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渦の中心

3 叫び


 神奈川区の工場を飛び出た戦闘型Gドロイド・戦太郎は大通りに出た。目の前は幹線道路だ。

 国道十六号線を北上する。

 誰に命じられているわけでもなく独自の判断で行動をする。妨害行為をすればするほど戦太郎は暴走する仕組みを持っている。



 突如現れた戦太郎に行き交う人間は、足を止めた。

『抵抗勢力発見。排除』

 戦太郎は独自に判断し両腕を振り回した。

 逃げ遅れた男性のショルダーバッグが飛ぶ。そして初老の男性が地面に叩きつけられる。

 蜘蛛の子を散らすようにわっと逃げ惑う民衆……。

 女性の腕を掴み、たぐり寄せる。頭上高く持ち上げ、洋品店のショーウィンドー目掛け思い切り叩きつける。

 ガラスが粉々に飛び散り、投げ込まれた女性は尖ったガラス片で血だらけになり気を失う。

 若い男性が街灯の柱に叩きつけられる。骨が粉砕する鈍い音がする。


 暴漢が暴れているという通報を受けたパトカーが急行し、警官数名が戦太郎を取り囲んだがその迫力に警官も一瞬怯んだ。

「止めろ、止まれっ」

 しかし殺戮マシンと化した戦太郎はお構いなしに両腕を振り回しながら前進し、警官に対当たりする。

 うわ、と言う声と共に警官が吹き飛ぶ。

「抵抗止めろっ、撃つぞっ」

 しかし戦太郎は突進する。

 中腰になって拳銃を構えるが街中だ。

 戦太郎は一瞬の躊躇を見逃さず警官の顔面に鉄拳を繰り出だす。警官の顔面にめり込み、顔面から血を吹きあげながらその場に転がった。

「やむを得んっ状況確認――発砲っ」

 ぱん……ぱん……と銃声が谺するが、所詮人間相手で怯ませるだけの威力しかない。その弾丸は強化された戦闘服と頑丈な胸板で簡単に弾丸をはじき返す。

『抵抗勢力排除』

 さらに戦太郎は警官に襲いかかっていった――


「ドローン追跡中。未確認物体、国道十五号線、みなとみらい地区方面、進出」

 警察が飛ばしたドローンのカメラが戦太郎を追尾する。警察無線から緊張した声が響く。

「道路封鎖、侵入防止だ。一般市民を退避誘導せよ」

 急遽設けられた神奈川県警本部から指示が飛ぶ。

 JRをはじめ各鉄道も緊急停車し、係員が総出で誘導を行うが、大都市ターミナル駅・横浜駅を中心として人々でごった返し、あげくに報道各社もかけつけ――街中にサイレンが鳴り響き、一帯はパニックになっていった。


