指輪は2度はまる
1ヶ月の準備期間を経て、俺とセリアの結婚式が今日開かれた。
会場はエステリオさんが屋敷を貸してくれて、司祭の手配や料理の手配など諸々を取り仕切ってくれた。
晴天に恵まれた中、近所の方々や薬屋のディック、南地区の職人達。
衛兵のみんなも他の地区から応援を頼んで、なんとか休みを取り顔を揃えてくれている。
ライラさんと並んでいる南地区の衛兵隊長の緊張した表情がなんとも印象的だ。
アオイさんもクルガと並んで神妙な面持ちで立っている。
中には今ではフサフサになった本屋の元禿親父までいた。
俺が司祭の前で待つ中、扉が開かれると、純白のドレスに身を包みヴェールで顔を隠したセリアがドランさんにエスコートされて入ってくる。
会場からは「綺麗」という声があちこちから上がる。
(綺麗だ......)
ドランさんは、その逞しい身体を緊張でガチガチにしながらバージンロードを歩いてくる。
俺には緊張からか、その歩みがとても遅く感じられた。
俯いて歩くセリアの表情は俺からは見えない。
セリアは今どんな顔をしているのだろう......。
笑顔だろうか? それとも不安な顔だろうか?
長く感じたセリアとドランさんの歩みも気づけば、すぐそこに迫っていた。
すでに会場からは、感極まった衛兵女子隊員のすすり泣く声も聞こえてくる。
俺はドランさんの手を離し、俺の元へと来るセリアを静かに迎えた。
司祭のありがたい言葉は耳に入ってこなかった。
俺は震える手でゆっくりとセリアのヴェールを上げる。
そこには目を潤ませて、必死に笑顔を作るセリアの顔があった。
俺は彼女の手を取り、我慢できずに野次が飛ぶほど長い口づけをした。
人生最良の日......。
まさに今日はその日だった。
おそらく今、元の世界に戻されたら、この世界への未練で一生苦しむだろう。
****
会場からみんなが庭に出ていき、それに続いて俺とセリアが手を繋いで出ていく。
扉を出ると、不意にアオイさんが飛びついて唇を重ねてくる。
そして耳元で
「1年待つ」
と言って離れていった。
驚く俺の横でセリアは微笑みを浮かべていた。
俺はふと敷地の外から俺を見つめる男が目に入る。
どこか懐かしい感じのする男だった......。
****
その後は、朝まで飲むかのような勢いで宴会が始まる。
セリアはドレスを着替えて、女性隊員に囲まれていた。
俺はセリアを呼び、元の世界の風習に乗っ取って誓いの言葉を口にする。
「貴女を永遠に愛することを誓います」
そして指輪をお互いに左手の薬指にはめ合った。
その様子を眺める男に俺はその時は気づかなかった......。
****
終わる気配の無い宴会を俺とセリアは抜け出して家へと戻っていた。
もう俺達が居ても居なくても関係ないほど、みんな酔っぱらっていた。
不意に扉がノックされる。
扉を開ければ、敷地の外で俺を見ていた男が立っていた。
どこか懐かしいその男は、
「ご結婚おめでとうございます」
と言い、俺の両手をそれぞれの手で握った。
「いい腕に恵まれましたね」
そう言うと俺の手のひらを上向きにして、その上に自分の手の甲を置いた。
丁度、俺に手のひらが見えるように......。
「覚えていませんか?」
その言葉に俺は視線を男の手のひらに落とす。
男の両方の手のひらには、大きなホクロがあった。
かつて自分の手にあったものと同じホクロ。
俺はそのホクロが嫌いだった。
そんな俺に祖母は優しく言った。
「カっちゃんは星を掴む運命なんだよ」......と。
俺は男を見つめる。
男も俺を見つめ口を開く。
「私はかつて貴方と共にあった者です。もはや元の居場所には戻れませんが、今後も貴方の意志のままに動くことが願いです。
ただ一つ、願いを申し上げさせて頂ければ......。その指輪を一度はめさせて頂きたい」
俺は彼の存在を確信した。
誰よりもそばに居た存在だった事を......。
俺は深く頷き左手の薬指から指輪を外す。
そしてセリアに向き合い
「彼の指にはめてやってくれ」
と告げた。
意味の分からないという顔のセリアだったが俺の真剣な表情に黙って頷いてくれた。
セリアの前で膝を突いた男は俯いて左手をセリアに差し出す。
セリアは男の手を取り薬指に指輪をはめた。
男は泣いた。
俺も泣いた。
セリアは少し困ったような顔をしていた......。
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