第12話:唇への刻印
(カノン様、もう召し上がれます)と、コスモスが鳥の半身をよこした。
もう半分はコスモスが食べるものだと思っていたのだが、彼女は灰の中から黒くこげた鳥皮の包みを取り出した。
・・コスモスは鳥の肉を食べないのですか?まだ半分あります?・・
(私なら虫も食べられます。だから内臓だけで十分で御座います)
やばい!
ラズベリーの時もそうだったけど、只でさえ少ない食料をボクに優先して食べさせようとしてくれている。
コスモスにここまで庇われてしまった。
情けなくて、それが悔しくて、涙が出てきた・・・
(カノン様)
ボクの涙の意味を取り違えたのか、コスモスがおろおろしている。
ボクは一生懸命伝えたい事を考えにまとめる。こと食料関係は命に直結する。誤解の無い様に正確に意思を伝えなければならない。
・・コスモスが自分で考える以上に、ボクにはコスモスが必要なのです。私もがんばって虫も内臓も食べます、だから・・・。だから、コスモスも肉を食べてください・・
そうしてボク等は、午前中2匹の魚を2人で分け合って食べたように、鳥の肉も分け合って食べた。
内臓はまだちょっとムリだったけど、内臓を包んでいた焦げた鳥の皮はボクも食べた。
まだアスパラガスも、おそらく毒は無いであろうユリネも2人で分け合えるだけたっぷりと有る。
新緑の若葉なら十分食べる事が出来ると思うし、又、鳥や魚が手に入るかもしてない。
毎日少しずつでも着実に進めば、きっとカールスの町に出られるだろう。
夕方、太陽が落ちきる前に夜用に交換する。
今まで使っていた布は、水を流して出来るだけきれいに洗う。
コスモスの火魔宝でさっと乾かしてポーチにしまう。ポーチは、コスモスの着るカーディガンのポケットに入れる。
ポーチは魔宝具でないので『節制の胃袋』が入れるのを拒んだのだ。
『強欲の胃袋』は現在水瓶かわりに使っているので、この中にも入れられない。
ふと気になったので、「詰め物」について知らないか、コスモスに尋ねる。
「交配奴隷」として子を産み、「魔宝使い奴隷」として売られていくのに必要ない知識だったのだろうか、コスモスには「当て布」も「詰め物」に付いても知識は無く、ボクに初めて教わったのだと言う。
ロイド男爵は本当に必要なこと意外は教えていないようだ。
彼にとって、奴隷は言葉を話す家畜程度の扱いなのかもしれない。
この世界での奴隷の立ち位置がまだよく分からないけれど、まともな人間扱いはされておらず、相当に地位が低い事だけは認識した。
山鳥での夕食も終えた。焚き火の炎も、もう落ちた。
寝ずの火の番をする余裕は、ボクにもコスモスにも無い。
4の月とは言え、夜はまだかなり冷える。
今夜も2人で抱き合い横たわり、1枚のローブに包まった。
横たわり、柔らかな彼女の体を抱きしめていると、コスモスの色々な所に色々な事をしたくなってしまう。
でもそれ以上に、ゆっくりとは言え一日歩き続けた疲労感が、ボクのマブタを閉じさせようと魔宝をかける。
かなり体力が減っているので、これだけ接触していてもボクのヨコシマな考えはコスモスには届かないだろう、多分。
そんな時、コスモスから意識が流れ込んできた。
コスモスの接触テレパスだ。
(カノン様)
・・何でしょうか?・・
(『奴属の刻印』が今も封印されたままか、実験で試して頂けますか?)
・・わかりました・・
コスモスが目を閉じる。ボクは優しく唇を重ねる。
抱き合って、唇を触れ合って、長い間そうしている。
唇を触れ合ったまま、ボクはしばらく考えていた。
・・コスモス、私は聖魔宝も使えなくなったので刻印の解放は出来ません・・
(はい)
・・でも、別の刻印を刻むことは出来ます・・
(カノン様?)
・・コスモスも私を思ってくれていれば、刻印の上書きが出来るかもしれません・・
(あぁっ、カノン様!)