 実験建屋内部も各方面に連絡を入れるために慌てふためいている。

「横取博士、これは一体何事ですのっ」

 珠伊師は横取に向かって睨みつけた。先ほどまで自信満々だった横取の顔は真っ青だ。

「いや……これは……その……」

 異常事態になんと答えれば良いのか――しどろもどろになった。

「プログラムの何処かにバグがあったかのかも知れませんぞ。事前に十分シュミレーションしたのでございますがな」

「そんなことは後回しよ」と珠伊師。「暴走を止めるのが先です横取博士」

「庁官、首相官邸と繋がりましたっ」

 職員の声に珠伊師は受話器を取り上げた。

「試作品が暴走したとの通報を受けましたが本当でしょうか?」

 政務次官の緊迫した声に珠伊師は返事をする。

「首相官邸で対策本部を設けましたので、そちらにヘリを回します。何が起きたのか、説明を求めます」


 実験建屋屋上にはヘリコプターが発着出来るように設えてある。数十分後には爆音を轟かせるヘリのローターに煽られながら、珠伊師は横取共々乗り込んでいった。


「総理に会う前に私から伺いたいことあります」と政務次官は言う。「暴走が起きた原因の説明責任を問います」

 珠伊師はことの経緯を話し出した。

「動作確認のための歩行実験が当初の目的でした。しかし実験開始直後から制御不能となりまして、実験どころかこちらの意志に反して動き出したのです」

 珠伊師の説明を前に政務次官は驚く。

「意志に反した? 何故です、これはもう大災害庁だけの問題ではありませんよ。すぐに対応して頂かないと国民の安全が保障……」

 珠伊師の横から横取が発言した。

「開発総責任者の横取でございます。暴走が止められないのは独自の設計思想からでありましてな、今回の暴走騒ぎはその動作実験中に起きた、いわば、事故でございまする」

「事故? 総理は珠伊師庁官を信頼しておりますが、そんな簡単な説明では困ります。到底総理は承服出来ないと思いますよ」

 珠伊師は決然と言う。

「ワタクシが矢面になりますわ。尾川首相に会わせてくださいませ」

 対策本部室の正面には二画面に分けられた大型スクリ-ンが設置され、ドローンが捕らえた戦太郎を映し出している。さらにもう一機のドローンが所々火災が発生している車と必死に消火作業をする消防士達も映し出されている。

