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第53話 幼馴染に打ち明ける

(赤岩陽太視点)


 放課後。


 担任から告げられた、青井の処分。

 そして――元カノ、岡あまねの今後。


 どれも現実味がなくて。

 頭の中で、まだ形にならないまま漂っている。


 気づけば俺は、美月と並んで帰り道を歩いていた。


 ついさっき、正門を出たばかりだ。


 春の風が吹く。

 制服の裾が揺れる。


 なのに――何も、感じない。


 俺は俯いたまま、ただ歩いていた。


「どうしたの? 元気ないよ?」


 隣から、やわらかい声。


 その優しさが、逆に刺さる。


 俺は顔を上げる。

 視線を向ける。


「……なんでもないよ」


 反射的に、そう答えていた。


 口角を上げる。

 無理やり作った笑顔。


 自分でも分かる。

 ――これは、嘘だ。


「……」


 美月の表情が止まった。


 そして――足も止まる。


「どうしたの? 急に止まって」


 俺も足を止める。


 風だけが、俺たちを置いて先へ流れていく。


「……ウソつき」


 小さな声。


「え?」


 聞き返す。


「ウソつき!」


 今度は、はっきりと。


 逃げ場を塞ぐ声だった。


「何年、幼馴染やってると思ってるの?」


 真っ直ぐ、睨まれる。


「分かるよ。陽太君が困ってることぐらい」


 胸の奥に、鈍い痛み。


「なんで正直に打ち明けてくれないの?」


 1歩、距離が詰まる。


「私って、その程度の存在なの?」


 その1言が、重い。


 言い訳が、全部崩れる。


「……み、美月に心配を掛けたくなくて……」


 情けない声だった。


 自分でも逃げているのが分かる。


「そんな心配いらない!」


 間髪入れず、否定される。


「大切な人だからこそ――」


 さらに、近づく。


「頼ってほしいの!」


 強く。


「いつだって、力になりたいから!!」


 まっすぐすぎる言葉。


 逃げられない。


「……美月」


 名前を呼ぶ。


 視線が絡む。


 逸らせない。


 “話せ”と、目が言っている。


「……実は」


 観念する。


「青井が退学になって……岡あまねも、その……不適切な施設の件で、自宅待機になった」


 言葉にした瞬間。

 現実が、重く沈む。


「うん。知ってる」


 美月は、静かに頷いた。


「それで……」


 喉が詰まる。


「青井とあまねは、地獄に堕ちたと思う」


 自分の言葉が、どこか他人事みたいに聞こえる。


「これからもっと不幸になる。……俺の望みは、叶った」


 そこで、止まる。


「でも」


 胸の奥が、軋む。


「全然、嬉しくないんだ」


 息が、重い。


「むしろ……苦しい」


 視線を落とす。


「引っかかって、ずっと残ってて……」


 言葉が途切れる。


「だから……困ってた」


 やっと、吐き出した。


「……」


 美月は、何も言わずに聞いていた。


 最後まで、遮らずに。


 そして――


「なにそれ」


 ふっと、笑う。


「安心した」


「……は?」


 思わず、顔を上げる。


「そんなことか、って思った」


「そんなことって……」


 ムッとする。


 俺にとっては、軽くない。


「それはね」


 1歩、近づく。


「陽太君が他の人より優しいからだよ」


 次の瞬間――


 右手が、包まれた。


 あたたかい。


「……優しい?」


「そっ」


 迷いのない肯定。


「普通の人とか、悪い人はね」


 少しだけ、笑う。


「そんな風に悩まないの」


 手に、力がこもる。


「むしろ喜ぶよ。他人の不幸」


 いたずらっぽく。


「“蜜の味”って言うでしょ?」


 ぎゅっと、握られる。


「だからさ」


 目を細めて。


「そういうとこ、陽太君の良いところだと思うな〜」


 そして――


 咲くように、笑った。


 春そのものみたいな笑顔だった。


「……」


 言葉が出ない。


「勘違いしないでね!」


 慌てて付け加える。


「良いところ、それだけじゃないから!」


 少し照れながら、


「優しさは、その中の1つだからね!!」


 強調する。


 ――優しい?


 俺が?


 正直、分からない。


 でも。


 幼馴染の美月が言うなら――


 たぶん、間違ってない。


 だって俺よりも俺のことを理解してるんだから。


「ほら」


 手を引かれる。


「帰ろ?」


「……うん」


 引かれるまま、歩き出す。


 さっきまで胸にあった重さが、

 ほんの少しだけ、軽くなっていた。


 そして、気づく。


 手。


 ――繋いだままだ。


 俺の右手と、美月の左手。


 美月の温もりを感じられる。


 離そうとは、思わなかった。


 このまま離れたくないとも思った。


 理由なんて――必要なかった。


 俺は美月に惹かれてしまった。もしかしたら、もっと前からかもしれない。


 でも今ようやく自覚できた。


 この魅力的で献身的な幼馴染に対する感情について。

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