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(旧) 逃亡奴隷少女、拾いました……  作者: しゅんかしゅうとう
第1章:ウルスドの森
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第23話:聖の残滓

カイン王国の国教、カンターク教の大司教である私、サフラン・フォン・オレインは、目の前の王弟、かつてはカイン王国の王位第3継承者でスン・スール・フォン・カインと呼ばれていた男が今度は何を言い出すのかとじっと見つめていた。


 ===


15年前の彼は遊びほうけ、サロンの花をつまみ食いする事だけを生きがいとした”王位継承権はある”だけの、国政には誰も期待を掛けない存在だった。

そんな彼がある夜、夢を見たという。”聖女”と”闇魔女”が彼に全てを尽くし、力を貸し与えるというユメを。

そしてユメの通り、翌朝の彼には2つの力が目覚めていた。すなわち聖の魔宝と闇の魔宝が。


時同じくして先代カイン国王ハイル・スーヌ・フォン・カインが崩御し、カイン王国は動乱の時期を迎えた。

嫡男アイン・スーラ・フォン・カイン第1王子派と次男ツヴァイ・スーリ・フォン・カイン第2王子派に分かれ、カイン王国を二つに割る内戦が起こったのだ。

そんな中で、固有の戦力を持たず遊び人で末弟のスン・スール・フォン・カイン第3王子陛下の事など誰もが無視をした。戦局に何も影響を与えず、戦後の政治にも何も影響を与えないと軽んじられていたのである。


だが現実は違った。聖の魔宝と闇の魔宝を手にしたスン・スール・フォン・カイン第3王子は、国の誰よりもアグレッシブだった。


第2王子ツヴァイ・スーリ軍が王都「キーエンス」を2万の兵で取り囲んだ最悪のタイミングで、首都防衛軍最高司令官である第1王子アイン・スーラが伝染病に倒れた。

防衛軍側の状況はは絶望的だった。最高司令官が病に倒れ、その司令官にはまだ世継ぎの直系男子が居ない。更に敵兵に囲まれ首都陥落は寸前である。首脳部に近い人間程、危機を正確に読み取れた。


まず、近衛100騎が叛乱した。病で先の見えない当主の首を取り内戦の早期解決を図ったのだ。が。わずか1名の闇魔宝師の手により、精鋭と神速を誇る近衛100騎は全滅した。

文字通り全滅である。王城の中100の人の死体とと100の馬の死骸が横たわるばかりであった。魂と死と空間を操る上級闇魔宝師には、その程度、造作もないことだったのである。


次に彼は、王都に蔓延した伝染病を撲滅した。死に掛けた第1王子の顔に生気が戻ってきた。聖と生と時間を操る上級闇魔宝師には、その程度、造作もないことだったのである。


更に彼は、首都を囲んだ反乱軍2万の全ての武器。防具を空間のかなたに捨てた。結果、反乱軍は壊走した。魂と死と空間を操る上級闇魔宝師には、その程度、造作もないことだったのである。


続いて、首謀者であるツヴァイ・スーリ・フォン・カイン第2王子と、彼の1派である7貴族の当主を闇魔宝で拘束した。魂と死と空間を操る上級闇魔宝師には、その程度、造作もないことだったのである。


カイン王国内乱の機を見て攻め込んできたナハルド公国・タヌーク神国の2方面の侵攻も、カイン王国中央部で巨大火炎魔宝と、水魔宝と風魔宝のあわせ技による巨大雷魔宝で撃退した。聖と闇を使える魔宝使いにとって、一般5属性の魔宝を使いこなすなど、造作もないことだったのである。


つまりである。

スン・スール・フォン・カインの存在は戦争のセオリーの全てを変えた。何もかも変えてしまった。

万の軍勢に対し、強力な魔宝使い1名で優位性を保てることを国内外に証明して見せたのである。


かくして、各国は競って聖と闇を扱える上級魔宝師を求め探した。

現在分かっている範囲では、上級魔宝師下記の通りである。

(カイン王国で上級魔宝師が多いのは、スン・スール・フォン・カイン王弟陛下が自ら探したからである)


カイン 王国:聖3名、闇5名   7名(1名は聖と闇を兼ねる)

ナハルド公国:聖1名、闇1名   2名

サイス 王国:聖1名、闇1名   2名

タヌーク神国:聖1名、闇1名   2名

インディーナ:聖2名、闇1名   3名

----------------------------------------

合 計   :聖8名、闇9名 総計16名


カイン王国は魔宝大国と言われるだけの魔宝師の物量がそろっている。首都防衛軍に聖と闇、第1遠征軍に聖と闇、第2遠征軍に聖と闇をそろえられるのはカイン王国唯ひとつである。

