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(旧) 逃亡奴隷少女、拾いました……  作者: しゅんかしゅうとう
第1章:ウルスドの森
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第11話:食料

食料を見つける目的で道の左右の森に気を配って歩いていて、気づいた事がある。

街道の左側は針葉樹8:広葉樹2の割合で構成された巨木の多い古い森。

街道の右側(アルス川の方面)は日本でもなじみのナラ、クヌギ、カシ、クリ、サクラ、そしてクルミ等の広葉樹の若い木で構成された森だった。

牧草地帯も一箇所、街道の右側に広がっていた。


想像するに、道すがらコスモスが語ってくれたクーニエル村の御始祖様とは、強大な火魔宝だけではなく、風魔宝も使えたのだろう。

あるいは旦那が強力な火魔宝を、妻が風魔宝を使えたとか。

馬車で2日の距離って100Kmとか200Kmとか多分あるよね、その膨大な距離の山道とアルス川の間の森を、火魔宝と風魔宝を駆使して焼き払ったのだろう。

そうして出来た開けた焼け野原に、牛や羊用の牧草や、豚の飼育に適した団栗やクルミのなる木を植林したのだろうと想像する。

湖周りの開墾で村を一つ作り上げただけでなく、村までの数100Kmの街道整備と植生林改良までやってのけたのだ。

大事業だ、そりゃ爵位や領地を与えられてもおかしくないだろう。


その後、長い時間がたって、街道左の針葉樹と街道右の広葉樹の植生が入り混じってはきたが、それでも植生分布が異なって見えるのは人の手が加えられた証拠だろう。

先の話になるが、もし、ロバート・フォン・ロイド男爵と対峙することがあったら、火魔宝だけでなく風魔宝の血統も受け継いでいる可能性を考慮しよう。


食料となる植物は、主に街道の右側で見つかった。

アスパラガスの自生群だ、一房から3~4本収穫するだけなら翌年も生えてくるんだっけ、大量にあったので食べごろの物を3~4本摘んで次の房に移り、それでも二人で200本位収穫した。

収穫したアスパラガスは、コスモスからネッカチーフを返してもらってそれに包んだ。


魔宝効果を発動させた偏光グラスで見た時コスモスの服が透けて見えなかった事で気付いたのだが、桜色のネッカチーフやカーディガンも魔宝布製だったようだ。

腹部や背部に比べ軽症だった首元や腕の傷は、わずか1日で完治している。重篤部位も痛みは無い様なので、完治するのも思いのほか早いかもしれない。


焚き火で燃え上がる炎が納まり置き火に成ったところへ、採取したアスパラガスの半分を投入する。

焼きあがった頃を見計らって、枝で、火と灰の中からアスパラを掻き出して食べる。

灰だらけの何の味付けも無いグリーンアスパラは、ほんのりと甘かった。


他にも、湿地でクレソンの群生、牧草地の斜面にエシャロットの群生を見つける。

コスモスは生でムシャムシャ食べていた。ボクは香味野菜は苦手なのだけど、それでもがんばって食べた。あまりお腹に溜まらなかったので、少しだけ摘んでアスパラと一緒にまとめる。

太陽が頭の上を過ぎたのでもう午後だろう、たった半日で街道沿いからこれだけの食料調達が出来たことで、少し見通しが明るくなった。


更に進むと、ユリの群生を見つけた。これも採り尽くさないようユリ根を50個程収穫し、アスパラが減ったネッカチーフに包む。

アスパラにしろユリにしろ、非常食用に植えられた可能性があるからだ。採り尽くす訳にはいかない。

ボクの世界ではユリの根を食べるが種類によっては毒をもつものも有るらしいと言うと、コスモスは黙って生のままのユリ根を一口かじった。

明日、コスモスが生きていたら二人で食べましょうと笑って言われた。

こんな女の子に毒見役をさせてしまった、心苦しい。


魔宝のナイフで木を切断できるかと聞かれ、出来るよと応えたら、コスモスはボクを街道の左側針葉樹の森に入ろうと誘った。


(針葉樹の倒木を割ると中に沢山のカーキリの幼虫が居ます、焼いて食べます)

