中央地区への引っ越し
夏が過ぎ葉が紅く色づく頃。
東地区の通りに面した一等地に新たに商店が出店された。
ほとんど踏み入らない東地区の出来事を俺は知る由もなく、夫婦となったセリアと魔物執事のアルム、獣人のクルガと共に中央地区に建てた新居への引っ越しを行っていた。
その中で只一人、クルガだけは東地区の出来事を把握していた。
休みには、その獣の足をもって町を駆け巡り、彼独自のコミュニティを築き上げていた。
町に住む犬達との交流である。
元来の力から争わずしてリーダーの地位に着き、その支配範囲は町全体を覆っており、多くの情報がクルガの耳には入っていた。
多くの恋人? も居たようだが、種族の違いなのか子を成すことは出来なかったようで、国に残した妻達の出産が迫って来たのを期に涙の別れをしていた事はカツジ達も知らない出来事だった。
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新居は中央地区の大きな通りに面した庭付き一戸建て。
地上3階地下1階の造りで、1階はマッサージ専門の店舗スペースとタオル専用の洗濯室。
地下はアルムの部屋と魔法道具の開発室と倉庫。
居住スペースを2階と3階としてクルガには本人の希望もあって庭に小屋を作ることとなった。
もちろん犬小屋のような小さな物ではなく、一人暮らしには充分な広さの小屋だ。
(夜な夜な出かけるクルガには、その方がいいんだろうな)
2階には『魔導冷蔵室』を設置し、各フロアには『魔導エアコン』、各部屋には『魔導ライト』が設置されている。
普通の人には魔法の家(実際そうなのだが)に見える事だろう。
南地区の職人達に家具を依頼したら、結婚祝いだと言い店で使うベッドまで格安で作ってくれた。
俺は3階のベランダから見える町の風景を、海からの潮風を頬に感じながら楽しんだ。
「さぼってる~」
セリアが3階に上がってきて声を掛けてきた。
「......少し休憩さ」
隣まで来たセリアの腰に手を回して口づけをする。
「......ん」
舌をセリアの口に滑り込ませ彼女の反応を楽しむ。
俺の視界の端で音もなく閉まる部屋のドアが目に入った。
(アルムだな、......ありがとう)
彼女の豊かな胸に手を伸ばすと、
「まだ、片づけが残ってるよ」
と言われる。
「少しだけ......」
俺はそう言ってセリアを抱き抱えると、ベランダから部屋の中へと入っていく。
「もう」
セリアは微笑みを浮かべてそう言った。
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東地区に新しく出来た店舗の評判は上々だった。
質はいまいちで価格も高めらしいが『迷宮島』で活動する冒険者の武器の消耗は激しく、辺境のグレイポートで出回っている武器自体の質の悪さもあり、わざわざ他の町、例えば鉱山都市『ティシカ』まで買いに行くよりはお得という事だった。
店が武器の打ち直しに応じたことも評判を上げる要因だったのだろう。
質がいまいちの武器を売っておいて、それを打ち直す。
一見、最初から良い武器を作れ、もしくは打ち直しておけ。
と言いたくなるが、鍛冶職人の腕も悪く中古の武器が店に並ぶことが多いグレイポートでは、打ち直せるだけマシという事で納得していたのだ。
エステリオは店の評判を耳にして、思案を繰り返す。
これは何かの策謀かと......。
ベインズの要求はこうだった。
商店をひとつ出させて貰いたい、店舗の名義はエステリオとして武器の納入はこちらで行う。
......と。
確かに、元から町で商売をしていた武器屋は打撃を受けているのだろうが、元々鍛冶の腕が悪く、向上する気構えも見られなかったしエステリオも、あまり力を入れていなかった。
衛兵などは自ら剣を打ち直す者も居るほどだった。
(市場の独占? ......一応、気を付けておきましょう)
エステリオは腕の中で眠るメイドに視線を落とす。
実際は孫ほどの年の離れた女性に優しい視線を送り、彼も眠りに着くのだった......。
1万アクセスいきました。
読んで頂いた方々、ありがとうございます。
少ない文章量
なかなか進まない物語と
実力の不足を痛感しますが
今後も見守っていただければありがたいです




