第二十九節 2023/9/29 アウェイ 対横浜F・マリノス 2対0
そこかしこに貼られた『港町決戦』のポスターを前に、武者震いに似た感覚に襲われる。
「ついに来たね」
「そうですね!」
今シーズンの天王山。絶対に負けられない一戦。究極の6ポインツマッチ。
今日の試合を形容する言葉は数あれど、燃え上がるこの気持ちを形容できる言葉はない様に感じた。
と言うのも、
「特に相手は横浜だからね」
「神戸の人は、横浜を意識するんですか?」
「そうだね。普段は横浜の方が規模が大きいのは事実だから、『意識しない』などと言うけど、直接対決となると燃えるものがあるのは事実だね」
「そうですね。なんか、今日の村田さんは目から炎が出てる感じです」
その答えに少し吹き出してから
「本能で動けてるかな」
「はい!今日の村田さんは、本能で動けてます」
本能で動けてるなら何よりだ。
試合会場についてからも、あちこちから「今日は絶対に負けられへん」「横浜がなんぼのもんや」「仕事休んで来たわ」などの声がある。
今日は声が枯れるまで出す。そう決心した頃、チャントが始まる。
試合は前半の20分頃に、PKをめぐってオンフィールドレビューという主審による映像確認が入る。
『PKをとってくれ!』
そんな願いが周囲に充満する。
その願いが、どこまで届いたかは分からないが、PKが宣告される。
キッカーは大迫。
落ち着いた見事なゴールが決まる。
私は周囲の人たちと肩を抱えて喜び合う。
もう、人見知りモードなどまるで関係なかった。とにかく、今の歓喜をどうすれば表現できるか、心をぶちまけることだけを考えていた。
「今日の村田さんは一味違いますね!」
「当たり前じゃないか。今日騒がずしていつ騒ぐんだよ!」
前半終了間際に、武藤が追加点を決める。
もう私の中にあった、理性の人などというどうでもいい肩書きはなくなっていた。大声でチャントを歌い、ひたすら時間が過ぎるのを待った。
試合は2対0で勝利した。
「優勝だよ!優勝しかないよ!」
「本能で動けばと言ったのは私ですが、本能で動かれるとこんなにうるさいんですね。村田さんって」
「何か言った!?」
「こちらの話です。ところで村田さん」
少し私を落ち着けるかのように間をとってから小林さんは言う。
「ヴィッセルは生きる意味になりそうですか?」
私の中の理性が戻ってくる。
「何だかできそうな気はしてるよ」
「落ち着いてもらえて何よりです」
帰りの新幹線では今日の興奮が収まらなかったが、生きる意味という課題が再び鎌首をもたげていた。