(広葉樹の倒木から取れるクーガタ、腐葉土から取れるカートより、美味しいです)


イナゴとかハチノコとか食虫文化が有る事は知っている。が、食べたことは一度もない。しり込みしてしまう。


・・ボクは虫を食べたことが無く、食べられるか自信がありません。どうしても、と、言う時までは別の食材を探しましょう・・


(わかりました)


それ以上コスモスは何も言わず、又、歩きながら左右の森に目を走らせる。


(カノン様、季狂いの実です!)


コスモスの明るい声が響く。


・・キグルイ?・・


(冬の終わりに暖かい日が続くと、季節を間違え虫が羽化し、花が咲く事が在ります)

(そんな花が季狂いの実を付けます。あそこに木イチゴの実があります)


あ、本当だ。街道右にこれも植林したのか潅木の茂みがある。茂みがいっせいに白い花を咲かせている中、一角だけ、黄色い実を付けている場所がある。ラズベリーか?


(急いで食べましょう。季狂いの実は数が少なく、すぐ鳥に食べつくされます)


コスモスと手を繋いで潅木に近付くと、潅木の茂みから黒いものがバサバサと飛び出した。


「xxx」



コスモスがボクの手を離し、ルビーの指輪を付けた右腕をその黒い何かに向け、魔宝を高速詠唱する。

すごい、ほんの1秒の詠唱で魔宝陣が発動し、紅蓮の玉が飛んでいった。

コスモスは、すごい魔宝の才能の持ち主かもしれない。


コスモスがボクの背中に手を触れ、考えを伝える。


(カノン様、鳥に食べられる前に、急いで季狂いの実を食べてしまって下さい)

(私は今の獲物を捕まえて来ます)

!!

多分、今の、本人は気付いていないかもしれないがコスモスからの接触テレパスだ。

以前意識していなかったボクの心がコスモスに読まれたのも、ボクの思考が接触テレパスで漏れたのではなく、コスモスが積極的に読み取ったのかもしれない。

魔宝とESPを併用できる魔宝使いを、ボクは日本で数人しかしらない。

おそらく、地球全体でボクを含め5人しか魔宝+ESPの使い手は居なかったろう。

コスモスは、どれだけのポテンシャルを秘めているんだ?

ボクの想像が正しければ、コスモスには風属性への適正もあるかもしれないし。


そんなボクの考えには気付かず、コスモスは獲物を追って森の中へ駆け出していった。

一人取り残されたとたん、ボクはものすごい不安感を感じていた。

いつの間にか、コスモスに強く依存していた事を自覚する。

出会ってからまだ24時間もたっていない。けど、コスモスが居なければこの世界で生きていけないだろう。

逆方向ではあるが、昨日もこの道を歩いているのだ。でも一人で歩いた時は、食料を探す余裕すら無かったのだから。


コスモスを待つ間、ラズベリーを食べる。酸味が少なく、甘く瑞々しく、美味しい。

一人で居るのが不安で夢中で食べた、食べてしまった。

気がつくとほとんど実が残ってない。残った実を一粒づつ摘んで左手に集める。少なくて申し訳ないが、これがコスモスの分だ、鳥にとられる前に確保する。


しばらくして、羽のあちこちが焼け焦げた大き目の鳥を持ってコスモスが帰ってきた。

コスモスの火炎魔宝は飛ぶ鳥に当てられるのか、ボクのESPより命中精度は上だな。


鳥を手にもったまま、接触テレパスができるようコスモスがボクの左側にすり寄ってきてくれた。


・・ごめんなさい、ボクが一人で食べ過ぎて、コスモスの分はこれしか残っていません・・


左手のラズベリーを差し出す。


(それはカノン様がお食べ下さい。私は朽木を見つけたので虫を食べてきました)


・・コスモスの分ですよ・・


(私はもう、十分虫を食べてきました)