つまり現在のカイン王国は2カ国に遠征軍を派遣してなお、鉄壁の国防軍が残るのである。

事実15年前の内乱に乗じて攻め込んできた2カ国、カイン王国と北の国境を接するナハルド公国、東海岸線の国境を接するタヌーク神国は、この15年で大きく領土を奪われている。


国王と王都を蔓延した疫病を取り去り、裏切った近衛兵を全滅させ、内乱も首謀者のみ捕らえ兵士は逃がして国内産業に人的被害を残さず、内乱に乗じた諸外国の進行も完膚なきまでに叩きのめした。


これだけの大戦果を挙げた第3王子が国王になると思われていたが、彼はその座を長男で嫡男のアイン・スーラ・フォン・カインに任せた。

そしてその報奨として、”聖女”か”闇魔女”以外とは結婚しない事を新国王に認めさせた。

以後、彼は王位継承権を放棄し、スンスール・ズィンセイ・フォン・カイネと改名し、カイン家から独立して彼1代で廃嫡が決まっているカイネ大公家を起こした。

前代未聞の当代のみの大公として首都キーサイエンスの北半分を国王から借領し、首都は国王と大公の2名で納める異例の形態となった。


大公となったズィンセイの動きは早かった、聖の魔宝使い2名、闇の魔宝使い4名をカイン王国内全土から発掘し、適度に功績をあげさせ爵位を取らせた。


私、サフラン・フォン・オレインもその1人で、聖の魔宝を認められ伯爵の爵位と、領地はないがカンターク教の大司教の座を得ている。

そしてズィンセイ大公は、私を時々呼び出し、大司教の役職に有る私へ協力依頼をしてくるのだ。


「先の疫病、聖の魔宝の目で見ると、小さな魔が人間の体に入り込み暴れるから起こる様に見えるんだ」


「さようで御座いますか」


「でさ、病人の出した吐瀉物、排泄物にも、小さな悪魔が入り込んでいるんだよ。これをバラ撒いたら病気が拡散しちゃうね」


「さようで御座いますか」


「今ね、排便用ツボの共通規格をつくってる所。出来たら国中に無料配布する」


「さようで御座いますか」


「ツボが排便でいっぱいになったら奴隷か、木賃宿の住人に国が金を払って糞尿を1箇所に集めさせる」


「人口1千人の村で1日1t、人口1万人の町で1日10tの糞尿が予想されます。全てを処理できますか?」


「国で火・水・風・土の魔宝使いを金を払って雇う。すでに戦局は3個以上魔宝を同時発動できる魔宝の使い手を中心とする運用にシフトしているから、軍からあぶれる単一属性の魔宝使いが沢山でる」


「なるほど」


「糞尿を火で焼き、匂いを風で飛ばし、ツボを水で洗い、焼却灰を土に埋める。魔宝使いが居れば手を触れずに清潔に処理できる」


「病気を広めぬよいお考えですが、お金がかかりますな」


「受益者負担で、糞尿ツボを出す各家庭に、ツボ1つに付き銅貨2枚とか、ツボ集配者が生活できるだけの金銭を、ツボ税として徴収する事を考えている」


「すると、夜のうちに黙ってこっそり道端に糞尿を捨てる物が続出しませんか?」


「このまま税を施行したらそうなるね。だから大司教に頼んでるんだよ。『糞尿を撒く行為は悪魔を広める行為』『背教行為である』って教育して欲しい」


「わかりました。ズィンセイ大公の望みがかなうよう、尽力いたします」


この法律が施行されて以降、宿では、宿泊代、食事代、ツボ代が請求されることになった。

だが、大量の死者の出る流行病は影を潜めた。

宿代や家庭の負担は増えたが、木賃宿の住人や軍をあぶれた魔宝使いに安定した仕事を供給し、むしろ景気は良くなった。

ズィンセイ大公がそこまで読んでいたかは知らないが、今のところ良い効果ばかり出ていた。


又、こんな事も有った。

「疫病が広まり始めた時、糞尿の処理をしていると病気が移りにくいのは確かなようだね」


「さようで御座いますか」


「では、最初の病気はどこから来るんだろう?」


「さあ、私ごときでは・・・」


「多分最初は、見えない悪魔は体の表面に取り付くんだ。もしかしたら服に取り付くのかもしれない」


「さようで御座いますか」


「そして悪魔は、体の中に入れる場所を虎視眈々と狙ってくる」


「と、申しますと?」


「悪魔は体の表面や服の表面から動いていって、まずは体の内部に繋がっている口を狙うだろう。もしかしたら、鼻、目、体表面に付いた傷からも悪魔は体内に入るかもしれない」


