第49話 緊急職員会議②
(担任視点)
あの後、私はすぐに教頭のもとへ向かった。
声を抑えながら、だが1言1句を誤らないように――事の経緯と、手元にある証拠について説明する。
教頭の表情が、みるみるうちに変わっていった。
「……それは、本当ですか?」
問い返す声は低く、しかし明らかに動揺が滲んでいた。
「はい。間違いありません」
私は頷き、例の写真を差し出す。
受け取った教頭は一瞬だけ目を通し――すぐに顔を上げた。
「……校長に報告します」
それだけ言い残し、教頭は慌てた様子で職員室を出ていった。
足早に、ほとんど駆けるようにして校長室へ向かう背中が、やけに小さく見えた。
しばらくして。
校長も合流し、職員室内で緊急の職員会議が開かれた。
ざわついていた空気が、ぴたりと止まる。
長机を囲むようにして、主要な教員が集められていた。
そして――
「これは大変なことになりましたね」
校長は、私が渡した写真を手に取りながら、静かにそう言った。
青井と岡がラブホテルへ入ろうとしている、その決定的な証拠の1枚。
光沢のある紙の上で、その事実だけがやけに生々しく浮かび上がっていた。
「校長、どうしましょうか? さすがに今回ばかりは……」
教頭が困惑を隠せないまま口を開く。
校長はすぐには答えなかった。
視線を写真から外し、ゆっくりと机の上に置く。
「……そうですね」
その1 言に、重みがあった。
室内の空気がさらに沈む。
「前回は退学勧告を行いましたが……」
校長は1度、意図的に言葉を区切る。
全員が、次の言葉を待った。
「さすがに2度目の問題行動となると、同じ方法は取れません」
静かな声。
だが、その中には明確な線引きがあった。
逃げ場のない結論へと、確実に近づいていく。
そして――
「生徒指導主事にも意見を聞く予定ですが、今回は退学処分の方向でいきましょう。さすがに2回目は許せません」
校長が、はっきりと告げた。
決断だった。
もう覆りそうにない。
「わ、分かりました!」
教頭が即座に応じる。
その声には、どこか安堵すら混じっていた。
責任の所在が定まったことへの、歪んだ安心。
「完全に決定した時点で、担任の先生には今後についてお伝えします。いいですね?」
校長の視線が、こちらへ向く。
一瞬、言葉が出なかった。
「……は、はい」
かろうじて声を絞り出し、私は首を縦に振る。
その動きさえ、自分のものではないように感じた。
「それでは、緊急会議はここまでとします」
校長の1言で、張り詰めていた空気がわずかに緩む。
誰もが小さく息を吐いた。
だが――
私の胸の奥だけは、まったく軽くならなかった。
会議が終わり、校長はそのまま校長室へ戻ろうと歩き出す。
その動線が、偶然なのか、それとも意図的なのか。
――私のすぐ横を通過した。
「やれやれ」
低く、吐き捨てるような声。
足を止めることなく、校長は続ける。
「あなたの生徒は問題ばかり起こしますね。本当に」
1拍。
ほんのわずかな間。
「今後のあなたの処分も、相当なものになるかもしれませんね」
その言葉は、私にだけ届く音量で紡がれた。
「っ……!?」
反射的に振り返る。
だが――
校長は一切こちらを見ない。
視線すら向けないまま、職員室の出口へと歩いていく。
そして。
ガラリ。
静かな音を立てて扉が開き――
そのまま、振り返ることなく外へ出ていった。
パタン。
戸の閉まる音が、やけに大きく響く。
職員室は、再び日常の音を取り戻し始めていた。
キーボードの打鍵音。
紙をめくる音。
誰かの咳払い。
――だが。
私の中だけが、取り残されていた。
青井の退学処分。
そして――自分自身の処分。
先ほどの校長の言葉が、頭の中で何度も反芻される。
消えない。
消えてくれない。
胸の奥に、重く沈む恐怖だけを残して。




