第33話 校長の怒り
(担任視点)
ふぅ〜。
私は胸の奥に溜まっていた息を、静かに吐き出した。
肩に張り付いていた緊張が、わずかにほどけていく。
なんとか――乗り切った。
そう思った瞬間、力が抜けた。
気づけば背中に汗をかいている。
廊下の窓から太陽の光が差し込む。
電気は付いておらずとも明るい。
隣には――校長。
巨漢だった。
分厚い背中。広い肩。
その体格だけで、壁のような圧がある。
革靴が床を踏むたび、重い足音が廊下に響く。
校長は無言のまま歩いている。
それだけで胸が落ち着かない。
私たちは職員室へ向かっていた。
だが。
終わりではない。
むしろ――ここからだ。
その時だった。
「何を安心しているんですか?」
低い声が、隣から落ちた。
私は思わず肩を震わせる。
校長は前を向いたまま歩いている。
「ここからですよ。大事なのは」
静かな声だった。
だが、言葉は重かった。
どうやら。
安堵が顔に出ていたらしい。
私は慌てて背筋を伸ばす。
その瞬間。
校長の足が止まった。
コツン、と靴音が途切れる。
「それに――」
ゆっくりとこちらを振り向く。
鋭い眼光。
視線だけで、背筋が凍る。
「先生も処分の対象になる可能性があります」
空気が一瞬で冷えた。
「学年主任と共に、青井佑太君への停学処分を決めた」
校長の声は落ち着いている。
だが。
その奥に怒りが滲んでいた。
「それはそれで問題ですが」
校長の視線が、私を射抜く。
「しかし」
一拍。
「校長である私に、相談も共有もなかった」
沈黙。
廊下の蛍光灯が、ジジッと小さく鳴る。
「これは――大問題です」
言葉が胸に落ちた。
重い石のように。
「……覚えておいてください」
校長は私を真っ直ぐ見据える。
逃げ場のない視線。
怒っている。
それがはっきり分かった。
私は慌てて背筋を伸ばす。
「……はい」
喉が乾いていた。
「重々、承知しております」
それだけ言うのが精一杯だった。
校長は数秒、私を見つめていた。
重たい沈黙。
やがて視線を外す。
そして何も言わず、再び歩き出した。
コツ、コツ。
重い足音が廊下に響く。
私は慌てて後を追う。
廊下には2人分の足音だけが響いていた。
気まずい沈黙。
重たい空気。
校長の歩調に合わせながら、私は歩く。
やがて廊下の先に、職員室の灯りが見えてきた。
扉の向こうから、かすかな話し声も聞こえる。
だが――。
(終わっていない)
むしろ。
ここからだ。
職員室では、まだ新しい問題が待っている。
そう思いながら、私は校長の隣を歩き続けた。
「これから先ほどの動画の共有を職員室で行いますからね」




