第16話 美味しい朝食
(赤岩陽太視点)
「はい! お待たせ。できたよ!」
幼馴染の美月が料理を食卓に並べ終え、パタパタと手を振って俺を手招きする。
エプロン姿のまま、どこか誇らしげな表情だ。
まるで「どう?すごいでしょ」とでも言いたげだった。
俺は重い腰を上げ、ソファから立ち上がった。
そして食卓へ向かう。
近づくと、ふわっといい匂いが鼻をくすぐった。
卵とハムが焼けた香ばしい匂い。
それに味噌の優しい香りが混ざっている。
思わず腹がぐぅ、と鳴りそうになる。
食卓にはハムエッグ。
それから、大根・にんじん・油揚げが入った具沢山の味噌汁。
湯気がふわりと立ち上っている。
朝からちゃんとした料理だ。
というか――
どう見ても俺の家の朝食より豪華な気がする。
見た目からして美味しそうだった。
俺はイスに腰を下ろす。
「い、いただきます」
食欲を抑えきれず、両手を合わせる。
「どうぞ。召し上がれ」
向かいに座った美月が、にこっと笑う。
エプロン姿のまま、嬉しそうに頬が緩んでいた。
その顔を見ると、少しだけ緊張する。
俺はハムエッグを箸で切る。
黄身がぷるっと揺れた。
そして少し緊張しつつも口に運ぶ。
――とろっ。
黄身の甘い風味が広がる。
ハムのジューシーな肉の味が口の中に広がった。
思わず目を見開く。
「どう? 美味しい?」
美月が身を乗り出してくる。
顔が近い。
どうやら感想が気になるらしい。
「お、美味しい」
思わず本音が漏れた。
「本当に!? よかった!!」
美月の顔がぱあっと明るくなる。
まるで自分のことのように嬉しそうだ。
「味噌汁もどう?」
「上手くできたと思うんだけど」
そう言って、味噌汁の椀を指した。
俺は味噌汁の椀を手に取る。
ほんのり温かい。
そして、ゆっくり啜った。
温かい汁が唇に触れる。
優しい白だしの味が――
口いっぱいに広がった。
大根は柔らかく、油揚げは出汁を吸っている。
身体の奥まで温まる感じがした。
「……美味しい」
ぽつりと呟く。
「本当に!? やった!」
美月は両手でガッツポーズをした。
子どもみたいに嬉しそうだ。
「前みたいに間接キスする?」
意地悪な笑みで俺を見る。
その瞬間。
昨日の昼休みの恥ずかしい出来事が頭をよぎった。
――あの時のことを思い出す。
「そ、それは遠慮しとく!」
慌てて拒否する。
すると美月は、くすくす笑った。
完全にからかわれている。
そんなやり取りをしながら、俺は箸を進める。
ハムエッグ。
味噌汁。
ご飯。
気づけば――
皿も椀も、すっかり空だった。
……気づけば全部食べていた。
(……完全に胃袋を掴まれた気がする)
美月に気持ちを読まれないよう、心の中で呟く。
「ふぅ〜」
「ありがとう。ごちそうさまでした」
両手を合わせて礼を言う。
「ふふっ。お粗末さまでした」
美月は頬杖をつき、優しく微笑んだ。
そのままぼんやりしていると――
急に眠気が襲ってくる。
お腹が満たされて、身体が温まったせいだろう。
「ご飯食べたら眠くなってきた」
俺は欠伸を手で押さえた。
食べると眠くなる体質なのだ。
身体がふわふわする。
力も抜けてくる。
瞼も重い。
すると美月が、くすっと意味深に笑った。
そして――
少しだけ顔を近づけてくる。
「じゃあ、今から一緒に寝る?」




