第24話:換金
飛翔魔宝で高速で飛んだボク等はカールスの町を前に、森の中で早めの昼食を取った。
そしてボクは最後の確認をした。
「では、コスモス。これから暫く、私はコスモスの目と耳と口を借ります。なるべく、ボクの手を離さないで下さい」
「はい、カノン様」
「原則、私がコスモスの口を借りてカイン王国の言葉を使い、交渉します。緊急時にはコスモスの発言を許可しますが、なるべくなら心話(接触テレパス)で話しかけて下さい」
「はい、カノン様」
「私は異国ジャパンからの遊学の身、自由市民のカノン・トーゴー。あなたは従者兼通訳のトーゴー家の家人、自由民コスモスです」
「はい、カノン様」
森の中ボクはサングラスを外してポケットにしまう。帽子をかぶっているとは言え、照り返しがやや目に厳しい。目を細めれば何とかなるが、もっと厳しくなるようならコスモスの目を借りよう。
コスモスと手を繋ぎ、森を抜け街道にでる。街道を少し進むと、いきなり森が切れ、草原が広がった。
ついにウルスドの森を越えたのだ。街道の先に沢山の家々が見える。街を取り囲む柵や塀等は無い。あれがカールスの町か。
ボク等は歩みを速めた。
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道行く人に魔宝石を換金できる宝石商か両替商の店を訪ねたら、1軒の家に案内された。
カイン王国の文字は読めないが看板の意匠から推測するに、どうやら宝石商に案内されたようだ。
コスモスと手を繋ぎ、扉を開けて店へ入った。
窓にガラスが無かった事から予想した通り、ガラス張りのショーケース等は無く、店の中央に豪華なクロスで覆われた小さなテーブル、そのテーブルの上に小さな台が4つ、その4つの台の上に1つずつ小さめの魔宝石が飾られていた。
店の奥にはカウンター、カウンターの奥に年の行った店主、カウンターの上にはもう少し大き目の石が飾られていた。おそらく、高額な石は店頭には飾っていないのであろう。
ボクはコスモスの口を借り、店主に話しかけた。
「こんにちわ。こちらは異国の遊学生カノン・トーゴー様、私は通訳のコスモスです。カノン様がお持ちの魔宝石の換金が可能か、尋ねにこの店に参りました」
店主が答えた。
「ワシはドージ・アソシンだ。ここは子供が来る様な店ではないぞ」
予想通りの反応だ。打ち合わておいた通りにコスモスと繋いだ手をチラリと見せる。
ボクの左手には、国宝級もと言われた3つの巨大な魔宝石、従者のコスモスの右手にすら大粒のルビーのリングがある。
コスモスが何気なく左手を動かす。その手には大粒のサファイヤのリングが輝く。
店主の表情が変わったのが見て取れた。
「そうですか、残念です。他の店を当たってみることにします」
引き返す素振りを見せたボク等2人を店主のドージ・アソシンの声が引き止める。
「あ、いや、すまなかった。ワシは勘違いをしていた様だ。換金したいという石を見せてはもらえんか?」
「わかりました」
「では、店の奥の打ち合わせ室へ案内する。その前に少し待ってくれ。泥棒に入られると困るので、一旦店の扉を閉める」
「はい」
ドージ・アソシンが店の扉と窓を閉め、鍵をかけた。コスモスの魔宝とボクのESPがあるから、大人1人位なら心配はしていない。
うす暗い中、案内されるまま店の奥に進み、打ち合わせ室に入る。室内は割合と明るい。間接的に外光を取り入れているようだ。おそらく、外から覗かれることの用心だと思われる。
テーブルを挟んで向かいにドージ・アソシンが座り、ボク等はこちら側に2人並んで腰を下ろした。
「それで、換金されたい石とはどれですかな?」
「こちらです」
薄桜色のネッカチーフを畳んだ上にサードクラスの小粒なダイヤのリングを1つ乗せてテーブルの上に出す。
換金レートが全く分からない上、こちらは見た目は小さな女子2人、安く買い叩かれる恐れがある。だから本命の石を出す前に、4つ持っている使捨て用のサードクラスのダイヤで様子を見たのだ。
宝石商ドージ・アソシンは少々戸惑っていた。
遊学生カノン・トーゴーの左手を飾る魔宝石は、一目見ただけで逸物と分かる。通訳の従者が持つ2つの魔宝石でさえ、とんでもない大きさをしている。
それに比べて、テーブルに出されたインディーナ石は随分と小粒であったからだ。
インディーナ石はその硬さゆえ、表面を磨き上げる事もきれいに形をそろえてカットする事も出来ないのが一般的だ。
ルビーやサファイヤなら磨き布で精密研磨し、吸い込まれるような透明感が出せるため、大きさより仕上げの美しさで価値が決まる。
しかしインディーナ石は硬すぎて仕上げが出来ないため、単純に大きければ大きい程良いとされているのだ。
ん、まてよ。
ドージ・アソシンはダイヤのリングではなく、ソレをのせた薄紅色の布地に着目した。
この色は・・・まさか・・・?!
