第40話 警察から学校へ連絡
(担任視点)
その日の授業はすべて終わり、放課後になっていた。
部活動へ向かう生徒たちの足音が、廊下の向こうへ遠ざかっていく。
職員室の中では、キーボードを打つ音やプリントをめくる音が静かに響いていた。
そのときだった。
プルルルルッ。
職員室の電話が鋭く鳴った。
私は書類から顔を上げる。
ちょうど、自分の席のすぐ横にある電話だった。
受話器を取る。
「もしもし。西条高校です」
いつもの調子で応答する。
すると、電話口から落ち着いた声が返ってきた。
『もしもし。警察署の者ですが』
その1言で、胸の奥がわずかに重くなる。
私は短く答えた。
「はい」
『西条高校の先生でお間違いないでしょうか』
「はい。担任の者です」
私がそう答えると、警察官は続けた。
『青井佑太さんの件で、お電話させていただきました。今、お時間よろしいでしょうか』
その名前を聞いた瞬間、喉の奥がひりついた。
「……はい。大丈夫です」
私はそう答えながら、小さく息を飲み込む。
周囲の教師たちも、こちらの電話の内容に気づいたのか、手を止め始めていた。
職員室の空気が、少しだけ張りつめる。
警察官が続ける。
『本日、昼頃に青井佑太さんから事情を聞き、保護者同席の上で供述調書を作成しました』
淡々とした口調だった。
しかし、その言葉は確かに重かった。
『今後、この調書を含めた事件資料を検察へ送致する予定です』
「……はい」
私はそれだけ答えるのが精一杯だった。
受話器を握る手に、少しだけ汗がにじむ。
警察官はさらに説明を続けた。
『年齢等を踏まえると、今後は家庭裁判所での手続きになる可能性が高いと考えられます』
「家庭裁判所……」
思わず言葉が漏れた。
その1言に、近くにいた教師たちが顔を上げる。
「家庭裁判所?」
「え……」
小さなざわめきが職員室の中に広がった。
私はそれを気にする余裕もなく、電話に耳を傾け続ける。
『今後も、必要に応じて本人から事情を聞く可能性があります。学校側にもご協力いただく場面があるかもしれません』
「……分かりました」
私はようやく言葉を返す。
『また、学校としての対応についても検討されるかと思いますので、その点も含めて情報共有させていただきました』
「はい。ありがとうございます」
事務的なやり取りをいくつか交わしたあと、
『それでは、失礼いたします』
電話は静かに切れた。
ツー、ツー、という音だけが耳に残る。
私はゆっくりと受話器を戻した。
その瞬間だった。
「先生、今の電話は警察からですか?」
電話のやり取りを聞いていた教頭が、足早にこちらへ歩いてくる。
周囲の教師たちの視線も、一斉に集まっていた。
「……はい」
私は小さく答える。
「内容は?」
教頭の声は低かった。
私は1度、深く息を吸う。
「青井は本日、警察で事情聴取を受けたそうです」
職員室の空気がさらに重くなる。
「供述調書が作成され、事件資料として検察に送致される予定だそうです」
私は続けた。
「年齢の関係もあり、今後は家庭裁判所での手続きになる可能性が高いとのことでした」
教頭は眉間に深い皺を寄せた。
「……そうですか」
短く呟く。
苦い表情だった。
「校長にも報告してきます」
それだけ言うと、教頭は踵を返した。
教師たちの視線を受けながら、足早に職員室を出ていく。
そして――
バタン。
職員室の扉が閉まる音だけが、静まり返った室内に重く響いた。




