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第47話 とんでもないことになった

(赤岩陽太視点)


「それじゃあまたね」


「うん。またね」


 軽く手を振り合い、俺と美月は廊下で別れた。


 反対方向へ歩いていく美月の背中を、ほんの一瞬だけ目で追う。

 すぐに視線を切り、俺は自分の教室へ向かった。


(……ギリギリだな)


 スマートフォンで時間を確認する。

 ホームルーム開始、ほぼ直前。


 少しだけ歩幅を広げる。


 廊下には同じように急ぐ生徒が何人かいて、足音がやけに響いていた。


 教室の後ろ戸に手を掛ける。


 ガラッ。


 中に入る。


(……あれ?)


 違和感は、すぐに分かった。


 教壇に、担任がいない。


 この時間なら、もう出席簿を持って立っているはずだ。


 それだけじゃない。


 教室の空気が――妙に張りつめている。


 そんな、不自然な空気。


 そして――


 視線。


 俺が1歩教室の中に入った瞬間。


 近くにいた数人が、ほぼ同時にこっちを見た。


 連鎖するみたいに、他のクラスメイトたちも視線を寄越してくる。


 何か起きている。


 しかも――


「なあ、赤岩」


 付近にいた男子が、俺に声を掛けてきた。


「これ、もう見たか?」


 俺は後ろの戸のところで足を止めたまま、クラスメイトの男子を見る。


「……何を?」


 男子は周囲を1度ちらっと見てから、スマートフォンを取り出した。


 ロックを解除し、何かを開く。


 そして、無言で俺に近づいてくる。


 距離が、1歩2歩と詰める。


 画面を、俺の目の前に差し出した。


「これ」


 そこに映っていたものを見た瞬間――


「……っ、え……?」


 俺は驚愕して悲鳴のような声を漏らす。


 それほどの衝撃だった。


 画面には――


 あの青井と、元カノの岡あまね。


 2人が並んで歩いている。


 見慣れた街並みの中に、不自然に浮かぶネオンと看板。


 そして――


 ラブホテルの入口。


 その門を、2人でくぐろうとしている瞬間。


 タイミング的に、明らかに偶然の1枚じゃない。

 狙って撮られた構図だ。


 ブレもなく、顔もはっきり分かる。


 言い逃れができないレベルで、はっきりと。


(……なんだよ、これ)


 思考が、数秒遅れる。


 現実として処理するのに、時間が掛かる。


「これ、昨日、俺が撮ったんだよ」


 男子が、どこか得意げに補足で説明する。


「岡、青井と会ってただけじゃなくて……ラブホまで行ったって話。やばいよな」


「そ……そうなんだ」


 口が、うまく回らない。


 とりあえず、何か返さないといけない気がして、言葉を出す。


 自分でも分かるくらい、不自然だった。


 男子は1度頷いてから、さらに続ける。


「しかも、さっき担任にバレた」


「……え?」


「クラスの女子が画像見せたらしくて。ついさっき岡は担任と一緒に教室を出て行った」


「……まじか」


 それしか言えなかった。


 頭の中が、うまく繋がらない。


(……なんだよ、それ)


 昨日まで、何も知らなかった。


(まだ……繋がってたのかよ)


 しかも、自宅待機の青井と。


 よりにもよって、あいつと。


 胸の奥が、じわっと重くなる。


 怒り――ではない。


 かといって、完全な無関心でもない。


 どこか中途半端な感情が、居座っている。複雑な感情。


(……いや、それより)


 思考が無理やり現実に引き戻される。


 写真が出回っている。


 しかも、クラス内で。


 担任も把握した。


 ここまで揃えば――


(……普通にヤバいだろ)


 ただの噂じゃない。


 指導案件どころか、下手すれば停学レベル。


 状況次第では、それ以上もあり得る。退学と2文字が連想される。


(あまねの奴…終わったな)


 今後の現実的な結論が俺の脳内に浮かび上がる。


 でも、その結論に対して――


 どこか割り切れない感情が残る。


 不思議な感情。

 

 あまねにの裏切りにあれだけ怒りを感じていたのに。何だかよく分からない。胸の中には、言葉にできない感情だけが残っていた。


 俺は悪人になれないのかもしれない。素直に元カノが地獄に落ちるのを喜べないのかもしれない。

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