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第54話 放課後の職員会議

(担任視点)


 私は、会議室のイスに座っていた。


 正面に校長。

 その右に教頭。

 左に生徒指導主事、そして学年主任。


 逃げ場のない配置だった。


 机には青井と岡がラブホテルの門を潜る証拠が写った写真が置かれる。


 蛍光灯の白い光が、紙の上を均一に照らしていた。


 温度がない。


 ――今回の会議。


 議題は1つ。


 本日、退学処分となった青井佑太。

 そして――その青井と共にラブホテルを利用していた岡あまねの処分。


 事実関係は、すでに揃っている。


 あとは――判断だけだった。


「やれやれ……最近、問題が多くて困りますね」


 校長が資料をめくりながら、ため息混じりに言った。


「そのせいで、余計な会議が増える」


 “余計な”という言葉が、やけに引っかかる。


「そうですね。本当に忙しいですよね」


 教頭がすぐに応じる。


 反射に近い相槌だった。


 会議というより、すでに「流れ」がある。


「それもこれも――誰のせいだか」


 校長の視線が、こちらに向く。


 ジロリ、と。


 言葉よりも先に、圧が来る。


 背筋が硬直する。


 その視線を合図にするように――


 教頭。

 生徒指導主事。

 学年主任。


 全員の目が、私に集まった。


(……私のクラス、だからか)


 分かっている。


 青井も、岡も、私のクラスだ。


 「管理責任」という言葉が、頭をよぎる。


 私はわずかに肩をすくめ、視線を落とした。


 机の木目が、やけに鮮明に見える。


 何か言うべきか。


 だが、言葉が出てこない。


 そんな度胸は私にない。


「……それにしても」


 校長が、視線を外した。


「今回の処分についてですが、生徒指導主事はどうお考えですか?」


 空気が切り替わる。


 視線の矛先が、移動する。


 それだけで、肺に空気が入るのを感じた。


「そうですね」


 生徒指導主事が、資料に1度目を落とし、口を開く。


「結論から申し上げますと――退学相当と考えます」


 “相当”。


 断定を避けつつ、実質は同じ意味。


「理由としては2点あります」


 2本の指を軽く立てる。


「1点目は、校内規律の維持です。未成年でありながら、今回のような施設を利用した事実は、校則違反として看過できません」


 淡々としている。


 感情が入っていない分、重い。


「2点目は、波及性です」


 1度、言葉を区切る。


「ここで停学等の軽い処分に留めた場合、他の生徒への抑止が効かなくなる恐れがあります。同じように未成年にも関わらずラブホテルを利用する生徒が今後も出てくると思います」


 そして、結論。


「以上から、退学という処分が妥当と判断します」


 合理的すぎる。


 誰も反論できない構成だった。


「……なるほど」


 校長が小さく頷く。


「他の先生方は?」


「私も同意見です」


 教頭が間髪入れずに答える。


 事実上の“承認”。


「学年としても同様です。学校全体への影響を考えれば、やむを得ないかと」


 学年主任も続く。


 これで、流れは完全に固まった。


「そうですか」


 校長がイスに背を預ける。


 そして、ゆっくりと言った。


「実は私も、同じ方向で考えていました」


 場の空気が、完全に支配される。


「ただ――」


 1拍。


「いきなり退学確定ではなく、1度“退学勧告”という形で様子を見るのが現実的かと思いますが……いかがでしょうか?」


 柔らかい言い方。


 だが、実質は同じ結論への誘導。


 教頭が、すぐに頷く。


 生徒指導主事も、無言で同意する。


 学年主任も同じ。


 誰も逆らわない。


 逆らえる構造ではない。


「では――これで決定とします」


 校長が静かに言い切る。


 会議は終わったも同然だった。


「今後、このような事案を繰り返さないための抑止とする」


 その言葉は、全員に向けられている。


 だが――


 私には、より強く刺さる。


「今回の判断を無駄にしないように」


 校長は言い切る。


「それでは」


 校長が私に再び視線を向ける。


「岡あまねさんへの連絡をお願いします。本日中に来校してもらってください」


 完全に事務的な声だった。


「重要な案件ですので」


 逃げ道はない。


 私は、ゆっくりと頷いた。


「……承知しました」


 声が、わずかに掠れる。


 胸の奥に、重いものが沈む。


 これは――教育なのか。


 それとも、組織の論理なのか。


 分からない。


 ただ1つ分かるのは――


 この決定に、私も加担しているという事実だけだった。それは間違いない。


 会議室の時計が、静かに秒を刻んでいる。


 その音だけが、やけに大きく聞こえた。

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