第14話 ズル休み1日目の朝(仮病を使う)
(赤岩陽太視点)
――翌朝。
カーテンの隙間から差し込む朝日が、まぶた越しにじんわりと染み込んでくる。眩しい……。
「陽太、朝よ。起きなさい」
おっとりした声とともに、肩を軽く揺さぶられた。
目を開けると、そこには黒髪ロングヘアのお母さんの姿があった。いつも通りきっちり整えられた髪、ナチュラルな化粧。仕事前なのか、少し急いでいる空気が漂っている。
そんな中、俺は無関係な昨日の美月の言葉を思い出す。
――明日から2日間休めばいいじゃん。
胸の奥がチクリと痛む。内側から抵抗感が湧き上がる。罪悪感に襲われる未来が、容易に想像できた。自分も責めすらするかもしれない。
けど、美月と約束したから。
「……ん……」
身体を少し丸め、いかにも具合が悪そうに眉間に皺を寄せ、辛そうに目を細める。
「どうしたの? 何か変よ」
お母さんが俺の額に手を当てる。
やばい。平熱だったらどうしよう。おそらく熱なんて無い。全然、身体も熱くない。
「……ちょっと、気持ち悪い……」
俺はお母さんと視線を合わせず、苦しそうに弱々しく呟く。時折、はぁはぁとしんどそうに息を乱す。もちろん演技だ。
「え、だ、大丈夫? 学校、行けそうにない?」
お母さんは俺の額から手を離し、心配そうに尋ねる。
うん。ごめん。うそなんだ。ズル休みのための仮病なんだ。俺の身の安全のためとはいえ、ごめんね。
俺は腕で目を隠したまま、ゆっくりと首を縦に振った。
本当は、ただ怖いだけだ。
青井と顔を合わせるのが怖い。その防衛策として、美月の提案通りに2日間休む。
「そっか……わかった。それなら学校には連絡しておくわね。今日はどうしても外せない仕事があるから、看病は見られないけど……大丈夫?」
「……うん」
俺は、わざと怠そうな目を作って、もう1度小さく頷いた。
「分かった。ちゃんとご飯は食べなさいよ。何かあったら必ず連絡して。飛んで帰るから」
それだけ言い残して、お母さんは俺の部屋を出ていった。
しばらくして、玄関のドアが開く音がする。どうやら仕事に向かったようだ。
俺1人しか居ない家の中が、しーんと静まり返る。
天井を見つめたまま、俺は大きく息を吐いた。
ズル休み。
本当にやっちまった。
罪悪感と安堵が、胸の中でぐちゃぐちゃに混ざる。だけど安堵の方が優勢だった。それほど、俺の心は青井から逃れることを望んでいるのだと分かる。
そのままベッドに寝転がり、ぼんやりと時間が過ぎていく。
どれくらい経ったのか分からない。
気になって、近くのスマートフォンを手に取る。
ロック画面に表示された時刻は――8時30分。
ちょうど朝のホームルームが始まる頃だ。
今頃、教室では出席が取られているかもしれない。
「赤岩は?」とか言われているのかもしれない。
――ピンポーン。
突然、ドアフォンが鳴った。
「っ!?」
心臓が跳ねる。
宅配? それとも何かの営業? いや、お母さんは何も言ってなかった。
無視するか?
でも、なぜか出ないといけないような、妙な衝動に襲われる。
「はぁ~……出るか」
ため息をつきながら、重たい身体を起こす。
部屋を出て、階段を降りる。
1段1段、家に1人しか居ないせいで、やけに足音が大きく響く。
1階に到着し、リビングのドアフォンのモニターの前に立つ。
恐る恐る、来訪者を確認する。
画面に映った姿を見た瞬間――
「えっ!?」
思わず声が漏れた。
白のパーカーに、黒のショートパンツ。
見慣れた白のロングヘアの美少女が、朝日に照らされて立っている。幼馴染の美月がドアフォンのカメラに映っていた。
「やっほ〜」
美月はドアフォン越しに、満面の笑みで手を振っている。
無邪気な声が、スピーカー越しに響く。
「ちょっと待ってて」
俺はドアフォン越しにそう伝えると、足早に玄関へ向かった。
俺の背中にドアフォンの電源が落ちる高周波の音が届く。
どうやら俺のズル休みは、大人しく終わらないみたいだ。




