第59話 放課後に美月と遊ぶ
(赤岩陽太視点)
放課後。
俺は美月と並んで帰り道を歩いていた。
春の風が、頬を撫でる。
少し冷たい。
「ねえ」
隣から、美月の声。
「最近、色々あったしさ――パーッと遊んじゃおうよ」
くるり、と俺の方を向く。
太陽みたいな笑顔だった。
(……遊ぶ、か)
確かに。
最近、色々とあった。
美月の言う通り、リフレッシュも必要だと思った。
「……いいよ」
気づけば、そう言っていた。
「やった!」
ぱっと花が咲くみたいに、美月の表情が明るくなる。
そのまま俺たちは、駅へ向かった。
⸻
電車に揺られて、数駅。
到着したのは、地元のショッピングモール。
夕方の人混み。
買い物袋を下げた家族連れや、学生の笑い声。
日常の音が、そこら中に転がっていた。
「まずは――ここ!」
美月が迷いなく指差す。
ゲームセンター。
電子音と光が溢れる、少しだけ非日常の空間。
(……久しぶりだな)
そんなことを思った、次の瞬間。
「まず、あれ! プリクラ撮ろうよ!」
即決だった。
「……は?」
「え、なにその顔」
「いや、俺……プリクラとかやったことないんだけど」
一応、正直に言ってみる。
すると美月は、一瞬だけ目を丸くして――
すぐに、口元を緩めた。
「じゃあ初体験だね」
「その言い方やめろ」
「いいからいいから!」
ぐいっ、と腕を引かれる。
逃げる隙もなく、そのまま機械の中へ押し込まれた。
⸻
狭い空間。キラキラ光る照明。
距離が、やたら近い。
正面には、大きなカメラ。
画面には、制服姿の俺と美月。
(……なんだこれ)
妙に明るいし、妙に距離感がおかしい。
「ほら、ピース!」
「……あ、ああ」
言われるがまま、ぎこちなく指を立てる。
一方の美月は――
満面の笑みで、完璧なピース。
温度差がひどい。
「顔が硬いよ?」
「うるせえよ」
そう言った瞬間――
画面に、カウントダウン。
3……2……
機械音のボイスも部屋に流れる。
カシャッ。
部屋内にシャッターの音と共にフラッシュの光が輝く。
ぎこちない俺のピース姿とノリノリでピースする美月の写真が目の前の画面に映し出される。
「ねえ」
美月の声が、少しだけ近くなる。
「今度はもう少し、密着しよ?」
「は?」
意味を理解するより先に――
ぎゅっ。
腕に、柔らかい感触が絡みついた。
美月が俺の腕に抱きついたのだ。
「ちょ――」
遅い。
もう遅い。
――パシャッ。
無情なシャッター音が、空間に響いた。
先程と同様にシャッター音と共にフラッシュが光る。
⸻
数秒後。
画面に、撮影された画像が映し出される。
「あははっ!」
美月が、腹を抱えて笑い出した。
「なに陽太君の顔!」
「……は?」
恐る恐る、画面を見る。
そこにいたのは――
俺の腕にぴったり抱きついて、ウィンクしながらピースしてる美月と。
目を見開いて、完全にタコみたいな顔になってる俺。
「……なんだこれ」
「最高じゃん」
「どこがだよ」
ため息が漏れた、その瞬間――
再び、カウントダウン。
3……2……
「さっ、さっ! 次いくよ!」
美月が急かしてくる。
「次は手繋いで撮ろう」
「え、いや――」
言い切る前に。
すっと、手を取られた。
指が絡む。
自然に。
当たり前みたいに。
(……近い)
距離も。
体温も。
全部が、やけに近い。
心臓が、少しだけうるさくなる。
「ほら、前見て?」
美月が、小さく笑う。
その声に引っ張られるみたいに、俺は顔を上げた。
――パシャッ。
また、シャッター音。
逃げ場は、もうない。
こうして俺は――
完全に美月のペースに巻き込まれたまま、
プリクラの撮影を続けることになった。




