第10話 何であんな奴と一緒に
(青井佑太視点)
「それでさ――」
俺、青井佑太はクラスの男友達と一緒に学食を済ませ、教室に戻る途中だ。
食堂での昼食では色々と盛り上がった。特に、あまねを寝取った経緯や元カレの赤岩へのメッセージ、あまねが赤岩に自分から別れを切り出した話題は特に盛り上がったな。あ~、めっちゃ笑ったぜ。人の不幸は蜜の味ってまじだよな〜。
俺達は1階の食堂を後にして、3階の教室に向かうために、階段のある踊り場に向かう。
「うん? 」
俺は少し離れた廊下を並んで歩く2人の生徒に自然と目が行く。
1人は俺に彼女をあっさりと寝取られた赤岩。相変わらず陰キャ感が丸出しである。みっともない上にダサい。
その赤岩と隣に並んで歩く女子。これが問題だ。赤岩だけが1人で歩いていても、俺が大して興味を持つことは絶対にない。隣を歩く女子に惹かれて今も視線を向け続けているのだ。
白井美月。
学年1のルックスと呼び声の高い2年の女子。俺と同級生でもある。
サラサラできめ細やかな白髪のロングヘアに、同級生の女とは一線を画す芸術品のような水色の瞳、シミ1つない綺麗で美しい純白な肌、色っぽさを感じさせ吸い付きたいほどの魅惑の薄いピンク色の唇。それに1度は、あの柔らかさを堪能したいと男なら誰もが思う、夢の詰まった豊満な胸。
そんな全てを兼ね備えた美少女、白井美月がどうして、俺にあまねを寝取られた陰キャと並んで歩いてるんだ?
赤岩ごときが一緒に居ていい女じゃねえ。明らかに釣り合ってない。
ムカつくぜ。これは異常事態だ。
俺に彼女を寝取られた赤岩ごときの陰キャが、俺でも届かない美少女の白井美月と一緒に居るなどあってはならない。
「ちょっと、お前ら。用事が出来たから先に教室に戻っててくれ」
俺は友人達にそう伝え、教室に向かう逆の方向へ進む。
ふざけるな。さっさと離れやがれ。赤岩のクソが!! 身の程をわきまえやがれ。
仲良く並んで歩く白井美月と赤岩が居る廊下に向かう。
ようやく目的地の廊下に到着する。
白井美月と赤岩は仲睦まじい雰囲気で俺の前を歩く。
おら! 赤岩さっさとそこをどけ! お前ごときが気軽に白井美月の隣を独占するな!!
「なあなあ。白井美月だよな? なんでこんな陰キャと一緒に居るんだ? 」
俺は後ろからダッシュで赤岩の背中に突進する。もちろんわざとだ。邪魔で気に入らないから白井美月の隣から敢えて遠ざけた。ただそれだけ。
俺に突進された赤岩は前方に押し出される形で、バランスを崩して廊下の床に倒れ込む。
俺にフィジカルで負けて吹っ飛んでやがる。しかも無様に転んでやんの。だっせ〜~。
「よ、陽太君!? だ、大丈夫!? 」
白井美月は前方で転んだ赤岩を心配するように慌てて駆け寄る。陽太の制服に掛かったゴミやホコリを優しく払う。
「いててっ。な、何とか…」
赤岩は顔を歪めながらも、白井美月の前で強がる。こういう妙にプライドが高い所も超絶キモい。陰キャは陰キャなりにずっと痛がって転がっておけよ。そっちの方が断然お似合いだから。
白井美月は赤岩に手を貸して立つ支えを担う。白井美月のおかげで何とか赤岩は立ち上がる。
それにしても。陽太君? それって赤岩の下の名前じゃ…。どうして白井美月が赤岩ごときを下の名前で呼ぶんだ? 意味が分からない。
「なんだよ。なんで、あの白井美月が陰キャの赤岩ごときを下の名前で呼ぶんだよ」
俺は理由を聞き出すために疑問を言語化する。
「ちょっと!! 私の幼馴染の陽太君になにしてんのよ!! 」
白井美月はキッと鋭い目で俺を睨み付ける。
「え…。あ、いや。たまたま当たって…」
