第2話 エルヴィン・ロンメルとして生まれ変わった。
本当に戸惑うばかりだが、目を覚ますと130年前のドイツにいた。しかも、俺が尊敬していたエルヴィン・ロンメルになって。
それが俺の二度目の人生だった。父は数学教師のエルベン・ロンメル・シニア。母はヘレーネ・フォン・ルッツ。
俺は頭の中でエルヴィン・ロンメルの生涯を振り返ってみた。
優れた軍事戦略家として第一次世界大戦で活躍し、第二次世界大戦では「砂漠の狐」という異名を得た有名な将軍。
だが最後にはヒトラー暗殺計画に関与した疑いをかけられ、自殺を強要された悲劇的な人物でもあった。
驚きも束の間、俺はエルヴィン・ロンメルとして最初の人生を始めた。
未来の知識と兵器設計の能力を持っていた俺は、当時ドイツ帝国最大の軍需企業だったクルップ社に難なく入社できた。
才能を発揮して兵器を設計すると、周囲は皆俺を天才と呼び、そうして稼いだ金ですぐに軍需企業を興し、金持ちになった。
そして第二次世界大戦を防ぐため、絵葉書画家だったヒトラーを暗殺した。
これで俺の前途には花道だけが広がっていると思っていた。だが、歴史は大して変わらなかった。
第一次世界大戦の勃発は防げず、戦後ヒトラーの代わりに権力を握った者たちも、例外なく第二次世界大戦を引き起こした。
結果はドイツの徹底的な破壊だった。
俺の工場は灰と化し、俺自身も米軍爆撃機の大空襲で命を落とした。
そして……本当に戸惑うばかりだが、再び目を覚ますと赤ん坊のエルヴィン・ロンメルとして転生していた。
( これはループものだったのか……)
結論はそうだった。ヒトラーを殺しても誰かが現れ、同じ歴史が繰り返されるということ。
時代がそうさせるのか、ドイツは誰が権力を握ろうと、この運命をたどる定めだったのか……。
(よし、それなら別の方法を試してみよう)
二度目の人生は、金よりも権力を目指してみようと考えた。もちろん絵葉書画家のヒトラーは殺した。
俺は歴史通りにダンツィヒ士官学校を卒業し、第一次世界大戦に従軍した。だが、貴族出身の軍人たちの派閥に阻まれ、出世は難しかった。
第二次世界大戦が勃発しても、政界にコネのなかった俺は、平凡な佐官級軍人として生きるしかなかった。
結局、今回のナチ党の権力者ヘルマン・ゲーリングを暗殺する陰謀を企てたところを捕らえられ、死刑に処された。
現実は俺の予想よりもはるかに冷酷だった。権力がなければ何もできないのだ。
歴史を見てもエルヴィン・ロンメルはヒトラーのおかげで出世を重ね、元帥にまで上り詰めることができた。
目を覚ますと、また赤ん坊時代のエルヴィン・ロンメルだった。これならいっそアメリカに移民したほうがいいのではないか。
未来の知識を持って連合国に協力すれば、はるかに良い未来を描けるはずだと考えた。
だが、俺がドイツを離れて移民しようとするたびに、移民船が沈没して命を落とした。
そうして移民を試みて二度死んでみて、ドイツを離れることはできないのだと悟った。
結局、俺はロンメルの体で五度目の人生を始めながら結論を出した。
ヒトラーを殺さず生かしたまま、軍部内の権力を握らなければならないという事実を。
時が流れ、俺は再び15歳になった。
今回の人生を始めてから懸命に努力したおかげで、学業成績は非常に良かった。
こうなった以上、最高の学校であるベルリン・グロース・リヒターフェルデ士官学校へ進学するつもりだった。
そこであれば、良い経歴と幅広い人脈を築くことができ、金を稼いで良い環境を作ることもできるからだ。
だが、俺には勉強だけでは乗り越えられない重要な問題があった。
平民出身のエルヴィン・ロンメルがベルリンの士官学校に入学するのは、ほぼ不可能に近かったのだ。
(そうだ、そうだった。この時代のドイツ帝国では、ユンカー出身か貴族でなければ良い士官学校に進むのは不可能で、そのせいで軍内部での昇進も難しかったんだ)
平民出身であれば、少なくとも父か叔父が軍将校出身でなければならなかった。
これまでの人生をドイツ帝国で何度も生きてきたのに、それを一瞬忘れていた。
「おい、ロンメル! 君のような平民出身が何の大志を抱いているんだ? 我々とは格が違うということを知るべきだな」
「あいつを見ろよ。父親が数学教師だってな。ふん! どれだけ努力したところで出世は無理だろうさ」
「ロンメル、君の実力は認めよう。だが、貴族の血が流れていない者が高位に就くのは不可能だ。それくらいは分かっているだろう?」
