4人の旅出
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第33話:サンドイッチと魔宝石

「一番安いパンは、雑穀全粒粉のこの黒パンだ。1本銅貨30枚。大銅貨なら3枚だ」


パン屋の答えを、ギースがパンジーに教える。

「その皮袋から大銅貨を3枚出せ。それでパンが買える」


「だめだ。旦那様から”大銅貨1枚でパンを買え。それを1日の食料とする”と言われた。1度に3枚を使うことは出来ない」


ギースは少し困ったが、パン屋に向かって「俺が責任を持つからこのパンを3つに切り分けてくれ」と頼んだ。

戦闘奴隷として育てられたパンジーは、簡単な計算も金の使い方も習ってはこなかったのだろう。

切り分けられた3つのパンを見て、ギースはパンジーに語りかける。


「取り上げはしないから、まず大銅貨3枚を袋から取り出してみろ。うん、そうだ。」

パンジーが大銅貨を取り出したのを見てギースが続ける。


「パン1本と大銅貨3枚を交換できると言うのは、3日分の大銅貨と3日分のパンを交換する、そう言う意味なのだ。今日は特別にパン屋の親父にパンを切り分けてもらったからよく見ていろ」


3つに切り分けられたパン全部を集めてギースがパンジーに説明する。

「ほら、これが大銅貨3枚分のパンだ。よく見ていろよ」


1欠片目のパンを取り分け「これが1日目のパン、大銅貨1枚」

2欠片目のパンを取り分け「これが2日目のパン、大銅貨1枚」

3欠片目のパンを取り分け「これが3日目のパン、大銅貨1枚」


パンの欠片と大銅貨1枚を1つずつ並べていく。

「これが、パン1本と大銅貨3枚を交換するという事だ。1日1個パンを買うのではない。3日分の金で、切り分けると3日分になるパンを1個買うのだ。わかったか?」


「うん。よくわかった」


「なら次にパンを買いに来るのはいつになる?」


「3日でパンを食べ終わる。4日目だ」


「その時、大銅貨を何枚払い、パンをいくつ買う?」


「大銅貨3枚を払い、3日分になるパンを1個買う」


「パンジーは賢いな」


ギースはパンジーの麻袋にパンを詰めてやりながら、パン屋に向かって言った。

「すまんな、だんな。この娘が4日後に又来るから、その時もパンを売ってやってくれ」


「あいよ、その娘は何なんだ?」


「俺もよく知らんが、森向うの男爵様の使いだ。粗相があると男爵様ににらまれるぞ」


「あぁ、心しておくよ」


ギースはその他にも、町で生きていく智恵をパンジーに与えた。

「この国は大公様と大司教様の教えとして、糞小便から病気が移る事があるので、街中に糞尿を捨てることが禁止されている」


「わかった」


「だから、我慢できなくなったら街中でなく、森や草むらでする事。街中ですると、兵隊にパンを買う金を取り上げられることもあるので注意だ」


「わかった」


「体があまり汚れていると、やはり病気を移すと嫌われる。あのパン屋にも入れてもらえなくなる。寒いだろうが、何日かに1度、人の見てない夜中にあの水場で体を洗え。ほら、このタオルはくれてやる」


「わかった、ありがとう」


「雨が降ったら教会、ほら、あのとんがり屋根の建物だ、あそこの軒下の目立たない所で雨宿りさせてもらえ」


「わかった」


「雨が続くようなら、教会の中に入れてもらえ。でもその場合はパン1日分のお金を寄付しないといけない。だからその時に備え、毎日少しずづパンを残しておけ。あげたハムやチーズも少しずつ食うんだ。お前の金ではもうハムやチーズは買えないからな」


「わかった」


「後は・・・後は・・・畜生、もう教える事がねぇ・・・!!」


「ギース」


「何だ」


「このパンの食べ方を教えて」


「何だお前、パンも食べたこと無いのか?」


「食べたことは有るけどギースに教えて欲しい」


「・・・そうか。なら、よく切れるナイフを出すんだ」

パンジーは切れ味優先の『技の1号』を取り出した。魔剣でパンを切るのかよ、ギースは苦笑する。


「そのナイフで、パンをなるべく薄く切るんだ。4枚切ればいい。固いパンだから厚く切ると食べ辛いぞ」

パンジーは慣れた手つきでパンを薄くスライスする。4枚のパンが切り終わる。上手いもんだ、あの薄さに切れるなら、一日分を12切れ、1日3食を食べたとして1回に4枚のパンを食えるだろう。