俺は白井美月の予想外の反応に戸惑い、その場凌ぎで咄嗟に嘘をつく。それにしても白井美月と赤岩が幼馴染!? まじかよ!? そんなの有り得るのかよ。信じられねぇ。
正直、羨ましすぎる。
「たまたま当たったとしても、何ですぐに謝らないの? 明らかに、そっちの方が悪いよね? それに陽太君を心配する素振りすらも見せなかったし」
白井美月は俺の行いと態度を強く非難する。
「そ、それは…」
俺は言葉に詰まる。目の前の白井美月の迫力に圧倒される。まさか、ここまで白井美月が怒りを剝き出すとは思わなかった。
「ねえ、すぐに陽太君に謝ってくれない? もし謝れないようなら、私がお前に倍返しでやり返すから。今日中に、お前が油断してる隙を狙って同じように後ろから突き飛ばしてあげる」
白井美月は鋭い眼光のまま俺に詰め寄る。なんだ白井美月って、こわっ! ビビるわ。こ、これは早く謝っとかないと。
「わ、…悪かった」
俺は赤岩と目を合わせず適当に形だけの謝罪をする。
「は? ふざけてるの? お前は幼稚園、小学校と先生から、そんな謝罪の仕方を教えて貰ったの? もちろん違うよね? そんなはずないよね? ほら、自分の知ってる限りの謝り方で、しっかりと陽太君の目を見て、誠意を込めて申し訳なさそうに頭下げて謝って!!!さっきのなんか謝罪でも何でもないんだから」
白井美月は俺の背中を強く押す。強引に赤岩の近くまで俺を移動させる。
「わ、悪かった」
俺は白井美月が怖くて従順に従い、赤岩の目を見て謝罪する。
「悪かった、じゃなくて、ごめんなさいね! そんな初歩的なことも知らないの? バカなの? アホなの? カスなの? ほら! もう1回やり直し!! 」
白井美月は俺の謝罪の言葉選びに容赦なくケチをつける。
か、勘弁してくれよ~〜。白井美月、怖すぎる。
「ご、…ごめんなさい」
俺は陰キャで格下の赤岩に頭を下げて謝罪することに屈辱感を覚えつつも、白井美月が怖すぎてプライドを捨てる。白井美月の指示通りに赤岩に謝る。
「陽太君、これでいい? もし陽太君が許せないなら、こいつに遠慮なく他のこともやらせるけど? 」
白井美月は俺の時と劇的に態度を変え、優しい瞳と口調で赤岩に尋ねる。
「う、うん。しっかり謝罪して貰ったし」
赤岩が首を縦に振る。
「幼馴染の私からしたら、まだ全然足りないけどね!!! 陽太君が優しくて聖人だから、ああ言ってるだけだからね!!! 勘違いしないでよね? 仕方なく、ここらへんで勘弁してあげる。本当に!! 気を付けてよね!!! 」
白井美月は俺から興味を失くすように、プイッと視線を外す。
「私の大切な幼馴染の陽太君を傷つけた人なんかの顔を見たくない! 今後、陽太君と私に関わらないで!! 」
白井美月は強い口調で言い放つ。
「陽太君は何も悪くない。悪いのはお前。しっかり心の中で留めておきなさいよ! 」
白井美月はビシッと俺の顔を指差す。
「陽太君、あんなの放っておいて、さっさと行こ」と赤岩に声を掛け、共に仲良く並んで歩きながら、再び廊下を進み始める。
一方、俺は白井美月の恐怖から解放され、強い安堵を覚える。その解放感により身体が大きく脱力する。
そのせいで目の前で遠ざかっていく2人の背中を、何もできずにただ見送ることしかできなかった。
いつの間にか廊下の端で数人が立ち止まっていた。
呆然と立ち尽くす俺を、可笑しそうに見ていた。
なんで、俺が笑われてるんだ?
笑い声が、やけに耳に残る。
その場にいた誰かが、小さく笑いながら記念として写真を撮るためにスマホを構えていたことに、俺は気づいていなかった。
人生で初めてかもしれない。俺の学校内での立ち位置が、ほんの少し下がるようにズレた気がした。
なんでだよ……。俺が笑われる筋合いはなくないか?




