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(旧) 逃亡奴隷少女、拾いました……  作者: しゅんかしゅうとう
第1章:ウルスドの森
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第20話:パンジー

ロバート・フォン・ロイド男爵は、馬鹿でも愚劣でもなく、ただただ、領地の発展を考える男だった。


強大な魔宝使い『風雲児』ルイス・ロイドが、妻である『焔の魔女』マルナを伴い、妻の炎を風と水で巧みに操り、クーニエル湖に至る街道の開通と街道脇の植林事業、更にはクーニエル村の開墾を行い、時の国王から男爵の爵位を賜ったのも、今は昔の物語だ。

自分を含めルイス・ロイドの子孫たちは『風雲児』の魔宝、風と水の才能を持たず、ただただ小さな火の魔宝石を持って産まれてくるだけだった。


この国、カイン王国で魔宝力を持つ血統の貴族の多くは首都に住む王国の重鎮たちであり、魔宝の血を薄めぬよう魔宝血統貴族同士で婚姻するのが慣わしだった。

最も近くの町からさえ200Km近く離れている森の奥の田舎にあるロイド男爵領には、魔宝石持ちが嫁いでくることは無かったのである。


代を重ねるにつれ、ロイド家当主の魔宝石は小さくなっていった。

今では魔宝力が落ちすぎ、森を焼き払う程の火魔宝は使えない。それどころか、燃える炎を制御する風や水については魔宝を使うことすら出来ない。

ブタの為に始祖様が用意した団栗の林には杉の木が育ち、ウシや馬用の牧草地も多くは針葉樹に飲み込まれてしまった。

昔は相当の数のウシやブタを飼っていたのであろうことは、古い家畜舎を見れば想像が付く。現在のロイド家では、あの畜舎イッパイのウシやブタを養う餌を供給できない。

世代交代による魔宝の低下で、森を切り開いて新しい畑を作ることも出来ず、ウシやブタの餌場を維持することも出来なくなってきていた。

ロイド男爵領は、緩やかに衰退しているのだ。当主の魔宝力が落ちてきたために。


そんなことは歴代のロイド家当主は皆分かっていたはずなのに、事なかれ主義で問題を先送りしてきた。

「とりあえず、今はなんとかなっている」そう言って何の手も打たなかったのだ。


ロバート・フォン・ロイドは15の時、当時当主だった父に、「次期当主として家の為、平民でいいので魔宝石持ちを娶りたい」と相談したが一蹴された。

「田舎貴族とは言え嫡男の正妻は貴族であることが必須。そして、田舎貴族の側室には、魔宝石持ちは嫁いでくれない」という理由だった。


ロバート・フォン・ロイドは17の時、マルナという皮肉にも魔宝使いで始祖様の妻と同じ名をもつ、魔宝の才能の無い娘を嫁にした。マルナが貴族だったからだ。

あわせて、ようやく見つけることの出来た土属性の黄色い石を持つ魔宝使い奴隷を大枚叩いて購入した。

家畜である奴隷を側室に据えるとか、そんな変態じみた考えを持って購入したわけではない。交配奴隷として飼育し、魔宝使い奴隷を出荷するのだ。落ち込んだ畜産をカバーする大きな収入源に育つかもしれない。


ロバート・フォン・ロイドは妻マルナには興味を持たず、魔宝使い奴隷の種付けに没頭した。ロイド家を復興する為である。

最初に買った魔宝使い奴隷をオリジナルと名づけ、3人生まれた娘を上からC1、C2、C3と名付けた。C1は大きな、C2は小さな魔宝石持ちだった。計算通りだ!