「次に、チーズも1枚薄く切る、ハムも1枚薄く切るんだ」

言われた通り、チーズとハムを薄くスライスする。ギースはその厚さを目で確認し、一度にあの程度ならハムもチーズも1か月分位にはなるだろうと目算をつける。


「最後に、2枚のパンの間にチーズを挟む、残った2枚のパンの間にハムを挟む。これでサンドイッチの出来上がりだ」

パンジーがサンドイッチを作り上げる。


「パンジー、それがこれからのお前の1回の食事の量だ。1度に4枚より多くパンを食べたり、1日に3回より多くパンを食べると、パンが足りなくなる。わかるか?」


「うん、わかった」


「そうか・・・コレで本当に、教えることは最後だ」


パンジーは、チーズとハムのサンドイッチを半分に切った。


「何してるんだ、お前?」


「ギースは昨日、塩とカユを分けてくれた。今日は私が分ける番だ。いっしょに夕食を食べた仲間だから」


「・・・そうか、ありがとよ。そのパンは固いので水が無いと食べ辛い。お前のヤギの胃の水も分けてもらえるか」


「うん」


「ありがとうな」


「・・・ギース」


「何だ?」


「私の体は旦那様の所有物だ。だから種付けはダメだ。でも、そうしないのならどこを触ってもいい」


「・・・いや、そう言うのは公衆浴場とかで済ませるので不要だ。お前から貰うのは、この半分に分けたサンドイッチだけで充分満足だ」


日の落ちた井戸端、星明りの下、中年男と麻マントの少女は2人地べたに座って固いパンのサンドイッチと1つの水筒の水を分け合って食べた。

美味い、本当に美味い夕飯だ。2日続けてこんなに美味い夕飯を食えるなんて俺は本当に幸せだ、ギースは心からそう思った。

そしてこの晩餐が、ギースが戦闘奴隷パンジーを見る最後の機会となった。


 ===


ナハルド公国ダイル公爵領ハルア町の小さな教会に暮らすアネモネ・トリフォリアは、自分の今居る教会が火に包まれていく様を呆然と見ていた。カイン王国の手の者が、愚かにもかの国の国教たるカンターク教の教会の建屋へ火を放ったのだろう。

これが精霊様のお導きであるなら、このまま精霊様の御許へ行こう、そうも考えた。

だが、鳴り響く沢山の軍靴の足音に、その考えを改めさせられる。

「戦勝国の一番の戦利品は、敗戦国国民を奴隷として捕縛すること」これは今までの3年間の教育から得た知識であり、そしておそらく真実だ。


このまま掴まれば、自分は奴隷とされるだろう。それも、最前線に送り出され、自国を、父を、母を、攻撃させられる事になる魔宝使い奴隷にされるだろう。


愛する国に弓引くような事をさせられたくはない、このまま掴まるわけには行かないのだ。

でも自害はダメだ、教義に反するので出来ない。

なら逃げるか?。だが女の細足では、軍隊から逃げ切るのは困難だろう。

最後の手段、魔宝石を捨ててしまうか?、どうせオッド・アイを際立たせるだけの物だ、持っていても使わないだろう。

それもダメだ。自分には治癒が可能な生魔宝があるのだ。この戦争で怪我をした人を救えるかもしれないのに、その手段を放棄することは精霊様の教えに反する・・・

石を捨てる事は出来ない・・・


では、どうすれば良い??

靴音はどんどん近付いてくる。


火の付いた教会の扉が勢いよく開かれた。

そこには甲冑に身を固めた兵士が何人もいる。

訛りのきついカイン王国語の怒鳴り声が響く。

もう逃げられない。


アネモネ・トリフォリアは、皮袋から自分の魔宝石を取り出し、口に放り込む。そしてゴクンと一気に飲み込んだ。

直後、木造建屋の教会の天井が崩落し、アネモネは炎の下敷きとなった。


 ===


「ねぇ、コスモス」


「はい、カノン様」


「このツボの中にある油を温めてください。あまり暖めすぎると発火するので注意して下さいね。湯浴みより、少し熱い位がいいです」


「はい、カノン様」


暖めた油の中に、カノン様は”蜜蝋”と言う物を少しずつ削っては入れ、棒で撹拌して溶かしていきます。

蜜蝋を入れる量が増えると、だんだんと油が白くにごり、どろどろしてきました。

今度はそこへ、石鹸水をポタリ、ポタリと加えていきます。


「カノン様、これは何なのですか?」


「はい、ヘア・コンディショナーです」


「ヘア・コンディショナーとは何ですか?」


「石鹸は、体と髪の毛から汚れと油分を取り去り、アルカリ性にします」


「アルカリ性?、はい」


「ビネガー液ですすぐ事により、アルカリは中和できますが、落としすぎた油は戻ってきません」


「油が落ちすぎるとどうなるのですか?」


「髪も皮膚も、油分を失いすぎるとカサカサに乾いてもろくなります。冬、手がカサカサになったことは有りませんか?あの状態です。髪にも同じ事が起き、枝毛など毛が痛むのです」


