迷惑な客
マッサージ専門店は開店直後から盛況で、客足が途絶えることは無かった。
とりあえずはマッサージ店を週3日営業して、西地区・南地区の衛兵詰め所への訪問営業は隔週1回とさせてもらっている。
休日は『魔力蓄積器』の製造を出来る限り行っていた。
アルムにやらせて見たところ、作成なら日に2個。
魔力の充填は日に1回が限界だったようだ。
魔力の充填でほぼ魔力が空になるらしく、回復には丸1日かかると言われた。
いざと言うときに魔力が空では困るので、相変わらず俺が黙々とこなす作業となっている。
『マジックタートル』も定期的にアオイさんとクルガが狩りに行ってくれており、その他の材料も薬屋のディックが確保してくれていた。
おかげで我が家の冷蔵室には常に『マジックタートル』の肉がストックされている。
セリアもアオイさんとの稽古を続けていて、10回毎に俺とセリアからの奉仕を受けていた。
最近はセリアも腕を上げてきていて、稽古が大変だと漏らしている。
そんなある日、訪問営業の日以外は自由にしているクルガが珍しく店に待機していた。
そして、
「主殿、少し厄介な客かもしれんぞ」
と言い壁際で静かに立っていた。
店に入ってきたのは、3人の客だった。
3人とも、顔を隠すように黒いフード付きのマントを羽織っていた。
おそらくは身分の高い人物で二人は護衛なのだろうと思わせる立ち位置を取っている。
「いらっしゃいませ。えーっと、マッサージでいいんですよね?」
口を開かない男に俺が話しかける。
「......ああ、頼む」
「では、こちらに。お二人はお待ちになっていて下さい」
俺の言葉に、二人は何故か身構える。
「構わん。待っていろ」
男がそう言うと、二人は大人しく待合室の椅子に座った。
町民が並ぶ待合室に黒いマントの男二人は、なんとも浮いていてなんだか奇妙な光景だった。
服を脱いだ男の身体は鍛えられていて引き締まっていた。
そして、動きから腰を痛めているという事が見て取れた。
「腰を大分痛めていますね」
「ああ、腰を念入りに全身を頼む」
「分かりました」
俺は薬効成分を含んだオイルを塗り込み、触手で丁寧にマッサージしていく。
時折、痛みからか声を漏らすが、『闇の触手』を見ても驚いた様子は見られなかった。
「終わりました。......どうです?」
「......腰が軽くなった。受け取れ」
男が渡してきたのは白金貨だった。
「ちょ! こんなには受け取れませんよ」
「構わん。俺様の腰を治したんだ、それは当然の報酬だ」
男は服を着ると、護衛の二人を連れて取り付く暇も与えずに店を出ていってしまった。
颯爽とマントを翻し店から出ていく背中に視線を送る。
俺はその男を少し格好良いと思ってしまった......。
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「これは兄上、今日はどういったご用件で?」
「貴様に用などない。この町に出した商店を見に来ただけだ」
「そうでしたか、どうぞゆっくりして行って下さい」
「俺が貴様の用に暇な身だと言うのか?」
「いえ、そのような事は......」
エステリオの屋敷を訪れたベインズは険悪な雰囲気を出したまま、出されたお茶に手も着けずにいた。
「それはそうと、この町に居る腕の良いマッサージ師。あれを俺に寄越せ、そうすれば武器も質のいい物を安く回すぞ」
「そ、それは、勘弁して下さい。彼は町にとって大事な人物故に」
狼狽えるエステリオにベインズは少し口元を緩める。
「ほう、お前がたかがマッサージ師に入れ込むか。そういえば普通の人間では無かったなようだな奇妙な両腕に、魔法の腕も良さそうだ」
「......それだけは兄上の言葉といえども聞くことは出来ません。どうかご勘弁を」
「お前に、本心から頭を下げさせるか。......まあいいだろう、今日の俺は機嫌がいいからな。
ならば二月に一度は、あの男を『ティシカ』に寄越せ。なに費用は全て持ってやる」
「......伝えておきましょう」
ベインズはテーブルに置かれたカップの中身を一気に飲み干すと、そのまま立ち上がりエステリオの屋敷を後にした。
ベインズの立ち去った後、魂が抜けるような溜息をつくエステリオの姿があった......。