オリジナルは4子出産時に子と一緒に死亡した。生まれても男児だったので惜しくはなかった。

このC1、C2、C3の血統を育てていこう。


代を重ねて分かったのだが、C1の血統は13で成熟、14で第1子、15で第2子を産む。収穫に時間がかかるが大きい宝石持ちを生む。

C2の血統は、12で成熟、13で第1子、14で第2子、C1に比べたら小ぶりな魔宝石持ちを生む。

C3の血統は、10で成熟、11で第1子、12で第2子、最も小ぶりな魔宝石持ちを生むが、収穫期間が短い。

どの血統も第1子は魔宝石持ちの女児、第2子は石無しの女児が収穫できた。3子以降はまず男児しか産まないので「2子を産ませたら魔宝使い奴隷として売却」のサイクルに落ち着いた。


10年に1人魔宝使い奴隷を出荷できれば年に1頭大きな牡牛を出荷したのと同じ収入になる。

今では魔宝使い奴隷の出荷は、ロイド家を支える収入の柱の一つに成長しつつある。

問題はカンターク教の教えが「父娘姦」を認めていない事だが、交配奴隷たちは『奴属の刻印』でしばってあるので秘密が奴隷から漏れる事は無い。


その夜、ロバート・フォン・ロイドは考えていた。


俺がこれだけ苦労して奴隷を飼い、したくも無い種付けを行っているのに、あのバカ息子ロバートJrはC1血統の最高峰、コスモスを逃がしてしまった。

湖畔で死に掛けたコスモスを、娘魔宝使いが拾って”飛んで”逃げたという。

おそらくその娘は風属性なのだろう。

コスモスの位置を教える『刻印の音連』が途絶えたので、てっきり死んだものと思っていたのだが、先ほどの行商人ギースの見によると、娘魔宝使いと2人で逃げているようだ。


コスモスが逃げている、と言う事は、娘魔宝使いが刻印を封印したと言う事だ。

刻印の戒めが効かないと言う事だ。コスモスが教会にでも逃げ込むとやっかいだ。

明確な証拠が無いとは言え、父娘姦の背教行為を攻め立てられるかもしれない。宗教裁判は証拠など必要とされないことが常であるからだ。

手を打つ必要がある。


馬車で半日の所に、コスモス等2人が居たのが逃げてから2日後。

今はそこから2日経ってるので、2人は更に2日分進み、馬車で1日の距離にある休憩所のあたりまで逃げているか。

ギースの情報から推測するに、娘魔宝使いの飛ぶ速さは馬車よりも遅い。能力は大した事ないようだな。


明日の朝、ギースが村から馬車を出す。

その馬車に追手を乗せれば、2日後にはカールスの町に着く。


一方逃げている二人は馬車で1日の距離に4日かかる勘定だ。カールスの町に着くには、あと4日必要だろう。

空を飛ばれると馬車から見つける事は難しいだろう。が、街中では人目が多く、不用意に空を飛ぶと賊に間違われるため、そうそう飛ぶことは出来まい。

なら、先回りしてカールスの町でコスモスを捕まえるのが得策か。


まてよ、一緒に居るのは馬車より早く飛べないとは言え魔宝使いだ。

下手な追っ手では返り討ちの可能性があるな。

ライ麦の収穫が6月からある。あまり農奴を失いたくない。


そこでロバート・フォン・ロイドは、戦闘奴隷として短剣の訓練をさせてきた1匹の女奴隷に、この案件を処理させることを決めた。


この女奴隷は、コスモスが子供を作れないときのC1血統の予備として魔宝の才能が無いにも関わらず潰さずに生かしてきたヤツだ。

コスモスが子を産めれば予備は不要なので直ぐに売却する、その時少しでも高く売れるよう、4歳の時から両の手に短剣を1本づつ握らせ、鍛えさせてきたのだ。

その技術が、考えてもいなかった所で役に立つかもしれない。


男爵が声をあげた。

「誰か。この部屋へパンジーを呼べ」


 ===



当主の部屋の中、4箇所に置かれた獣油のランプが揺れ、部屋を薄暗く燈している。

年代物の机、それと対になる当主のイスに腰を掛け、ロバート・フォン・ロイドは言った。


「パンジー、お前の姉が逃げたのは知っているな」


部屋の入り口を入って直ぐの場所、男爵から一番離れた場所に立ってパンジーは答える。

家畜臭いので、種付け等特別な理由を除き、男爵は奴隷が側によるのを好まないのを知っているからだ。


「湖で死んだといわれました、旦那様」