・・互いの唇に舌で刻印を刻む『誠実の刻印』です、コスモスも舌で応えて下さい・・
(わかりました)
ボクはコスモスの体に覆いかぶさるように抱き付いて唇を重ね、舌を動かした。
疲れていて体が重くて大変だったけど、リードするのは男の仕事だ。
コスモスもボクの背中に手を回し、舌の動きで応えた。
唇や舌や口腔の粘膜が溶け混じり合い、そこだけ一つになった感覚があった。
ボクはコスモスのカーディガンのボタンを外した。
カーディガンを脱がす。抵抗せずにコスモスはボクの指に従う。
コスモスの上半身を守る最後の1枚、『防岩のベスト』のボタンも外す。
ベストがはだけると、控えめな乳房が姿をあらわす。
昨日は肉が見えてむごかった乳房の下の傷も、魔宝効果でもう新皮が張っている。
傷の完治も早そうだ。彼女の両肩からベストを脱がす。
コスモスの後ろに回って、後ろから左手をまわしコスモスの右の乳房を手のひらで包む。
コスモスがビクッと反応するが声は出さない。
左手でコスモスの胸をガードしたまま、コスモスをうつぶせにする。
コスモスの体の下に敷いた左腕に、二つのふくらみが押し付けられる。
ボクはコスモスの右肩にそっと触れる、指先でRRの焼印をなぞる。
「あっ」
初めてコスモスが声を上げる。
指先で場所を確認した焼印に、今度は唇で触れる。
「ああっ」
コスモスの声が大きくなる。
焼印に込められた魂の刻印を上書きする様、丹念に、何度も何度も舌を動かす。
ボクの右手はコスモスのわき腹、左手はコスモスの右乳房、舌を動かすたびに、つい手にも力が入り指先等が動いてしまう事も有った。
「ーーーあああっ」
その都度コスモスは堪え切れなくなって声を漏らす、が、刻印の上書きに必要な儀式なんだ、がんばってもらう。
長い長い接触の後、儀式は完了した。
・・コスモス・・
(はい)
・・上半身裸のまま立ってください・・
(はい)
コスモスが裸身をさらして立ち上がる。僕も立ち上がる。
・・コスモスの焼印を覆っていた魔宝布は今はありません・・
(はい)
・・焼印も傷も乳房も、何もかもがむき出しです・・
(はい)
・・今、この状態でキスできたなら、刻印の上書きは成功だと言えます・・
(はい)
・・『奴属の刻印』に抗い、コスモスから私にキスして下さい・・
直後、コスモスがボクに飛びついてきてキスをした。
舌も絡ませてきた。キスしながら
「ミス・カノン、ミス・カノン」
とくぐもった声を出し、その声はボクの口腔内に振動として伝わってきた。
接触した体全体から「カノン様、カノン様」とこみ上げるような彼女の意思の声が伝わってきた。
刻印の上書きに成功したのだ。
これで奴隷法上は彼女は逃亡奴隷のままだけれど、魂に刻まれた刻印、精霊の戒めからは開放されたのだ。
これでもう、他の魔宝使いから「魂の称号」を見られても、逃亡奴隷とは分からないだろう。
右肩の焼印さえ隠し通せれば、彼女は自由なのだ。
・・魔宝的には、あなたの契約者はロバート・フォン・ロイドではありません・・
(はい)
・・私がコスモスを求め、コスモスも私を求めるのであれば、私達は『誠実の刻印』に込められた思いにのみ縛られます・・
(はい、カノン様)
・・私が成熟していれば、もっと強い『種族の刻印』を出来るのですが未成熟な私はヤリ方を知らず、知っていてもまだ出来ません・・
(もったいないお言葉です、十分です。私の契約者はカノン様に上書きされました。私にはこの身一つしかありません。この体、カノン様のご自由にお使い下さい)
・・色々言いたいことはあるのですが、今、私は疲れています。一日ゆっくり歩く、それだけで私の体力は限界なのです・・
ボクはローブに横になった。
コスモスはベストとカーディガンを着てボクの隣に横たわった。
ボクの体が冷えていたのだろうか、コスモスはボクに抱きついて暖めてくれた。
ローブに包まれ、コスモスの体温を感じながら、ボクは眠りに付いた。




