魔物執事
俺の目の前に現れた謎の男。
その男は、元々は俺の腕だったと告げた。
「まだ、この地で生を受けて、幾ばくも経っていませんが再びご主人様に仕えさせて頂ければ幸いです」
「だが、一体何で? いや、俺の腕だったというのは信じるが......」
目の前の男が、自分の腕だったという事には確信があった。
しばらく会わずに見た目が変わった友人に再会したような感覚......。
「詳しくは分かりませんが、私はある者が作ったシステムのバグのような存在なのだと考えています」
「システム?」
「はい。記憶にある言葉を使いましたが、迷宮で魔物を生み出し人間と戦わせるように作られたシステムです。
本来、自我を持たない魔物の中で、私だけが自分の意志を持っていたようです」
「魔物なのか......。その迷宮は?」
「ここより西の山中にある小さな建造物の地下にあります。
迷宮の中枢は制圧し、迷宮内の魔物は動作を停止しました」
「......俺はお前に何をしてやればいいんだ?」
「......何も。私は以前のように、ただご主人様の意志に従うのみです」
「分かった。......セリア。今後、彼の面倒を見たいんだけど、いいかな?」
「う、うん」
「奥方様、先ほどは私の願いを叶えて頂きありがとうございます。私の事は道具のような物だと思い、何でも言いつけて下さい」
「執事みたいな感じ?」
「そう思って頂ければ結構です。些か勉強が必要な部分はあると思いますが宜しくお願いいたします」
かくして、謎の男は我が家の執事となった。
俺は彼を『アルム』と名付け、彼もそれを喜んでいた。
遅れて帰ってきたクルガも、
「主殿の匂いを奥底から感じる。敵意も感じないし問題ないだろう」
と言っていた。
「なかなか、やりそうだな。今度、手合わせをしよう」
とも、言っていたが恐らく酔っているのだろう。
****
翌日、執事となったアルムを連れ、結婚式のお礼と彼の紹介がてらエステリオさんに会いに行った。
「結婚式は色々とありがとうございました」
「いえいえ、それにしても腕が自我をもって現れて、それを執事にですか......。獣人のクルガさんといい、カツジさんの元には奇妙な人材が集まりますね。
もはや、いちいち驚くのも疲れます」
若干、呆れた様子でそう言うと。アルムと丁寧な挨拶を交わしていた。
「話は変わりますが、懇意にしている商人が『魔導冷蔵室』に興味があるそうです。
そのうち紹介の席を設けてもよろしいですか?」
「ええ、構いませんよ」
俺はエステリオさんにそう答え、彼の屋敷を後にした。
そのまま俺たちは西地区の衛兵詰め所へと向かう。
さすがに元腕と言うことは秘密にして、アルムを紹介した。
「執事とはやるな。まあカツも儲かってるし、これからどんどん忙しくなるしな」
ドランさんが二日酔いに頭を押さえながら、そう言った。
「それにしても、良い男だな」
そう言って、奥から現れたのはライナさんだった。
確かにアルムは、俺の腕から生まれたとは思えないほどのイケメンだった。
身長は俺より少し高く、腰まである髪は俺と同じ黒髪だが女性の髪のように艶やかだった。
見ようによっては女性に見える風貌に、女性隊員もうっとりとしてアルムを眺めていた。
アルム曰く、腕以外に使われた骨の持ち主が影響しているのだろうと言っていた。
「カツの顔は味がある」
突如、背後に現れたアオイさんが、慰めるような言葉を呟く。
(味のある顔ですか......)
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翌日からアルムにはクルガと一緒にマッサージに付いて来て貰うことにした。
素性が魔物のせいか『闇の魔法』に適正があるらしく、あっさりと『闇の触手』を無詠唱で使いこなしたので触手マッサージを教えていく事にした。
元は腕と云うこともあってなのか元来の性格なのか、丁寧なマッサージは練習台になったドランさんも満足してくれていた。
「ご主人様ほど、多くの触手は操れません。それに、これ以上の触手を出すと魔力が持ちません」
と謙遜していたが、その表情にはまだまだ余裕が見えた。
それ以降、アルムにマッサージを受けるのを希望する女性隊員が増えたのには少し俺も肩を落とした......。
ともかく触手マッサージ師が増えた事に、関係者の多くは喜んでいるようだった......。




