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第23話 被害届の提案

(赤岩陽太視点)


「15〜〜」


 昼休み。


 新聞部の部室。


 俺は歯を食い縛りながら、床に両手をついて腕立て伏せをしていた。


 腕がガクガク震える。

 肩も胸も、焼けつくように熱い。


 筋肉の悲鳴が、はっきりと身体に伝わってくる。


「はい〜! あと残り5回〜!!」


 すぐ横で、美月が元気よく声を張り上げる。


 両手を腰に当て、まるでコーチみたいに俺を見下ろしていた。


「16〜」


 腕にほとんど力が入らない。


 それでも――。


 意地で身体を下げる。


 胸をギリギリまで床に近づけ、歯を食い縛って押し上げた。


「はい! ラスト4回!!」


 パシッ。


 美月が軽く俺の背中を叩く。


 その刺激で、ほんの少しだけ気合いが入った。


 顔から汗がポタポタと床に落ちる。

 視界もわずかに揺れていた。


 限界は、とっくに超えている。


 それでも――。


 17回。


 18回。


 19回。


 なんとか、そこまで辿り着く。


「ラスト……20〜〜」


 最後の力を振り絞る。


 腕を少し曲げ、ぐっと身体を押し上げる。


 そして――。


 ドサッ。


 ほぼ同時に、俺は新聞部の部室の床へ倒れ込んだ。


「はい! 陽太君、お疲れ様〜!」


 美月がパチパチと拍手する。


「はぁ……はぁ……」


 俺はうつ伏せのまま、右腕で両目を隠した。


 呼吸が荒い。

 肺が焼けるみたいに痛い。


 身体が酸素を求めている。


「はい。これ」


 美月が声を掛けながら、ぐったりしている俺の前に何かを差し出した。


 俺は右腕をどかす。


 視界に入ったのは――。


 お茶が入った500mlのペットボトルだった。


「ありがとう」


 俺はゆっくり身体を起こしながら、それを受け取る。


 全身が鉛みたいに重い。


 なんとかバランスを取りながら、ペットボトルの蓋を回した。


 カチッ。


 蓋を開け、そのまま口に運ぶ。


 ゴクッ。


 ゴクゴクッ。


 勢いよくお茶を飲み込んだ。


「ぷはぁ〜〜」


 喉が一気に潤う。


 身体の奥に、少しずつ活力が戻ってくる。


 まだ腕も胸も痛い。

 でも――さっきよりはマシだった。


 補給した水分が、身体に回っていく感覚がある。


「ねぇねぇ。全然トレーニングとは関係ない話なんだけど」


 美月が前置きして話しかけてきた。


「うん? どうした?」


 俺はペットボトルの蓋を閉めながら、美月に視線を向ける。


 すると美月は、さっきまでの明るい雰囲気とは違う――真剣な目をしていた。


「青井に殴られた件だけど、警察に被害届を出した方がいいと思うんだけど。どうかな?」


「そんなこと……考えもしなかった。それに被害届って何? 具体的に何をするの?」


 俺が聞くと、美月は少しだけ驚いた顔をした。


「知らないの? 暴行や窃盗みたいな犯罪に遭ったっていう事実を、被害者側から警察みたいな捜査機関に申告する手続きのことだよ。陽太君は青井に暴力を受けたわけだから、被害届の対象になるの」


 分かりやすく説明してくれる。


 でも――。


「でも、もう終わったことだし……」


 俺は思わずそう言ってしまった。


 正直、面倒ごとに巻き込まれそうで避けたかった。


 それに学校側やクラスメイト達に目をつけられるかもしれない。


「終わってないよ! 暴力は犯罪だよ!!」


 美月が語気を強めた。


 真剣な眼差しが、まっすぐ俺を射抜く。


「でも……」


 俺はその迫力に押され、思わず視線を逸らした。


 すると――。


「ふふ。ねぇ、陽太君」


 美月が柔らかく微笑んだ。


 そして、そっと俺の肩に手を置く。


「陽太君は、青井や裏切った元カノの奴らが何も咎められずに、自分だけが笑いものにされたのが辛かったんだよね? だから、地獄に落としたかったんだよね?」


「……」


 俺は俯いたまま、何も言えなかった。


 図星だったからだ。


「私の記事で奴らの悪行は学校中に広まった。暴力を振るった青井は、1学期の間は停学処分になった。でも――」


 美月は俺を真っ直ぐ見つめる。


「こんなんで足りる?」


「……満足してない」


 俺はゆっくり顔を上げた。


「……正直、全然足りないと思う」


 胸の奥から、ドロドロした本音が溢れてくる。


 すると美月は、小さく頷いた。


「そうだよね。私も同じだから」


 そして――。


「なら、被害届を警察に出すべきだよ。殴られた陽太君には、その権利がある」


 美月は俺の右手を両手で包み込んだ。


 温かい。

 柔らかい。


「大丈夫。私が付いてるから」


 優しく微笑みながら、そう言ってくれる。


 その言葉を聞いた瞬間――。


 胸の奥にあった迷いが、少しずつ消えていった。


「分かった」


 俺はゆっくり頷く。


 決意が固まる。


「お母さんと相談して、被害届を出すように頑張ってみるよ」


「うん。それがいいと思う!」


 美月がパッと明るい顔になる。


「私も、おばさんへの説明に協力するから」


 そう言って、頼もしく笑った。


 その笑顔を見て――。


 俺は初めて思った。


 もしかしたら、本当に。


 ここから――。


 本当の意味で、俺の反撃が始まるのかもしれない。


あとがき


いつもお読みくださり、ありがとうございます。


ここから被害届や警察関係など、「社会的ざまぁ」に関わる犯罪系のストーリーにチャレンジしていきたいと思います。


法律の知識はあまり詳しくないため、


もし「ここはこうした方がリアルかも」

「実際はこういう流れになるよ」などがあれば、遠慮なくコメントでご指摘やご教授いただけると嬉しいです。


よろしくお願いいたします。

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