第十五節 2023/5/27 ホーム 対FC東京 3対2
「東京、東京うるさいですね」
ハーフタイムに、相手の応援に小林さんが不満を漏らす。
「彼らにとって東京のチームだと言うことが唯一の誇りだからね」
「でた。辛口村田」
「関西の人間だからね。多分遺伝子レベルで東京への対抗心は組み込まれてるんだ」
「その割に標準語ですよね」
「東京で働いていた時期が長かったからね。あとは小林さんが標準語だから合わせてるって言うのもあるよ」
「東京で働くのは楽しかったですか?」
「やりがいは感じていたね。大変だったけど。とにかく仕事に熱中してた。その時だったら生きている理由は仕事でよかったんだけどね」
本音を答える。私にとって、仕事は全てだった。
「とは言うものの今の生活も悪くはないんだ。小学生以来の何もない長期休暇でゆっくり過ごす日々はなんだか心がいやされる気がする」
そこに言葉を付け足す。
「でも、生きたい理由にはなってないな」
「村田さん」
少し、私の注目を引きつけ、小林さんが言葉を重ねる。
「ほとんどの人は、生きたい理由なんてなくて生きてるんですよ。村田さんは優秀だったから、生きたい理由があっただけで」
少し考えてから、小林さんに反応する。
「優秀かどうかって関係あるのかな」
「ありますよ。優秀な人は、人に迷惑かけずに生きられる」
小林さんのバックボーンが、溢れてくる。
「人に迷惑ってかけちゃダメなのかな」
「ダメです。村田さんには分からないだろうけど、自分もしんどくなるんです」
少しずつ見えてくる、小林さんの生きにくい思い。
だが、その思いに理詰めで対応してはいけない。
小林さん自身が気づいて、前向きな思いに変換しなければいけない。
「難しいな」
思わず小声で呟く。
「何か言いました?」
小林さんが聞き返す。
「大したことじゃないよ」
と誤魔化したところでハーフタイムを終えた選手達が出てくる。
試合は3点を先制したものの、2点を取られ、薄氷をわたる思いでなんとか逃げ切った。
「いやぁ危なかったね」
「そうですね」
「でも、東京のクラブに勝てて気分がいいよ」
「いかにもな、関西人の発言ですね」
ふと、いたずら心で関西弁でしゃべる。
「そんなん当たり前やんか。生まれも育ちもこってこての関西人やねんから」
小林さんがびっくりした顔をする。
「村田さん、関西弁似合わないです」
「似合わないと言われても・・・。家族や地元の友達とは関西弁でやり取りするよ」
「なんか違和感すごいんで。やめてくれると嬉しいです」
「じゃあやめとくよ」
「ありがとうございます」
その後、御崎公園駅で別れふと考える。「そうか、小林さんの中の村田像には関西弁がなかったか」そんなことに気づき、何だか面白くなる。