コスモスの気持ちに感謝し、残りのラズベリーも頂く。美味しい。


・・これだけは食べて下さいね・・


何粒かをコスモスの口元に運ぶ。

コスモスはびっくりした顔をする。


・・はい、口を開けて下さい・・


(あ、ありがとうございます)


コスモスの口にラズベリーを入れる。その時少し指が唇にも触れる。


(おいしいです)


嬉しそうな声が届く。やはりコスモスにはテレパスの能力がある様だ。

今ボクはテレパスの能力を抑えているのに、問題なく意思疎通ができている。


(鳥をさばきます。カノン様、後でナイフと水をお貸し下さい)


・・わかりました。それとコスモス、あなたにもテレパスの才能があるようです・・


(そうなのですか?)


・・コスモスの力なら、体を触れなくても話が出来ると思います・・


勿論ボクも接触しなくてもテレパスを通せるが、ボクは体力が少ないからあまりやりたくないのだ。


(そうですか、触れずに話せるのは便利ですが、少し寂しいです)


・・私も同じです・・


二人顔を見合わせて笑いあった。


コスモスは火を起こし、取ってきた鳥の羽をむしった。

裸にした鳥を炎であぶり、細かな羽毛を燃やし取った。


(カノン様、ナイフをお貸しください)


体が触れてないのにコスモスの声が届いた。

やはりESPの才能も相当に高いようだ。


・・やはり触れていなくても、ちゃんと話せますね。はい。ナイフです・・

『絶縁のナイフ』を渡す。


・・木も切断できる魔宝のナイフです。絶対に刃面には触れないで下さい・・

(わかりました)



ナイフを受取ってからのコスモスは、手際よかった。

木に絡まるツタを切り、鳥の足に結ぶ。

逆さ釣りにした鳥の首を切る。

鳥の命を分けてもらう、と、切断面から滴る血をなめる。

お尻の方からナイフを入れ、腹を開口する。

腹から血まみれの腸がはみ出るが、腕を突っ込み内臓を掻き出す。

胃とか腸とかを切開し、内容物を扱き出す。

胴体の肉と皮の間の脂肪層に刃を入れ、皮をはぐ。

脊髄の直ぐ脇に刃を入れ肋骨を切断、竜骨は関節を外して胴を2分する。


コスモスが取ってきた焼け焦げた鳥は、その時はまだ単なる鳥の死骸だった。

鳥の死骸と鶏肉は見たことはあるが、食肉になる過程を見たことは無かった。

鳥だったものが、血まみれの肉と骨と内臓にばらされていく、やばい、吐きそう・・・


(カノン様、水をお願いします)


・・どうすればいいですか?・・


(血や脂肪、内臓の中の糞尿を洗います。上から少しづつ水を掛けて下さい)


・・わかりました・・


ぼくは『強欲の胃袋ストマック』をとりだし、ちょろちょろと水を出す。

コスモスはまず、焚き火の灰で、手とナイフの柄に付いた脂肪をこすり洗った。

刃面の手入れは魔宝具なので不要だ、鞘に収める。

次に、半身に割った鳥の腹腔を良く洗う。

もう一つの半身の腹腔も洗う。

内臓の内側をしごいてよく洗う。

皮も洗う。鳥の皮の上に洗った内臓を乗せ、皮を縛ってまとめる。


(ありがとう御座いました。水はもう十分です)


鳥の半身に串を打ち、二つとも焚き火にかざす。

皮に包んだ内臓は、火の落ちた置き火の上に、無造作に置く。


日がだいぶ傾いてきた。

鳥の肉の大きさから焼きあがるのに最低30分はかかるだろう。

今日はココで夜を過ごすことになりそうだ。

雲は無いので雨は降らないと信じよう。


今日は最後に脂の乗った山鳥が食べられるのだ、カロリー的に十分だろう。

脂の乗った山鳥とか、血まみれの内臓とか、朽木の中の昆虫の幼虫とか、毒があるかもしれないユリネとか・・・

うっ、こみ上げてきた。せっかくコスモスが見つけたラズベリーだ、食べた分は全て吸収するんだ!


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