非常に高価だと聞く(ドージ・アソシン自身は見たことさえない)金赤色の『聖金の糸』と銀白色の『聖銀の糸』を1本ずつ交互に縦糸に並べ、横糸に白色の『白銀の糸』で織った布が、まばゆい光沢を持つ薄紅色と聞いた事がある。
あああぁぁ?!、通訳の従者が纏っているニットも薄紅色だ、遊学生カノン・トーゴーの全身を覆うローブと膝の上の帽子も薄紅色をしている。この2人は一体何者なんだ??
おや?!、通訳の従者がニットの下に着ているベスト、あの薄ラベンダーはもしや、防毒効果の有る『青銅の糸』を織り込んであるのか?!
遊学生カノン・トーゴーがローブの下に着ているドレス、アレは『聖銀の糸』と『白銀の糸』で織り上げているのではないか?!
むしろこんな小さなインディーナ石ではなく、それを乗せている薄紅の布地の方を買い取りたい位だ。
そう声を出そうとして、ドージ・アソシンは初めて、そのダイヤの素性の良さに気が付いた。
な、なんだ?????!!!
その絶対硬度ゆえ、思った形にカットも出来ず、表面研磨も出来ないはずのインディーナ石のはずなのに、この小さな魔宝石は小さな三角形が組み合わさり、上から見ると正20角形、横から見ると5角形を形作っている上、表面に一切の曇りも無く、最高級の水晶よりも透明感が有る。
・・・これは本当にインディーナ石なのか?、もし本当にインディーナ石なら、とんでもない掘り出し物だぞ
「この石の硬さを確認しても構いませんか?」
ドージ・アソシンは思わず敬語で尋ねてしまう。
「硬さを調べる、とは?」
「平に磨いた鋼と鋼の間に挟み、上から鎚で打ちます。水晶やガラス玉だと砕けますが、インディーナ石なら鋼がへこみます」
コスモスがボクの方を見てボクの耳元で囁く。勿論演技だ。一応相談している振りを見せる。ボクが大げさに肯いて見せる。
「構いません。それがダイヤモンド(インディーナ石)であることを確認してください」
コスモスの口を借りて答える。
指環に付いた魔宝石がダイヤである事は、簡単に確認できた。
力を込めて打ちつけた槌をどかし、2枚の鋼の板を開いてみると、鉄より堅い鋼の板が魔宝石の形に窪んでいた。
もちろん、魔宝石には傷1つ付いていない。インディーナ石で在る事に間違いない。
インディーナ石だと確認した後、ドージ・アソシンはモノアイを使って、その小さな魔宝石を丹念に調べた。
内部に1つの気泡も無く、表面にわずかな曇りも無く、精密にカットされたその角は指が切れるのではと勘違いする位立っている。
カイン王国に知られているノミと鎚を使ったカット法、磨き布を使った研磨法では、絶対に出来ない形だ。
いったい、これを幾らに評価すればいいのだろう?
