第19話 例の記事の掲載
(赤岩陽太視点)
ズル休みの2日間は、驚くほどあっという間に終わった。
その2日間――美月は毎日、俺の家に来ていた。
一緒に朝ご飯を食べて、だらだらゲームをして、くだらない話で笑い合う。
時々、美月はスマホを触って何か操作していたが、俺は深く聞かなかった。
きっと――あの記事の準備だったのだろう。
そして今日。
美月は俺の家に来なかった。
おそらく、記事を掲載するために早めに登校したのだろう。
……きっとそうだ。
俺は部屋の天井を見つめ、小さく息を吐いた。
未来のことを考えると、正直少し怖い。
だが――もう後戻りはできない。
俺はなかなか出発できず、時間を無駄にした末に、いつもより遅いギリギリの時間で家を出た。
いつもの通学路を歩く。
見慣れた住宅街。
見慣れた電柱。
見慣れた交差点。
それなのに――今日は少しだけ世界が違って見えた。
やがて学校の正門をくぐる。
校庭を横切り、昇降口へ向かった。
スニーカーを脱ぎ、上履きに履き替える。
――その時だった。
昇降口の前に、記事が1枚貼られているのが目に入った。
人だかりは少ない。
どうやらピークは過ぎたらしい。
あと5分で朝のホームルームが始まる時間だからだ。
だからこそ――
内容が、はっきり見えた。
タイトル。
『この学校でまさかの浮気NTR?』
俺は1歩、近づいた。
記事には、青井からモーインで送られてきたメッセージが掲載されていた。
さらに――
青井とあまねの関係を示す裸でベッドに寝転がる画像。
そこにはモザイク処理が施されている。
元カノのあまねから送られてきた、あのメッセージ。
『今日をもって別れてほしいの』
モーインでのやり取りも、証拠として掲載されていた。
……上手い。
どうやら美月の奴、かなり上手く編集したらしい。
俺は思わず小さく笑った。
ありがとう、美月。
心の底から、そう思った。
青井とあまねの悪行が、学校中に広まる。
それを想像しただけで――
胸の奥が、スカッとした。
ざまぁみろ。
不覚にも、心の底からそう思った。
俺は妙に晴れやかな気分のまま昇降口を離れた。
1階の廊下を歩く。
階段を上がる。
2階。
3階。
不思議だった。
緊張はない。
青井の存在も、もう頭に浮かばなかった。
俺は教室の後ろの扉を開けた。
ガラッ。
その瞬間――
クラスメイトたちの視線が、一斉に俺へ向いた。
……なんだこれ。
こんな経験、今まで一度もない。
沈黙を破ったのは――
「おい!!」
ドンッ!!
青井が机を強く叩いた。
勢いよく立ち上がる。
「お前、ふざけんなよ!!」
ズカズカと、俺の方へ歩いてくる。
「あの昇降口の記事はなんだ!!」
青井の顔は怒りで真っ赤だった。
「あの証拠のメッセージ! てめぇ、新聞部に情報売りやがったなぁ!!」
ガシッ。
胸ぐらを掴まれた。
制服が締め上げられる。
苦しい。
その横で――
あまねが俺を睨んでいた。
完全に敵を見る目だ。
だが――
「だったら、なんなの?」
気づいた時には、言い返していた。
記事が出たことで――
気持ちに勢いがついていた。
今まで絶対にしなかった反抗。
「……は?」
青井の額に青筋が浮かぶ。
「お前と元カノのあまねが悪いことしてるのに」
俺は青井を睨み返した。
「お前らは咎められない。なのに俺だけ笑い者にされる」
胸ぐらを掴まれたまま言う。
「それが気に入らなかったからやった」
俺は吐き捨てた。
「何が悪い」
一瞬の沈黙。
そして――
「はあぁぁ〜〜〜!!?」
青井が怒鳴った。
「お前、言葉の使い方には気を付けろよ!! こらあぁぁぁ!!」
ブンッ。
拳が振り抜かれる。
ゴッッ!!
顔面に直撃した。
衝撃。
視界が白く弾けた。
次の瞬間――
鼻から血が噴き出した。
俺の体は吹き飛び――
ガシャンッ!!
後ろの扉に背中から激突する。
「ぐっ……!」
背中に激痛が走る。
息が詰まる。
かなりの痛みだった。
「はぁ……はぁ……」
青井は肩で息をしていた。
その時――
ザワザワ……
教室が騒がしくなる。
「お、おい……」
「流石にやりすぎじゃないか?」
「ちょっと待って、今の飛び方やばくない?」
クラスメイトたちの声。
視線が青井に向く。
疑念。
その空気を切り裂くように――
「おい!! なんの騒ぎだ!!」
教室の扉が開いた。
担任だった。
先ほどの大きな音を聞きつけたのだろう。
慌てて教室へ入ってくる。
担任の視線が――
青井と、
俺へ。
息を荒くして睨みつける青井。
鼻血を流し、後方の扉にもたれて動けない俺。
数秒の沈黙。
担任は何も言わなかった。
ただ静かに歩く。
コツ、コツ、と足音だけが教室に響く。
そして――
青井のすぐ近くで止まった。
「青井、ちょっと話がある」
担任は淡々と言った。




