第30話 校長の前でいじめ動画が再生された結果
(赤岩陽太視点)
次の日。
キーンコーンカーンコーン。
朝のチャイムが、校舎中に鳴り響いていた。
(やばっ……)
俺は校門をくぐり、昇降口を駆け抜け、そのまま廊下を全力で走る。
昨日の疲れが、まだ身体の奥に残っていた。
病院。
診断書。
警察署。
被害届。
精神的にも、肉体的にも――完全に疲労が蓄積していた。
そのせいで。
見事に寝坊した。
ガラッ!
俺は勢いよく教室のドアを開けた。
クラスメイトたちの視線が、一斉にこちらに向く。
俺は慌てて自分の席へ向かい、イスを引いて腰を下ろした。
ギリギリセーフ。
そう思った――その瞬間。
チャイムが鳴り終わった。
教室が、すっと静まり返る。
だが――
ガラッ。
再び教室のドアが開いた。
入ってきたのは担任だった。
……だが。
その後ろに続いて入ってきた人物を見た瞬間、教室の空気が一変する。
校長だった。
「「「ざわざわ……」」」
クラス中が一気にざわつく。
「おい! お前ら静かにしろ!!」
担任が怒鳴った。
いつもの声とは違う。
明らかに強い、張り詰めた声だった。
その異様な雰囲気を感じ取ったのか、クラスメイト達はすぐに口を閉じる。
シーン……。
教室に静寂が落ちた。
「先生。ここからは私が」
低い声で校長が言う。
「はい。校長先生」
担任は真剣な表情でうなずくと、逃げるように教壇から降りた。
代わりに、校長がゆっくりと教壇に立つ。
校長は教室を見渡した。
1人1人の顔を確認するように。
そして――口を開く。
「君達に聞きたいことがある」
低く、重い声だった。
誰も言葉を発さない。
ただ、空気だけが重く沈んでいく。
「一昨日。このクラスの赤岩陽太君の顔面を――青井佑太君が殴ったところを見た生徒はおるかね?」
空気が凍りついた。
「「「……」」」
誰も口を開かない。
視線を逸らす者。
机を見つめる者。
腕を組んで固まる者。
沈黙。
重い沈黙だった。
その沈黙を――
校長が破る。
「警察に被害届も出ている」
教室の空気が、さらに冷え込む。
「このまま黙っているなら、君達も同罪にするが」
「「「!? 」」」
クラスメイト達が一斉に顔を上げた。
ざわざわと動揺が広がる。
隣の生徒と目を合わせる者もいた。
男女関係なく、全員が戸惑っている。
「どうなんだね?」
校長が眉間に皺を寄せる。
その時だった。
「あ、あの!」
パッと手が上がった。
クラスの陽キャ女子だった。
「私、見ました!! 青井君が赤岩君を殴るのを」
勢いよく立ち上がる。
その瞬間。
「俺も!」
「あたしも!」
「僕も!」
次々と手が上がった。
まるで堰を切ったように。
クラス中の生徒が、次々と立ち上がっていく。
俺はその光景を、呆然と見ていた。
こんなに……いたのか。
見ていた奴が。
誰も助けてくれなかっただけで。
その時。
「僕、動画、持ってます!」
1人の眼鏡の男子生徒が立ち上がった。
手にはスマートフォン。
教室が一瞬ざわつく。
校長の目が細くなった。
「ほぅ」
校長はゆっくり教壇から降りる。
そして男子生徒の席まで歩いていく。
「ちょっと見せてくれるかな」
「はい! これなんですが!」
男子生徒はスマートフォンを差し出す。
校長はそれを受け取り――
再生ボタンを押した。
ピッ。
次の瞬間。
動画の音声が教室に流れた。
『はあぁぁ〜〜〜!!?』
『お前、言葉の使い方には気を付けろよ!! こらあぁぁぁ!!』
青井の声。
そして――
俺が殴られる音。
教室の空気が凍りつく。
誰も喋らない。
全員が動画に耳を傾けていた。
やがて動画が終わる。
教室は、完全に静まり返っていた。
さっきまでざわついていたクラスメイト達が、今は誰1人として口を開かない。
何人かは――
俺を見ていた。
同情したような顔で。
その沈黙を破ったのは、校長だった。
「……これは、暴力事件だ」
低い声が、教室に落ちる。
その1言で、空気が完全に変わった。
その中で――
やけに落ち着きのない人物がいた。
担任だ。
額に汗を浮かべ、そわそわと視線を泳がせている。
そして――
もう1人。
信じられないものを見るような顔で、周囲のクラスメイト達を見回している人物。
岡あまね。
俺の元カノだった。
顔色はいつもと違って悪く。
唇が震えている。
「それでは1度、私たちは職員室に戻りましょうか」
校長は教室を出ようとする。
「今、停学中の青井佑太君と保護者を学校に呼びましょうか」




