魔導エアコン(完成品)
この日俺は、南地区の職人達から『魔法のエアコン』の外観が完成したと言うので受け取りを兼ねて南地区衛兵詰め所をマッサージに訪れることにした。
セリアに見送られて夜明け前のまだ薄暗い中、クルガと家を出る。
思えばセリアより早く家を出るのは初めてだ。
大量のタオルを担いで歩く様子は行商人のようにも見える。
(車欲しいなぁ。魔導馬車なんてどうよ?)
俺は一人頭の中で考えては口元を緩めていた。
クルガは不思議そうな顔でそれを見ていた。
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用意されたスペースでマッサージの準備をしていると、まだ早い時間にも関わらず、職人達が詰め所を訪れてきた。
そして自信のある顔つきで包んだ布を開いていく。
「「おお!」」
その出来映えに俺どころか、その場に居た衛兵達も声を上げる。
黒を基調として金で装飾されたそれは、嫌味でないほどに豪華で格好が良い。
側面と上面にも細かい彫り物がされていて、手が込んでいることが一目で分かった。
スイッチの部分に到っては神獣を象った彫刻の目の部分になっているという凝りようだった。
(これ、俺が欲しいかも......)
「すげえ」
「そうだろ! 俺たちも初めての合作だったからな。まあ、会心の出来映えだ。むしろ白金貨1枚分の仕事をこの大きさに込める方が大変だったぜ」
「ありがとうございます。胸を張ってエステリオさんに渡せますよ」
「おいおい、領主様を「さん」で呼ぶなんていけないぜ」
職人が笑いながら注意してくる。
同じ日本人というルーツを持つためか、ついこの世界での身分の違いを忘れてしまう。
「これが報酬です」
俺はそう言って、布に包まれた白金貨を渡す。
「おう! 久々に楽しい仕事だった。また頼むぜ!」
その日、職人達は報酬の半分近くを飲み代で使ってしまい、それぞれの妻達にこっぴどく怒られたらしい。
南地区の衛兵隊の隊長は『魔法のエアコン』の購入を考え予算とにらめっこしているとか。
そしてマッサージも事前の情報もあってか、衛兵達は『闇の触手』にそれほど驚くこともなく、マッサージの効果に満足していた。
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俺は南地区での仕事を終えた足でエステリオさんの屋敷を訪れた。
使用済みのタオルは南地区の衛兵が、俺の家まで届けてくれると言うので、その言葉に甘えた。
「こ、これは素晴らしいですね」
「ええ、南地区の職人達が腕を振るってくれました」
「なるほど。......これが代金になります」
そういって渡された包みはズシリと重かった。
その場で包みを開いて中身を確認すると、輝く白金貨が10枚入っていた。
(さすがに迫力があるな)
日本円で1千万の価値になる10枚の白金貨は俺を威圧するように輝いていた。
少し身を震わせて、包みに白金貨をしまっていく。
「確認させて頂きました。確かに白金貨10枚、頂戴致します」
「ええ、ご苦労様でした。予想を遙かに越える出来映えですね」
「そうですね。俺が欲しいぐらいです」
俺の言葉にエステリオさんも笑っている。
「それで、これを見て欲しいんですが」
俺は和んだ雰囲気の中、新たな魔法道具を取り出して見せる。
俺が取り出したのは、小型のスタンドライトだった。
「ほう、ライトですか」
「ええ、ろうそくに頼ったこの世界では需要はあるかと思ったんですがどうでしょう?」
「そうですね、日が落ちれば書類仕事などはとても出来ません。......でも、それがいいのかもしれませんよ」
「え?」
「日が落ちれば家に帰れる生活。......石原さんは以前はどうでした?」
「そうですね。......残業は当たり前の生活でしたね」
エステリオさんはライトのスイッチを入れて明かりを灯す。
「これは明るいですね。先ほどの話はともかく一つは欲しいところです」
「そうですね、俺も自分用に作ろうと思ってます」
「魔法が使えるのにですか?」
「ええ、魔法に意識を集中させながら本を読むのは難しいので」
「なるほど。......それと『魔力蓄積器』ですが、今後は改良を検討して貰えないでしょうか」
「と、言うと?」
「それを取り外して、他の.....たとえば攻撃魔法の効果を持った魔法道具に転用するという事も考えられますので」
「なるほど......。何か俺以外が触ったら壊れるような効果があればいいんですね?」
「ええ、闇の魔法にはそのような魔法もあると文献で見たことがありますが......」
「え? そうなんですか?!」
「少々お待ち下さい」
そう言ってエステリオさんは席を立った。
(それにしても武器への転用か。......気をつけないとな。
武器ねえ......。
グリップに電池を入れて、引き金で回路構成。
シリンダーに色々な魔法陣を書き込めば......)
「お待たせしました」
「あ、はい。どうも」
渡された本には呪文こそないが、闇の魔法の種類と効果について書かれているページがあった。
「これ、お借りしてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
俺はエステリオさんに『魔法大全』という本を借り、家路に着くことにした。
気づけば30話。
読んで下さった方々に感謝です。




