第18話 幼馴染がベッドで抱き付いたままトイレにも行かせてくれない
(赤岩陽太視点)
幼馴染の美月が、俺の左腕に抱きついたままスゥスゥと気持ちよさそうに寝息を立てている。
完全に――俺の左腕を枕にしていた。
一方の俺はというと。
――バキバキに目が開いていた。眠れる気配すら皆無なほどに。
天井を見つめたまま、呆然とする。
隣では美月がぐっすり熟睡しているのに、俺の意識は完全に覚醒していた。朝ご飯の後にあったはずの眠気は、もうどこにもない。
理由は簡単だ。
美月が、俺の腕に抱きついて寝ているからだ。
こんな状況で眠れるわけがない。
……というか。
眠れる奴がいるなら見てみたい。
いる?
そんな奴。
「……」
ゆっくりと視線を横に向ける。
そこには――美月の寝顔。
長い白髪がベッドに広がっている。
規則正しい寝息。
安心しきった子供みたいな顔。
……それなのに。
美貌のせいで、全部が絵になる。
恐ろしい幼馴染だ。
嫉妬すら覚える。
俺も恵まれた顔立ちで生まれたかった。
そう思わせるほど――
幼馴染の美貌は凄まじい。
それにしても――。
青井や元カノのあまねを地獄に落とすための記事作成の提案。
今日のズル休みの提案。
突然の自宅訪問。
そして――強引に俺を押し倒して、一緒に寝る。
……どれもこれも。
あまねと付き合っていた頃の美月なら、絶対にしなかったことだ。
今の距離の詰め方は――正直、不自然なくらいだ。
あの頃は。
俺とあまねが付き合い始めてから、幼馴染の美月とは自然と距離が生まれていた。
いや。
正確には――。
美月の方から距離を取っていた気がする。
まるで、彼女であるあまねの邪魔をしないように。
そう思えるくらいには。
「……」
隣で眠る美月を見る。
そんなお前が。
どうして、こんなに積極的なんだ?
心の中で美月に問い掛ける。
もちろん。
答えなんて返ってこない。
「……そりゃそうだよな」
小さく溜め息をつく。
返事なんて来るわけない。
自分に呆れながら、トイレに行こうと体を起こしかけた――その瞬間。
「むにゃ……どこかに行っちゃ~ダ〜メ〜〜」
美月の声。
「どこにも行かないで〜」
寝ぼけたまま、俺の左腕にさらに強く抱きついてくる。
ギュッ。
俺の左腕が、完全にホールドされた。
「ちょっ!?」
身体の自由が効かない。
「トイレだよ! トイレ!!」
必死に訴える。
しかし。
「ダ〜メ〜。ちょっとくらい我慢して〜」
寝ぼけた間抜けな口調で言う。
「私から離れちゃダメなんだからね〜〜」
ギュゥゥゥ〜~。
さらに腕を締め付けてくる。
その勢いで、体はベッドに引き戻された。柔らかい布団が俺の背中を受け止める。
「ちょ!? 結構ヤバいんだって!」
必死に訴える。
まじでトイレ行きたい。
尿意がやばい。
朝ご飯でお茶を飲んだから、結構溜まってるんだよ!
しかし。
「うっそだ〜〜。上手いこと言っちゃって〜〜」
まったく聞く気がない。
「そう言って、まだ我慢できるよね?」
ホールドは解かれない。
解かれる気配すらない。
「まじで……勘弁してくれよ……」
小さく呟く。
すると。
「大丈夫だよ〜」
美月が寝ぼけた声で続けた。
「最悪、漏らすのも……アリだから」
「いやいや!! それはダメだろ!!」
思わず大声でツッコミを入れた。
――限界だ。
このままでは、本当に危ない。
「悪い!!」
覚悟を決める。
さすがにベッドの上で美月の前で漏らすわけにはいかない。
一生の黒歴史になる。
強引に腕を引き抜く。
「ん〜……」
ホールドを無理やり引き剥がし、なんとかベッドから脱出。
そして――
全力で部屋を飛び出した。
ダッシュでトイレへ直行する。
意識はトイレにしか向いていない。
それほど限界だった。
その俺の背中を。
ベッドの上でムクッと起き上がった美月が――
頬をぷくっと膨らませていた。
完全に不満そうな顔で。
じーっと。
俺を見ていた。
……いやいや、トイレなんだけど。




