第41話 決断の会議
(担任視点)
会議室の空気は、いつもより明らかに重かった。
長机の向こう側には、校長。
その隣に教頭。
生徒指導主事、学年主任。
そして――担任である私。
誰も雑談はしない。
ただ静かな沈黙だけが、会議室に張りついている。
やがて――
教頭が静かに口を開いた。
「先ほど、警察署から学校へ連絡がありました」
全員の視線が、教頭へ向く。
「青井佑太ですが、本日、警察で事情聴取を受けたそうです」
一瞬、空気が張り詰めた。
教頭は手元のメモに目を落としながら続ける。
「その中で作成された供述調書は、事件資料として検察へ送致される予定とのことです」
言葉が会議室の中央に落ちる。
誰もすぐには反応しない。
教頭は1度息を整え、さらに続けた。
「また、年齢を踏まえると、今後は家庭裁判所での手続きに進む可能性が高いという説明でした」
再び沈黙。
机の上の時計の秒針だけが、小さく音を刻んでいる。
しばらくして――
「……そうですか」
校長がゆっくりと目を伏せた。
その声は低かった。
すると、生徒指導主事が慎重な口調で言った。
「現在、青井佑太については自宅待機措置を取っていますが……」
1度言葉を切る。
「このままの状況ですと、学校としての対応を整理する必要があるかと思います」
「具体的には?」
校長が顔を上げる。
生徒指導主事は少しだけ姿勢を正した。
「学校の社会的責任や影響を考えると、退学勧告も含めた対応を検討する段階に来ているのではないかと思います」
――退学勧告。
その言葉が出た瞬間だった。
私と学年主任の肩が、ほとんど同時にわずかに動いた。
それほど重い言葉だった。
校長は腕を組み、しばらく考え込む。
数秒。
沈黙が流れる。
「……そうですね」
校長がゆっくりと頷いた。
「学校としても、一定の判断は示さなければなりません」
その言葉を受け、教頭が小さく身を乗り出した。
「校長、それでは――」
校長は静かに教頭を見る。
そして、はっきりと告げた。
「明日、青井佑太君と保護者の方に来校していただきます」
会議室の空気がさらに張り詰める。
「その場で、学校として退学勧告を行う方向で進めましょう。みなさん、よろしいですね? 」
――決まった。
正式な言葉ではない。
だが、この場の全員が理解した。
(……来たか)
私は心の中で呟いた。
まさか。
本当にここまで来るとは思っていなかった。
ほんの少し前まで、青井は普通に教室にいた。
笑い、騒ぎ、友達と話していた。
だが――
現実はもう、そこには戻らない。
そして、もう1つの不安が頭をよぎる。
(このままだと……)
担任としての責任。
管理体制。
指導状況。
いくつもの言葉が頭の中に浮かぶ。
(私の処分は……)
胸の奥が重くなる。
(相当、重くなるんじゃないか……)
私は机の上の資料を見つめながら、無意識に唇を強く噛んでいた。




