第32話 クラスメイトたちが俺の味方になった日
(赤岩陽太視点)
校長と担任が教室を出ていき、廊下の奥へ姿を消した。
ガラッ――。
教室の扉が閉まる。静まり返った教室の中で、その音はやけに大きく響いた。
その瞬間だった。
それまで張り詰めていた教室の空気が、ふっと緩んだ。緊張感も和らぐ。
まるで誰かが、見えない糸を切ったみたいに。
その空気をクラスメイト達は感じ取ったようだ。
ガタッ。
幾つものイスが引かれる音が響く。
そして――。
ガタガタッ。
次々とクラスメイトたちが席を立ち上がった。
気がつくと、そのほとんどが俺の席の周りに集まって来ていた。
「赤岩、大丈夫だったか?」
「本当に! 青井君に殴られて痛かったよね?」
「今回は青井の奴が絶対に悪いと思うわ」
「うん。青井君、暴力は最低だよね」
「今まで見て見ぬフリして悪かったな」
「私たちは、みんな赤岩君の味方だからね!」
次々と飛んでくる言葉。
陽キャも。
陰キャも。
普段ほとんど話さないクラスメイトまで。
みんなが口々に青井を非難し、愛想よく俺に謝ったり、心配する声をかけてくる。
さっきまで――。
誰も何も言わなかったのに。
突然すぎて、俺は少し戸惑った。
当然、押し寄せて来たクラスメイトの数にも圧倒される。
まるで人の波に囲まれているみたいだ。
どう反応すればいいのか分からない。
「えっと……う、うん。……大丈夫」
情けないくらい短い返事しかできない。
それでも。
「そうか。ならよかった」
「なにかあったら言ってね」
「力になるから!」
「俺たちは赤岩のことが心配だからな」
みんなは安心したように頷くと、少しずつ自分の席へ戻っていった。
ガタッ。
ガタッ。
イスに座る音が、教室に静かに広がっていく。
どうやら、みんな1時間目の授業に備えるつもりらしい。
さっきまで俺の周りに集まっていた人の輪は、いつの間にか消えていた。
まるで、さっきの出来事が幻だったみたいに。
俺は、その背中をぼんやりと目で追った。
昨日まで。
いや――ついさっきまで。
このクラスの人たちは、どこか遠い存在だった。
同じ教室にいるだけの、ただのクラスメイト。
青井に逆らえずに従う存在。
俺は、心のどこかでそう決めつけていた。
俺の敵ですらあると思っていた。
でも。
今は、少しだけ違う。
さっきの対応。
俺のことを心配してくれる言葉。
謝罪の言葉。
味方だとも言ってくれた。
あの時、誰も助けてくれなかったと思っていたけれど――。
本当は違ったのかもしれない。
(……仲間が、増えた気がする)
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
昨日まで、この教室は
ただ居心地の悪い場所だった。
でも――
今は、少しだけ違う気がした。




