第27話:靴
靴作りの職人の親父は変わった人だった。商売気が無いと言うか、無愛想と言うか、・・・
「こんにちわ。こちらは異国の遊学生カノン・トーゴー様、私は通訳のコスモスです。私の足に合う革靴を求めています。お願いできますか?」
恒例と成った挨拶を、手を繋いだコスモスの口を通してボクが言う。
靴職人は、コスモスの顔を見て、そして足を見た。
「靴屋に靴を頼まないで、どこに頼むつもりなんだ?」
どうやらコレが先ほどの質問の回答らしい。靴は作ってもらえそうだ。
「では、よろしくお願いします」
「値段も聞かずに通訳のあんたが勝手に決めていいのか?」
一々うるさい親父だ。
「確かにそうですね。おいくらですか?それと出来上がりにどの位時間がかかりますか?」
「値段は銀貨50枚、仕上がりは5日後でどうだ?」
コスモスが、ボクの耳元で何かささやき、相談しているふりをする。ボクが大袈裟に肯く。
当然、ここまでのやり取りは、コスモスからの接触テレパスで全部把握しているので、単なる演技だ。
「それで構いません。よろしくお願いします」
「では、そのイスに座って裸足になり、この革の上に足をおきな。足型を取る」
コスモスがイスに座り足型を取られる。彼女が座り隣にボクが立つって、実は結構珍しい光景かもしれない。
親父は器用に、皮の上に墨でコスモスの足の外形線を写し取っていく。
それが済むと足の各部の寸法を、ヒモを巻きつけて測っていった。
親父がボクの履くライトブラウンのショートブーツをチラリと見て言った。
「連れのお嬢さんの履くブーツの様なデザインでいいのか?」
これに対しては、コスモスが自分の言葉で答えた。
「私が靴に求めるのはデザインではなく、頑丈さと履き心地です。私が今まで履いていた布靴を見て下さい」
親父が、裸足になったコスモスの足元に並べておいてあった布靴を手にとって繁々と見る。
コスモスが親父に自分の言葉で語る。
「その靴はカノン様が私の足に合わせて作って下さった物です。靴底は魔宝糸で繕ってあり頑丈で、履き心地もとても良いです。しかし側面布地部の耐久性に難がある為、今回、革靴に買い換えようと考えました」
こう、コスモスは言葉を閉めた。
「銀貨50枚の靴には、その布靴以上の出来を期待します」
親父はじっと布靴を見ている。
そして何かじっと考える。
親父がぼそりと言った。
「革靴代銀貨50枚に加え、魔宝糸代におそらく金貨1枚程度が必要に成る」
コスモスの口を借りてボクが答える。
「聖銀の糸、白銀の糸、青銅の糸なら持っています。どの程度の長さが必要ですか?」
親父が驚いた顔でコスモスとボクを見る。各糸1巻きずつ買っても金貨10枚近く(日本円で多分100万近く)することを知っているのだろう。
「そうか、その格好でもしやとは思ったが、やはりお嬢さん達は魔宝使いなんだな。糸はそれぞれ3ヒロ有ればいい」
「3ヒロ?」
「靴を履く人間の、腕をイッパイに広げた長さが1ヒロだ。3ヒロはその3つ分」
コスモスが聖銀の糸、白銀の糸、青銅の糸を3ヒロ計り、ショルダーバッグから先ほど買ったハンティングナイフを取り出して糸を切る。
さすがに魔宝糸なので歯で噛み切るとかは、とても出来ない。何せ白銀の糸は、布に織り込めば剣の刃を受け止めてしまう程硬いのだ。
「普通なら1ヒロ半の所を、3ヒロの魔宝糸を使って仕上げてやる。5日後を楽しみにしていてくれ」
「代金は前金で全額お支払いします」
「いいのか?」
「私も、主のカノンも、貴方を信用できそうだと判断しました」
「そうかい。ありがとうよ。5日後に又来てくれ」
「わかりました」
靴屋を出る。そろそろいい時間だ。宿に戻って夕食をとる事にしよう。
帰りがてら酒屋によって、1番小さなツボのワインビネガーを買う。シャンプー後の髪のPH調整に使うのだ。
帰りがてらコスモスと小声で話す。
「コスモスは遠慮するかもしれませんが、あと、コスモス用の帽子。私用とコスモス用の旅行カバンを購入予定です」
「贅沢すぎます、カノン様」
「今後、ロイド男爵の影響圏から離れるため、長期の旅に成ることと考えられます。その際、帽子もローブも革靴も、悪天候時に体を冷やさないためには必要です。大切な衣類や道具を雨から守るため、旅行カバンも必要になるのです」
「しかし、カノン様」
「コスモスはそろそろ、自分がボクにとってどれだけ大きな存在なのかを自覚して下さい」
「・・・」
「コスモス?」
「・・カノン様。ネークと子ヤギが仲良く暮らせるとしたのなら、それはネークの御慈悲あっての事です。子ヤギがソレを忘れることはありません」
「分かりました。気持ちの問題は、お互いが時間をかけて歩み寄りましょう。でも、道具の話は別です。私に必要なものはコスモスにも必要なはずです。原則、2人分そろえます。これはお願いではなく命令です。コスモスが苦しいと、私も苦しいのです」
「ありがとう御座います、カノン様」
「では、明日はかばん屋と帽子屋を見て回りましょう」
「はい」
「その後、コスモスの靴ができる5日後までは、多分私は部屋に篭ります」
「何をなさるのですか?」
「裁縫です。買ってきた服に魔宝糸で魔宝陣などを刺繍し、耐魔効果、耐剣効果、耐毒効果、治療効果のある服に仕立て直します。魔宝効果を大きくするため、体のラインが出るようなデザインに直す必要も有ります」
思ったより裁縫の仕事が多そうだ。
「そのほか、この世界では売っていないボク用のボクサーパンツ、コスモス用のショーツ、衛生ショーツ、ブラタイプの胸当て等を作ります」
「お手伝いできることはありますか?」
「色々あります。それは夕飯を食べてから、ゆっくり相談しましょう」
2人手を繋いで歩いていたら、宿が見えてきた。
そろそろ夕飯の時間なのだろう、いい匂いが漂っている。
一晩泊まって部屋とベッドを確認して問題がなかったら、靴のでき上がりまで5日間はこの町に滞在するのだから、宿代を先払いしておこうと考えるのだった。