「生きて逃げている。行商人のギースが見た」


「そうなので御座いますか?旦那様」


「そこでだ」

奴隷からの問いかけになど耳を貸さず、ロバート・フォン・ロイドは机の上に2本の短剣を出した。


パンジーはコスモスより1才年若い。胸もようやく先端が隆起し出したばかりで、交配に使えるのも1年は先だろう。

そんな小さなパンジーがナイフで人の肉を切るには、きわめて薄い歯を切断面に正確に立ててやる必要がある。

しかしそんな薄い歯では、一度のつばぜり合いで刃こぼれをしてしまう。


だから、パンジーは性質の異なる2本の短剣を扱う修練を受けてきた。


相手の肉を切るため、頑丈より切れ味に重きを置きいた左手用の短剣『技の1号』

相手の刃を受け止める、切れ味より頑丈に重きを置いた、右手用短剣『力の2号』


2本の短剣のハンドグリップの先には小さなリングが付けられており、訓練の時にはそこに風車がはめ込まれた。

短剣を振るったとき、剣が空間に作り出す面と、刃面が平行な時、風車は一切回らない。

心乱れ、刃面に並行でなく剣が振られると、風車、サイクロンが回って教える仕組みになっている。


普段は風車がはめ込まれるリングに、今は板がはめ込まれており、板の中央には小さな石が埋め込んであった。

左手用短剣『技の1号』にはルビー、逃げたコスモスの魔宝石が、

右手用短剣『力の2号』にはトパーズ、死んだオリジナルの魔宝石が、埋め込まれていた。

どちらの石も所有者が居ない以上、魔宝発動の触媒としては使えないので、武器に埋め込んで魔宝具として利用するのだ。当然の事だが、この2個の石の持ち主がパンジーの祖先や姉である事を教えたりはしない。


「パンジー、お前がコスモスを連れ戻して来い。カールスの町で探せば、コスモスが見つかるだろう。コスモスは魔宝使いの娘と同行しているので、この短剣2本を貸し与える。『技の1号』は攻撃の火属性、『力の2号』には防御の土属性の魔宝石を埋め込んである」


「はい、旦那様」


「同行する娘魔宝使いが抵抗するなら、奴隷泥棒の現行犯として処分してかまわない。その際、コスモスが娘魔宝使いに加勢するならコスモスの鼻と耳は削いでも構わないが殺してはいけない、又、交配奴隷、魔宝使い奴隷として支障の出る部位への破壊行為は禁止する」


「はい、旦那様」


「コスモスは刻印が封印され、言う事を聞かない可能性もある。その場合、お前の命を盾に邸に戻るよう強要しろ。まず、お前の耳と鼻を削いで、本気であることを示すこと」


「はい、旦那様」


「C1血統を失うのは惜しい。コスモスは極力生きて連れ戻せ。ただし、コスモスが死んだ場合はお前は必ず生きて帰る事」


「はい、旦那様」


「この袋の中に”貨幣”と言う物が入っている。赤茶の大銅貨が30枚、白い銀貨が1枚だ」


「はい、旦那様」


「町でパン屋を探し、大銅貨1枚でパンを買え。それを1日の食料とする。水は町の水場がある。コスモスを見つけるか、又は、大銅貨30枚を全て使い終わった場合は、最後に残した銀貨でパンを買えるだけ買い、邸に戻ってくる事。行商のギースの馬車を利用できるなら同乗させてもらえ」


コスモスと違い、使い捨てにされることもある戦闘奴隷には貨幣や算式を教えては居ない。

だからこの様な、分かりやすい指示が必要に成るのだ。

宿代などは必要ない。飼い犬を連れ出すとき、犬の宿代を支払うバカはおるまい。


「はい、旦那様」


「コスモス探索中お前に種付けするヤツは短剣で処分することを許可する。この命令は、他の命令に優先する。病気の危険性があるので、交配奴隷とその予備は初物でないと困るからな」


「はい、旦那様」


「では明日早朝、ギースの馬車に同乗し、カールスの町へいく事。道中はギースの指示に従え」


「はい、旦那様」


パンジーは、金の入った皮袋、2本の短剣、水筒代わりのヤギの胃袋、毛布代わりの麻布を受取り、肩から下げる麻の袋にしまった。

旦那様に姉を殺せと命じられなくて、自分は幸せだと思った。

姉を殺せと命じられなくて幸せだと、心からそう思った。

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