「あいつ、今日も一生懸命やってるな。気の毒だが、南部出身の田舎者がどれだけ頑張ったところで限界があるだろうに。ただの時間の無駄だな」
前世では、第一次世界大戦で功績を立てても、褒賞は貴族連中が独り占めしていたな。まったく汚い世の中だった。
安楽な暮らしを送りたいという欲は、しばらく脇に置いておこう。代わりに、別の野望が俺の胸を満たした。
ヒトラーも排除しなければならないが、この腐りきった貴族どもも打倒すべき対象だ。
こうなった以上、俺が政権を握り、ナチスはもちろん、腐りきった貴族たちまで排除して、ドイツを正しい国にしなければならない。
そうしてエリート軍人の道を歩みたいという決意が固まった。
いよいよ父に話す時が来た。
夕食後、居間で新聞を読んでいるロンメル・シニアに近づいた。
「父上、少しお時間をいただけますか?」
父が眼鏡越しに俺を見つめた。
「ああ、エルヴィン。何だ?」
俺は深く息を吸い込んで口を開いた。
「俺は……将校になろうと決心しました」
父の目が見開かれた。新聞を置くと、席を立って俺のそばに来た。
「本当か? お前が軍人の道を選ぶというのか?」
「はい、祖国のために尽くしたいと思います」
顔に笑みが広がった。これまで俺に軍人の道を勧めていただけに、喜びの色が濃く滲んでいた。
「お前がそんな決心をしたとは、本当に誇らしいぞ。お前の祖父も天国で喜んでいるだろう」
俺もつられて笑った。だが、すぐに表情を引き締めた。
「ですが、一つ悩みがあります」
「何だ?」
「普通の士官学校では足りないと思うのです」
父の眉が少し上がった。
「それはどういう意味だ?」
「俺の目標は元帥の階級まで上り詰めることです。そのためにはベルリン・グロース士官学校を出なければなりませんが……」
言葉を続けられず、口ごもった。父はすぐに俺の悩みに気づいたようだった。
「ああ、そうか。我々のような平民出身がグロース士官学校に入学するのは容易ではないと知っているんだな」
俺はうなずいた。
「はい、我が家に軍のコネがあるわけでもなく、貴族出身でもないので……」
父はしばらく考え込んだ。それから真剣な表情で俺の肩をつかんだ。
「お前の言う通りだ。だが、まだ諦めるな。最善を尽くして助ける方法を探してみよう。必ず道はあるはずだ」
その日以来、父は周囲の人々に助けを求め始めた。
毎晩遅くまで手紙を書き、電報を送った。そして、ついに一か月後、奇跡のような知らせが届いた。
「エルヴィン! ついに道が開けたぞ!」
父の興奮した声に、急いで居間へ駆けつけた。
「どうしたのですか?」
「シュリーフェン伯爵にお会いできる機会を得たんだ!」
俺は驚きのあまり言葉を失った。
シュリーフェン伯爵とは、伝説的なドイツ陸軍参謀総長ではないか。
シュリーフェンはドイツ帝国の軍事戦略を築いた参謀総長であり、あの有名な「シュリーフェン計画」を考案した人物だった。
今のこの時期のドイツ軍部で、彼の名前はまるで聖書のように神聖視されていた。
「本当ですか? どうやって……」
「古くからの知人の紹介で実現したんだ。伯爵は引退後も、時々有望な将校志望の若者に会ってくださるそうだ。だが簡単ではないだろう。直接会って、お前に特別な才能があることを見せなければならない」
胸が高鳴り始めた。俺が待ち望んでいた機会だった。
翌日から俺は、昼も夜もシュリーフェン伯爵に会う準備を始めた。
シュリーフェン伯爵が作成した戦争計画、シュリーフェン計画はまだドイツ帝国参謀本部の引き出しの中で眠っているはずだ。
俺はその計画の長所と短所を分析した。
ついに伯爵に会う日が来た。父とともに彼の邸宅へ向かった。
「緊張するな、エルヴィン。お前は十分に準備してきた」
父の激励に、俺はうなずき、深呼吸をした。
やがて扉が開き、中へ案内された。
書斎に入ると、威厳のある老紳士が俺たちを迎えた。
「ようこそ、ロンメル氏とご子息」
「伯爵閣下、お会いいただき誠にありがとうございます」
父が丁重に挨拶をした。俺もそれに倣って頭を下げた。
「お座りなさい。君がエルヴィン・ロンメル君か?」
「はい、そうです、閣下」
シュリーフェン伯爵は鋭い眼差しで俺を見つめた。
「軍人になりたいと聞いた。何のために軍人の道を選ぼうとしているのかね?」
俺はしばし息を整えてから答えた。
「祖国ドイツのために尽くしたいと思っております」
伯爵の口元に笑みがよぎった。
