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第15話 昨日の幼馴染の提案の真意

(赤岩陽太視点)


 俺は自宅のドアノブに手を掛け、ゆっくりと扉を開いた。


 ギィ、と小さな音が鳴る。


 ――そして、目の前の光景に一瞬固まった。


 玄関の前に立っていたのは、見慣れた顔だった。


 幼馴染の白井美月だ。


「陽太君、おはよ!」


 美月は太陽みたいな笑顔で、元気よく手を振った。朝日に照らされた白髪のロングヘアがふわりと揺れる。


「お、おはよう」


 一方の俺は、ぎこちない声で挨拶を返すしかなかった。


 というか――。


「どうして、来たの?」


 率直な疑問が口から出る。


「うん? 昨日、言ったじゃん。一緒にズル休みするって」


 美月はきょとんとした顔で、小さく首を傾げる。


「いやいや。各自で自宅待機じゃないの?」


 俺がそう言うと、美月はくすっと笑いながら首を左右に振った。


「違う違う。ズル休みして一緒に過ごすの。だから、陽太君の家まで来たの」


 いや、意味が分からない。


 ズル休みって普通、家で静かに過ごすものじゃないのか?


 というか、なんでズル休みでわざわざ俺の家に来るんだ。


 それとも、もしかして――。


 「大丈夫。私がついてるから」


 昨日、美月が言ったあの言葉って、こういう意味だったのか?


 ……いや、たぶん違う。


 たぶん、俺が思っていた意味とはだいぶ違う。


「おばさん仕事休み?」


 俺が言葉を失っていると、美月がふと話題を変えた。


「……1時間ほど前に仕事に行ったけど」


 今朝の記憶を辿りながら答える。


「なら入れるね。それと朝ご飯食べた?」


 美月は当たり前みたいな顔でそう言う。


「まだだけど」


 俺が答えると、美月の目がぱっと輝いた。


「じゃあ、私が朝ごはん作るから一緒に食べよ!」


 嬉しそうにそう言って、にこっと笑う。


「いや、そこまでは」


 俺はやんわり断ろうとした。さすがに申し訳ない。


 ――が。


「いいからいいから! お邪魔するね!」


「え、ちょ、強引すぎない?」


 美月は楽しそうに笑いながら、俺の背中をぐいっと押した。


 そのまま俺を玄関の中へ押し込み、自分も当然のように家へ入ってくる。


 そして玄関で靴を脱ぐと、迷いなくリビングへ上がっていった。


 ……ここ、本当に俺の家だよな?


 というか、なんで俺より先に美月がリビングに入ってるんだ。


 この家の住人って俺だよな?


 もしかして俺、いつの間にか居候にでもなったのか?


「おばさんのエプロン借りるね!」


 美月はリビングに上がるなり、そのままキッチンへ直行した。


 冷蔵庫の横のフックに掛けてある、お母さんのピンク色のエプロン。


 それを当然のように手に取り、自分の物みたいに首に通す。


 まるでこの家の住人みたいな動きだ。


 ……いや、俺より自然に動いてないか?


 エプロンを着け終えると、蛇口を捻り、丁寧に手を洗い始める。


「冷蔵庫あけるね~」


 美月が俺の返事を待たずに、冷蔵庫の扉を開く。


 ……もう完全に自分の家みたいに扱ってるな。


「ハムと卵に、味噌もあるから。簡単に作っちゃおうかな」


 そう言いながら、美月は冷蔵庫から次々と食材を取り出す。


 ハム。卵。味噌。


 それをキッチンの台に並べていく。


 さらに驚いたのはその後だった。


 美月は引き出しを開け、迷いなくフライパンを取り出す。


 続けて、別の引き出しから片手鍋も取り出した。


 ……なんで場所知ってるんだ?


 俺の家で料理したことないだろ?


 というか、俺よりキッチンに詳しい気がするんだが。


 ちょっと怖くなる。


 片手鍋に水を入れ、IHのコンロの上に置く。


 スイッチを入れて、片手鍋を温め始める。


 さらに、別の引き出しからまな板と包丁も取り出す。


 もう完全に料理モードに入っている。


 俺はキッチンの入口で、ただ呆然と立ち尽くしていた。


「今から作り始めて10分くらいでできると思うから、それまでソファでくつろいでて」


 美月は振り返り、少し得意げにそう言った。


 完全に、家主みたいな口調だった。


「う、うん。分かった」


 俺は逆らう気力もなく頷く。


 言われた通り、リビングのソファに座った。


 キッチンからは、包丁がまな板を叩く軽快な音が聞こえてくる。


 トントントン。


 その軽快でリズミカルな音を聞きながら、俺は天井を見上げた。


 ――ズル休みしたはずなのに。


 なんで俺の家で、幼馴染が朝ご飯を作っているんだ?


 状況がまったく理解できない。しかも完全に、この家の住人みたいに居座っているし。


 それでも、味噌の香りと焼けるハムの匂いが、ゆっくりとリビングに広がってきた。


 結局俺は、そのままソファに座りながら、


 朝食が完成するまでの10分ほどを、ぼんやり待つことになった。


 美月の作る朝食に、少しだけ期待しながら。

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