第31話 元カノの心境②
(岡あまね視点)
やばい。
やばい、やばい。
みんな――あたしの彼氏の佑太君を売ってるんだけど!!
思わず息を呑んだ。
教室の中で、手が上がっていく。
1人。
また1人。
そして、また1人。
「見ました」
「俺もです」
「殴ってました」
静まり返った教室の中で、証言だけが淡々と積み上がっていく。
信じられない。
あたしは、クラスメイト達を呆然と見つめた。
ついさっきまで普通に話していた顔。
昨日まで笑っていた顔。
その同じ口が――今、佑太君を追い詰める言葉を吐いている。
どうして?
どうして、そんな簡単に裏切れるの?
今まで佑太君に何も言えなかったじゃん!
……違う。
裏切ったんじゃない。
屈したんだ。
あたしは、教室の前に立つ校長先生へ視線を向ける。
さっき、校長ははっきり言った。
「このまま黙っているなら、見て見ぬふりをした者も同罪として扱う」
その1言で――空気が変わった。
みんな、怖くなったんだ。
だから――
保身に走って佑太君を売った。
しかも。
最初は陽キャが手を上げた。
それに続くように、陰キャ達まで証言を始めた。
佑太君の前では何も言えなかったくせに。
怖がって黙ってたくせに。
今さら正義の味方みたいな顔して。
胸の奥で、軽蔑と怒りが渦巻く。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
気づいたら、あたしは立ち上がっていた。
教室中の視線が、一斉にあたしに集まる。
「そんなの……嘘です!」
声が、少し震えていた。
「佑太君はそんなことしてません!」
必死に言い返す。
だけど――
「いや、してました」
すぐに、別の声が飛んだ。
「普通に殴ってました」
「俺、近くで見てました」
「動画の証拠あったじゃん」
「バカじゃね」
次。
また1人。
また1人。
反論が来る。
証言が増える。
1つ。
2つ。
3つ。
積み重なるたびに――あたしの言葉が、どんどん薄くなっていく。
あたしはもう、何を言えばいいのか分からなくなっていた。
頭が追いつかない。
さっきまで味方だと思っていたクラスメイト達が――
全員、敵になっていく。
ゆっくり。
確実に。
あたしは、立ち上がるクラスメイト達の姿を、ただ目で追うことしかできなかった。
周囲の言葉に押し潰されるように、あたしはイスへ崩れ落ちた。
やばい。
やばいやばい。
本当にやばい。
このままだと――
佑太君が退学になっちゃうかもしれない。
ただでさえ停学処分を受けたばかりなのに。
もし退学になったら。
佑太君の未来が、頭に浮かんでしまう。
あたしの喉が、カラカラに乾いた。
呼吸が浅くなる。
(どうしよう……)
背中に、冷たい汗が流れた。
これは――
もう、止まりそうにない。
佑太君は——終わる。