「高貴な志だな。だが、愛国心だけでは足りない。君の能力を見せてもらえるかね?」
この瞬間のために準備してきた。鞄から書類を取り出し、伯爵に差し出した。
「フランスとロシアの間で二正面戦線が開かれた場合、どう対応すべきか詳細にまとめた文書です。深く研究した結果、二正面戦線が開かれれば、いくつかの重要な問題点があることを申し上げたいと思います。当然、二正面戦線を避けるのが上策です。しかし避けられないのであれば、こうした問題点を考慮して計画を修正・補完することで、ドイツの戦略的立場を大きく改善できると考えます。詳細は書類にまとめてあります」
俺の説明に、伯爵の目つきが変わった。
彼は興味深そうな表情で書類を広げて読み始めた。だが、時間が経つにつれ、その表情はだんだんこわばっていった。
突然、伯爵が書類を机に叩きつけた。
「これは参謀本部の極秘文書の内容だが、どうやって知ったんだ?」
一瞬、背筋が凍った。しまったと思った。
未来で読んだシュリーフェン計画を、あまりに詳細に書きすぎたのが失敗だった。
「こんな機密事項を……十五歳の少年が独りで正確に分析しただと? 馬鹿げた話だ! 誰がこんな情報を漏らしたのか白状しなければ……」
冷や汗が流れた。だが、この時、弁明する方法を思いついた。
「誤解でございます。伯爵閣下がご覧になった文書と重なる部分があるとすれば、それは問題を正しく捉えたからだと思います。少しだけ話を聞いていただけますか? お見せした文書で生じる問題を解決できる、これまでの戦争のあり方を完全に覆せる革新的な戦術があります」
俺の切迫した説明に、伯爵の怒りに満ちた表情が少し和らいだ。
「そうか? ならば聞いてみよう。君の言う革新的な戦術とはどんなものか」
深く呼吸をして説明を始めた。
「俺は、遠からずヨーロッパ全域で戦闘のあり方が変わると考えております。間違いなく前例のない規模の戦争が繰り広げられ、長い戦線で激しい塹壕戦が展開されると考えます」
俺は席を立ち、伯爵の机の上の地図を指し示した。
「ここで言う塹壕は、単なる溝ではありません。塹壕戦が長引くにつれ、次第により堅固で複雑に、蜘蛛の巣のように絡み合った防御体系へと発展していくと考えます。前方には鉄条網が設置され、機関銃陣地で要塞化されるでしょう」
「うむ……そんな堅固な防衛線ができれば、どんな方法でも突破できまい」
「既存の方法では不可能です。今のような一般的な歩兵では、数万人が突撃しても、たった一人も敵陣に到達できないと考えます」
俺は机の上に置かれたペンを取り、例を挙げながら塹壕の断面図を描いていった。
絵が完成していくにつれ、ただの興味深い空想として見ていた伯爵の表情も、次第に深刻になっていった。
「通常の方法で塹壕を破壊できないとなれば、攻撃側は砲撃を活用するでしょう。すると防御側は塹壕をさらに深く掘るか、コンクリートで掩体を作るかもしれません。砲撃が終われば、防御軍は再び機関銃陣地に戻り、突撃してくる歩兵を一掃するでしょう」
「実に恐ろしい状況だな……」
「もっと恐ろしいのは、こうした状況が何年も続く可能性があるという点です。両軍とも突破口を見つけられず、消耗戦を繰り広げるのです。当然、兵士たちは塹壕の中で砲撃と病気、寒さに苦しみながら死んでいくでしょう。しかし、これをすべて打ち破る方法があります」
「それが君の言う革新的な戦術……そのことか?」
「はい。そのためには、新しい兵器が必要です。鉄条網を粉砕し、機関銃の火力に耐えられる、鋼鉄の兵器が」
俺はしばし間を置いてから、本格的な説明を始めた。
「俺はこの新しい兵器の名を『戦車』と呼ぶつもりです」
机の上の紙を新たに取り出し、鉛筆で素早くスケッチを始めた。
「ご覧の通り、鋼鉄の装甲に囲まれた移動要塞です。無限軌道を用いれば、塹壕や鉄条網を容易に突破できます」
伯爵は絵をじっと見入った。
「こんな巨大な鉄の塊が動けるというのか?」
「内部に強力なエンジンを搭載します。大砲と機関銃で武装し、最低二名の兵士が運用するのです。前面の装甲は、敵の銃弾に耐えられるほど厚く設計しなければなりません」
俺は細部の構造を一つずつ説明しながら絵を描き足していった。
「操縦を担当する兵士が前方で車両を動かし、大砲と機関銃を操作する兵士も必要です。そしてそれを指揮する指揮官が、戦車の上部から戦場を観測し、指示を出します」
そこまで言うと、しばし声を整えてから、また説明を続けた。
