ポーカーフェイス
俺はエステリオさんに『魔導エアコン』(魔法のエアコンより改名)を納品すると、家に戻って『魔法大全』のページをめくっていた。
あまり『闇の魔法』は知られていないのか、乗っている魔法の数は他の魔法と比べて少ないものだった。
『闇の触手』
闇の力を触手として発現させる魔法。
自在に動く触手は対象に麻痺・毒の効果を与えることができる。
触手の強さ、本数、長さは術者の消費する魔力によって変動する。
挿し絵には触手に絡まれて悶え苦しむ男の姿が書かれていた。
(マッサージに使われているとは作者も思いも寄らなかっただろうな)
『呪いの魔法』
対象に呪いを与える。
呪いの内容は生物とそうでないものによって異なるが、苦痛・麻痺・毒・睡眠・即死・破壊と多岐に渡り、効果の強さ・期間は術者の消費する魔力によって変動する。
『闇の触手』を介しての発動も可能。
解除には高位の闇術者の干渉か、もしくは『光の魔法』が適切である。
『目隠しの魔法』
対象の視界を一時的に奪う魔法。
効果時間は術者の消費する魔力によって変動する。
『闇の衣』
自身及び対象を闇で覆い、姿を隠す魔法。
気配も隠すことが出来る。
効果時間は術者の消費する魔力によって変動する。
『火の魔法』についても色々と書いてあるが、基本は炎を出す魔法と温度を上げる魔法、そして爆破の魔法で、威力によって種類分けされているだけで、すでに俺が使える物だった。
そして本を読んだ瞬間、闇の魔法については使う事が出来ると確信が持てた。
まるで忘れていたことを思い出したような感覚。
他の魔法はそんな事はなかったので、これは黒い左腕の効果なのかもしれない......。
俺は試しにとコップに呪いを掛ける。
内容は俺以外が触れるとコップが崩れる事をイメージした。
コップは俺が触ってもなんともない。
セリアを呼んでコップを持たせると、砂で作った物のように崩れていった。
「え?! なに?!」
驚くセリアを余所に魔法の成功を密かに喜んだが、同時に何か恐ろしい力を手にしてしまったような気分になった。
これは『魔力蓄積器』の転用防止以外の目的で使わないように心に誓った。
その夜はセリアと目隠しプレイで大いに盛り上がった......。
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西地区の衛兵詰め所で、いつものようにマッサージをしていると、珍しく遅い時間にライナさんが訪れてきた。
(仕事が立て込んでるのかな?)
「全身を頼む」
「はい」
褐色の艶やかな肌に触手を絡ませていく。
他に隊員も居なかったので、ライナさんに集中して念入りに揉んでいった。
漏れる吐息が色っぽい......。
「そ、それはそうと......、南の隊長は元気そうだったか?」
「え? ああ、見た目は元気そうですけど、マッサージした感じだと大分疲れが溜まってるみたいですね」
「そ、そうか......。また南にも行ってやってくれないか?」
「え? ああ、はい。週1ぐらいで行こうと思ってます」
「......頼む」
ライナさんは、それ以上はあまり話さずマッサージが終わると料金を置くと静かに部屋を出ていった。
「何か......、あるな」
音もなく背後に立ったアオイさんが、そう呟く。
(この人、闇の衣の魔法、使ってるんじゃないよな?)
「修行の賜物」
「心を読まないでください」
「カツは顔に出やすい」
「で? 全身ですか?」
「いや。3日間クルガを貸して」
「え? なんかあったんですか?」
「ふふ」
(言わないのかよ!)
「内緒」
「クルガどうする?」
「俺は構わない」
「だ、そうです」
「うん、明日迎えにいく」
アオイさんは口元に笑みを浮かべ部屋を立ち去って行った。
少しクルガが何をされるのか心配だが、動じないクルガを羨ましくも思った。
「平常心だぞ、主殿」
(心を読むなっての)