「どう対処すればよろしいでしょうか?」


「まず最低、10日に1回は体と服を洗って、体に付いた悪魔を洗い落とす。服も洗い清め、太陽に当てて乾かし、太陽の聖の力で浄化する」


「なるほど」


「できれば7日に1~2回体と服を洗うべきだと思う。安息日の前には清浄な体、清浄な服が望ましいだろ?」


「仰るとおりです。」


「さて、体に付いた悪魔が口や鼻に来るのには少し時間がかかるから7日に1~2度の清めでも平気かもしれない。しかし、口に届いた悪魔は、後は体の中に入るだけだ」


「どうすれば防げるのですか?」


「うがいだ。毎日、少量の水でノドの奥までうがいをし、悪魔ごと水を吐き出せばよい」


「なる程」


「洗い桶を各家庭、各宿場でそろえてもらい、家人や宿泊客に体の洗浄とうがいを徹底させるのだ、その為には、宿屋で桶代を徴収する事も考えている」


「ツボ代だけでなく、桶代も徴収となると反発されませんかな?」


「このまま法を施行したらそうなるね。だから大司教に頼んでるんだよ。『体を洗わずうがいもしない行為は悪魔を広める行為』『背教行為である』って教育して欲しい」


「わかりました。ズィンセイ大公の望みがかなうよう、尽力いたします」


この法律が施行されて以降、宿では、宿泊代、食事代、ツボ代に続き桶代も請求されることになった。

そして、名物となっていた冬の風邪の大流行病は影を潜めた。


ズィンセイ大公はその他にも、太陽消毒の概念、煮沸消毒の概念、病人に太陽消毒した清潔なシーツ、病人のパジャマの煮沸消毒、使い捨てにする包帯と言う名称の細長い紐を用いての治療、と、新しい薬ではなく、新しい治療の考え方で人の命を救っていったのだった。


 ===


カンターク教の大司教である私サフラン・フォン・オレインは目の前の王弟にして英雄スンスール・ズィンセイ・フォン・カイネ大公を見つめた。

今日は、大公の方から邸に来るよう求められたのだ。邸、とは言っても、リビング、キッチン、寝室、書斎、メイド控え室と一部屋一部屋が広いとは言え、とても大公陛下の住まわれる邸には見えないが、本人は気にしてないようだ。

大公自らが入れてくれた紅茶を飲みながら、大公の話を待つ。


「先日の聖の光、気が付いたかな?」


「先日と言いますと、あの聖のソナーですか?」


「うん、そうだ。いったい誰が打ったのだろう?カイン王国で聖の使い手は3人。そのウチ2人は私と君だ。そして1人はカリフ・フォン・フラワー伯爵でナハルド方面遠征軍の指揮を執っている」


「はい」


「全世界で聖の使い手はあと5人、サイス国1名、ナハルド公国1名、タヌーク神国1名、インディーナ国の2名の聖魔宝使いが国を出たという情報は入っていない」


「はい」


「あのソナーは第1街道方面から打たれたものだ、おそらく国内からだろう」


「つまり、現在分かっている我々3名の聖属性魔宝使い以外に、聖魔宝の使い手が国内に存在すると、そういう事になりますな」


「うん、そうなるね。で、首都から第1街道方面と言うと都市アルクス、都市コーサイエンス、カールスの町、そしてクーニエル村だ」


「クーニエル村といいますと、その昔、稀代の大魔宝師『風雲児ルイス・ロイド』が魔物の住む森を焼き払い開拓した村で、いつかはクーニエル山脈のどこかに有ると言う『聖なる森』を捜し求め、力尽きた所と聞き及んでおります」


「あぁ、聖なる森は伝説の精髪姫が『星崩し』を実践した場所と言われてるところだ。その方向から聖のシグナルが来た。気にならないかい?」


サフラン・フォン・オレインは勿論気にはなるが、自分や目の前の大公が行くわけには行かない事も理解している。

カイン王国は海と巨大山脈に挟まれ、隣接国は北のナルバド公国と東のタヌーク神国の2カ国だけだが、その2国とは交戦中である。

カイン王国に自分を含め3人しかいない聖魔宝使いは、首都防衛軍、ナルバド方面遠征軍、タヌーク方面遠征軍のそれぞれ指揮官なのだ。聖職者と言えど、戦場に出ねばならないほど、上級魔宝使いは不足しているのである。


ズィンセイ大公が言葉を続けた。

「・・・そこで調査要員としてクルス・フォン・ワイマール子爵はどうかね。彼は闇魔宝の使い手で現在は首都防衛軍勤務となっている。闇属性なら聖に反応できなくとも『魂の称号』は読める。さらに空間魔宝で遠地にいながら首都の我々に情報を送れる」


「なるほど、良いお考えですな」


こうして、カイン王国実務No2とカイン王国教会No2の腹を割った話し合いの結果、闇魔宝の使い手であるカンターク教司教クルス・フォン・ワイマール子爵がこの件の調査に乗り出すことになったのだった。


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