「最も重要なのが、この無限軌道です。普通の車輪では塹壕を越えられませんが、この装置なら可能です。泥沼も問題なく突破できます」
「しかし、この重さで素早い機動が可能なのか? まさに巨大な鉄の塊だぞ」
「強力なエンジンであれば、歩兵より速く動けるはずです。そして、こうした戦車が数十台一度に突撃すれば、敵の防衛線は瞬く間に崩壊するでしょう。そして戦車の後ろから歩兵が続けば、安全に前進できるのではありませんか?」
伯爵はしばらく黙って絵を見つめていた。
「うむ……これは実に……驚くべき発想だな。だが、こんな兵器を作ることが実際に可能だと思うのか?」
「今の技術でも十分に製作可能です。俺が詳細な設計図を用意してまいります」
「よし、明日その設計図を見せてくれ。君の主張が事実ならば……これは戦争を完全に変えうる革命的な発想になるだろうな」
俺は宿に戻り、机に向かった。
(現代のK2黒豹やレオパルトのような最先端の戦車を見せるわけにはいかない。あまりに進んだ技術で、この時代では理解すらされないだろう。イギリスが最初に披露するマークI号のような陸上戦艦型の戦車も適切じゃないな。大きすぎて遅く、電撃戦には向かない)
しばし考え込んでいると、ふと思い浮かぶものがあった。
(そうだ、FTー17だ。フランスが作った最初の近代式戦車)
鉛筆を取り、素早くスケッチを始めた。
第一次世界大戦中に登場した二人乗りの小型戦車で、現代戦車の基本構造を初めて確立した革新的な設計だった。
(全長5メートル、重量7トン。4気筒エンジンで時速12kmを出せる。37mm砲と機関銃で武装。二名の乗員で運用可能で、砲塔は360度回転する)
早朝、完成した設計図とスケッチを持って、伯爵の邸宅を再び訪れた。
「準備したものをお見せします、閣下」
俺は書類の束を注意深く机の上に広げた。
「これが俺の考える戦車です」
伯爵はしばらく設計図を眺めた後、顔を上げた。
「驚いたな……特に回転砲塔の概念が印象的だ」
勇気を出して、地図の上に鉛筆を当てながら、二正面戦線を打開する作戦計画を詳しく説明し始めた。
もちろんこれは俺の創作ではなく、第二次世界大戦でフランスを敗北させたナチス・ドイツの鎌形作戦だった。
「閣下、フランスが俺の予想通り塹壕線を構築し、ドイツとの国境を要塞化するなら、逆にベルギーとの国境は相対的に防備が手薄になるはずです」
俺は指先でアルデンヌの森林地帯を指し示した。
「特に、敵が我々の戦車を知った時、その巨大な図体を見て、この鬱蒼とした森林地帯を通過できないだろうと油断するでしょう。まさにここに機会があります」
鉛筆で機動経路を描きながら説明を続けた。
「フランス軍がベルギー平原への我が軍の侵攻を予想して北方に主力を集中させている間に、我々は予想外の場所で電撃戦を敢行します。戦車で構成された部隊がスダンに向かって前進し、ムーズ川を渡れば……」
伯爵は目を見開き、地図を凝視した。
「そうなれば、フランスの防衛線が二分されるな」
「その通りです。北方のフランス軍主力は孤立するでしょう。その間、我が戦車部隊はさらに西へと進撃を続け……」
指で海岸に向かって線を引き下ろした。
「ダンケルク方面へと敵を追い込むのです。ベルギーと北フランスにいる敵の主力は退路を断たれ、殲滅されるでしょう。その後、無防備となったパリへの進撃は自然に成し遂げられます」
しばし沈黙が流れた。
「驚くべき作戦計画だな……だが危険ではないか? この戦車部隊があまりに深く進撃すれば、補給線が危うくなるだろう」
「……それなら、補給部隊まで車両化して一緒に動かせばよいのではないでしょうか?」
畳みかけるように言う俺を見て、伯爵は呆れたような表情を浮かべた。
「ふむ……正直に言うと、君の言う塹壕戦や戦車のような概念は、今のところあまりに遠い未来のように思える。だが……」
設計図とスケッチをじっくり見ていたシュリーフェンが、興味深そうに言葉を続けた。
「この革新的な発想そのものは高く評価すべきだな。今すぐは難しく見えるが、新しい戦争の概念は間違いなく研究する価値がある」
俺の描いたスケッチをもう一度念入りに見返した伯爵が口を開いた。
「もしこの作戦が実際に可能になれば、我々の知る戦争の概念は変わるだろう。今は夢物語のように聞こえるだろうがな……」
伯爵はしばし言葉を止め、俺をじっと見つめると、やがてゆっくりと口を開いた。
「入学の推薦を望んでいると言ったな? うむ……」