「そうなのですか」


「そこで、石鹸で髪を洗い(シャンプー)、ビネガー液ですすぎ(リンス)、最後にコンディショナーで補油保湿します。適度な油分を与え、その油の薄い膜で髪の乾燥を防ぐのです」


「直接、髪に油を塗るのではダメなのですか?」


「無塩バター等は整髪剤としても使えるようですが、あまり油分が多すぎても髪がベトついたり髪に付いたホコリが落ちなかったりと、良くないのです。コンディショナーは髪全体に行き渡らせた後、水で濯いで洗い落とします。髪の表面に極薄っすらと油分を補うのです」


「なるほど、よくわかりました。カノン様のその美しい銀の髪は、そうやって保たれてきたのですね」


「コスモスの赤い髪も美しいですよ。瞳は風魔宝の青、髪は火魔宝の赤、コスモスらしく、素敵だと思います」


「ありがとうございます。コンディショナーは髪の毛にしか使えないのですか?」


「そうですね、基本は髪の毛ですが、保湿クリームでもあるので乾燥した手のひらとかに使っても大丈夫です。材料は全て食べられるものだけで作ってありますし。あと、火傷した部位を乾燥から防ぐのにも使えると思います。薬ではないので痛み止めとか治癒効果はありませんが」


私の火魔宝の力を使って、カノン様はコンディショナーの作成に成功なさりました。

ショートヘッド歯ブラシやテント・ツエルト・タープ用のシートはカノン様お1人で作れるという事なので、今日の私はお買い物です。

(テント・ツエルトとは布で作る簡易ハウスだと聞いてますが、タープとは何なのでしょうね?、カノン様は本当に物知りでいらっしゃいます)

カノン様がお金を使う様子を今まで見てきたので、私1人でもお金を使うのは大丈夫だと思います。

それにいざとなれば、離れていてもテレパスでお願してカノン様が私の目・耳・口を使って交渉を代わり、助けて頂く事ができますので。


今日の買い物はパンと紅花です。

パンは、何種類か買ってくるよう言われています。

美味しいパン、日持ちする硬いパン、そこそこ日持ちしてそこそこ柔らかいパン、旅に持っていくのにはどの様なパンが良いのか、実際に何日か保管して確認するのだそうです。


そして雑貨屋では、紅花の入荷が有ったか確認します。

「このコット、生成りのコットンに『聖銀の糸』『白銀の糸』で細かい刺繍をしてあるので目立ちませんが、紅花で染めると凄いですよ」


「どう、すごいのですか?」


「魔宝糸はそのままでは染色されないので、鮮やかな赤い布地に、白銀に輝く刺繍が浮かび上がるはずです」


それを聞いて以来、私もカノン様も紅花、または黄花の入荷が楽しみなのです。

インディゴブルーに染めるのは、カノン様のお好みでは無いとの事でした。


小麦精粉白パン、ライ麦全粒粉黒パン、雑穀全粒粉黒パンの3種のパンを買ってトートバッグに仕舞った後、いつもの雑貨屋へ今日は1人で向かいました。

あれ?、いつもと違い、お客様がずいぶんと多いですね。

様子を見ていると、皆様、蜜蝋とか、ワックスとか、オリーブオイルとか、ふた付きツボとか、カノン様が先日コンディショナー用に買い求めた物と同じ品を、どんどん買われて行くようです。

店の主人に尋ねました。

「今日はやけにお客様が多いですね」


「あ?、あぁ。そうさなぁ、きっと、隣の薬屋も同じ位繁盛してるはずさ」


「何故ですか?」


「明日から久しぶりに奴隷市が開かれる為さ」


「奴隷市・・・ですか」


「聞いてないのか。遠征軍が町を1つ落としたので、新鮮な戦争奴隷が入荷するんだとさ」


「・・・それと商売繁盛はどこに繋がりがあるのですか?」


「焼印だよ。奴隷を買って焼印を押して、それが原因で死なれたら元も子もないので、死なない程度に治療してやる必要があるからな」


もう消えたはずの右肩に、記憶の中の痛みが蘇りました。


「市は明日の夜明けから。場所は中央広場だよ」

奴隷市関連商品を対応している店主が、他の客にもそう声を掛けていました。


紅花はまだ、入荷していないそうです。

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