ここで買い逃したら、おそらく生涯入手することはできない一品であろう。
なら白金貨1枚(=金貨100枚)か?
上級奴隷や大きな雄牛を買ってお釣りが来る額だぞ・・
さすがにそこまでは・・・
「カノン・トーゴー様。金貨80枚でいかがでしょうか?、本来なら切りよく白金貨1枚と言いたい所なのですが、若干、大きさに物足りなさが残りますので、2欠けで金貨80枚です」
ボクはその情報をゆっくり吟味した。換算額の高い安いは比較のしようがない。それよりこの世界には金貨と白金貨があり、どうやら金貨100枚が白金貨1枚にあたるようだ。
「わかりました。金貨80枚でお願い致します」
ドージ・アソシンが立ち上がり部屋を出て行った。
戻ってきた彼の手には、1枚の木皿が添えられており、その木皿の上には大振りな金色の硬貨が8枚あった。
「それでは、この皿の上の大金貨と、そのインディーナ石を交換しましょう」
「申し訳ないのですがその大金貨の中の1枚は、金貨に両替してもらえませんか?」
「かまいませんよ」
ドージ・アソシンが再び部屋に戻った時は、手の木皿には、大金貨7枚、金貨10枚が乗せられていた。
ボクがコスモスから手を離し、ダイヤのリングを摘んで、そっとドージ・アソシンの手元へ置く。
ドージ・アソシンが金貨の乗った木皿をボクの手元にそっと置いたので、金貨をつまみ上げ、薄桜色のネッカチーフに包んでポケットにしまった。
様子を見てセカンドクラスの魔宝石も売却しようと考えていたがやめる。
当面は今回のサードクラスの石を1石売ったお金で何とかなりそうな気がする、だって金貨だもの。
そして再び、コスモスと手を繋ぐ。
「ドージ・アソシンさん、良い取引が出来て幸いと、カノン・トーゴーが申しております」
「こちらこそ。珍しいインディーナ石を手に入れられました。お国はインディーナ国なのですか?」
「いいえ、違います。ただ責任ある立場の人間は他国をよく知るようにと、カノン・トーゴーは遊学し各国を見て回っているのです」
「そうでしたか」
「ドージ・アソシンさん、もしご存知であれば、女2人連れで安心して泊まれる宿を教えて頂けませんか?、治安がよい事、トイレが清潔なこと、それとカノン・トーゴーは国の風習で体を洗うのを習慣としているので風呂が付いていれば文句がありません」
「この国の大公様と大司教様の教えで、清潔な排泄ツボと沐浴できる桶と湯は、大抵の宿にあります。当然宿代の他に、ツボ代、桶代も請求されますが、それが請求されないような宿は逆にお勧めできません。治安は、私の店のある通り沿いの宿であれば問題ありません」
確かに。治安の悪い通りでは、安心して宝石商など営めないだろう。それと想像より街がきれいなのは、トップダウンの施策が理由のようだ、いいことだ。
「公衆浴場などはありませんか?」
ここでドージ・アソシンが少し顔をしかめた。
「有るにはありますが、娘さん2人にはお勧めできません」
「何故でしょうか?」
「大きな声では言えませんが、売春の温床に成っているみたいです。又、浸かり湯をいつまでも換えない為、色々な病気が移るとも噂されています」
「まぁ、貴重な情報、ありがとう御座います」
結果的に見れば、この情報が、コスモスと行商人ギースが公衆浴場で出くわす事を防いだとも言える。
「では良い取引、ありがとうございました」
コスモスの口を借りて礼をいい、ボク等は2人、手を繋いでドージ・アソシンの宝石商の店を後にした。
手にした金貨で色々買いたいものもあるが、まずは今夜の宿を決めてしまおう。