 じっと見ていた総理以下官房副長官、内閣危機管理監も同席している。それぞれの部下も着座し五十名近くの大所帯だ。

 振り向いた尾川は珠伊師にきつく言う。

「厄介なことになっているぞ。政務次官から報告を受けたが改めて問いたい」

 官房副長官が手書きメモを読み上げた。

「速報では民間人死者四名警察官一名、重傷者八名を出している。珠伊師庁官、何とかならんか」

 憤懣やるかたない表情の官房副長官に対し、逆に尾川はなだめる。

「マアマア……起きたことは仕方ない。それより今後の対策を講じたいんだが、珠伊師庁官、止める手立てがないと政務次官から聞いたが、本当かね」

 またもや横取がしゃしゃり出た。

「面目ありませんな。戦太郎は緊急遮断回路を無視して暴走しておまする。少なくとも三日間は止まりませんですじゃ」

 呆れるような顔の危機管理監だ。

「こんな暴挙が三日間も続くのか? 冗談じゃない。横浜は火の海になるぞ」

「こちらから行動を阻止しようとすれば自己防衛のため、暴れ出しまする」と横取は言う。

「どういう事かね」

 理解出来ないというように尾川は横取を見る。

「完全に独自行動を行っておるんですな。兎に角見守るだけで、抵抗がなくなれば大人しくなるはずですじゃ」


 大型スクリーンはパトロールカーがひっくり返された映像と運転者が逃げだし空になった乗用車のボンネットを踏み潰す映像が淡々と流れる。

 突然、戦太郎が止まった。偵察用ドローンもその場でホバリングし戦太郎を映し出す。

「お、一体どうしたんだ」

 戦太郎の頭脳回路が判断したのだ。『排除完了』

 そして再び動き出した。『索敵開始、抵抗勢力探査』


 国道十五号線に渋滞が発生しだすとそれは『戦闘完了』と判断し悠々と歩き出す。

 内閣危機管理監はマイクを取り上げた。

「動作はゆっくりだ。追跡はドローンに任せて、警察、消防は事故処理に当たるように指示しろ」


 しかし戦太郎には破壊命令の目的までは指示されていない。ただ『抵抗する敵勢力を削ぐ』だけを考えて闇雲に歩き回っているだけだ。


 日光があたり人間ではない不気味な無表情で戦太郎は顔を上げる。

 ドローンが気になったそぶりを見せる戦太郎。武器は所持していないので撃ち落とすことはできない。

 だが――破壊された車体の一部から転げ落ちていたオルターネーターを手に取り、ドローン目掛け投げつけたのだ。

 命中すると、ばん……と言う音と火花が散りドローンはきりもみ状態になり、地面に叩きつけられた。

 それをもう一機のドローンが冷静に大型スクリーンに一部始終映し出す。

「なんてヤツだっ」

 スクリーンを見ながら官房長官は怒りと驚きで声をあげた。



 しかしこの暴動を押し黙って見つめる珠伊師には、悪魔的な考えが脳裏に浮かんでいた。

『一体でこれだけの活動出来るのなら、百体も出来上がり強力な武器を持ったとしたら……無敵じゃの……』


 珠伊師にとっては人命より戦太郎が大事なのだ。



「どうにかしろっ」

 危機管理監の声に珠伊師は現実に引き戻された。

 横取は冷ややかに言う。

「繰り返しますがの、抵抗がなければ大人しくなるんですじゃ」

 政務次官は語気を強めた。

「あんた、そう言うがね、横浜が火の海になるんだぞ、分かってるのか」

 画面を見つめていた自衛官参謀がおもむろに言う。

「本牧ふ頭か山下埠頭に誘導出来れば陸自の戦車で砲撃を……」

「あんたも何馬鹿なこといっとるんだ、出来るわけないだろうっ。珠伊師大災害庁庁官、Gドロイド向かわせて阻止出来ないか」

 横取が言う。

「それは無理というもの。同じGドロイドでも災害救助を目的として作られておるのじゃから、プログラム自体変更せねばならん。一日や二日では到底できん」

 騒ぎ立てる中、珠伊師は決断するように言う。

「分かりましたわ。阻止するためにバイオボーグを使います」

 突然の珠伊師の発言に尾川が吃驚した表情をした。


「――出来るのか?」


「大災害用に用意されておりますバイオボーグですが元々人間です。つまり彼らなら――」


5 バイオボーグ出動


 大規模災害庁第一会議室にB計画最高責任者和田総括が、一体式災害用スーツに身を包んでいる神室七恵と法源浩一郎を前に話している。

「珠伊師大災庁長官より出動の命令が出された。今回の目的は戦闘型Gドロイドの捕縛だ。本来の趣旨からすると見当違いだがな、あの怪物を抑えるには君たちしかいない」

 聞いている法源は顔を顰めた。

 和田の言葉に神室が言う。

「停止命令を無視しているようですね」

「そうだ、G計画の職員も手を変え品を変え停止命令を送信しているが、全く無視されている」

「俺たちだけで何となるものか?」

 法源の問いに和田はあっさりと言う。

「力関係からすると多分、無理だな。だが俺たちには知恵がある。これから捕獲計画を話す。時間が無いので車両ではなそう」

 そう言いながら和田達は自衛隊が提供した輸送車両に乗り込んだ。

 揺れる中、和田は話すが――

「和田総括の言葉、なんだか玉砕しろって聞こえるわね」と神室。



 確かにそうだ。相手は巨大な戦闘マシーン。対するバイオボーグは人間だ。



「野来下でもいれば違うだろうがな」と揺すられながら法源と神室が話し合う。

「彼は犯罪者として裁かれているのよ。無い物ねだりだわ」

「大災害救助隊応援部隊から来てもらうとか出来ないものかな。あの女とかあの男とか」

「誰のこと言ってるの。天馬とか? 登録されてるけど、まず半人前だし訓練すら受けてないから、とても応援なんて無理よ」

 和田の端末が鳴った。

「なんだと? 戦太郎を見失っただと?」

 狭い車内に和田の緊迫した声が響く。

 神室はガラス越しに空を見上げる。西の空には鮮やかな夕焼け――

「警察のドローンもだらしないぜ。日が暮れてきて見失っただとよ」と和田。



 見失ったのではない。戦太郎自身自らが身を隠したのだ。それほど戦略に長けた戦闘Gドロイドなのだ。



 急遽作られた対策本部テントに到着した三人は対策部長より説明を受けた。

「身を隠すのも戦略のうち、と横取は言っている。大災庁から提供された戦太郎の行動データの分析から今後の行動が予測出来る。――戦太郎は深夜あるいは早朝行動を起こす」

「対策部長、ヤツは寝るわけ無いんだろう? 三日間は破壊行動起こすと聞いたぜ」

 ぶっきらぼうな和田の言い方に対策部長は答える。

「戦太郎は戦闘に対しては高度な知識が植え付けられている。夜襲をかけるために時を待つのだ」

「分からないんですけど……」と神室。

「実験用に作られているのにそんなことまで頭に入っているんですか?」

 対策部長は肩をすくめた。

「動作確認用の試作品と言うが、全ては立体的にプログラミングされている。つまり動作確認だけのプログラムだけではないと言うことだ、開発責任者の横取が言うには、な」

「つまり戦闘能力一式もヤツの頭に入っているというわけか?」と和田。

「そうだな」と和田に対し対策部長が返答した。

 さらに和田は続ける。

「ヤツの目的は何だ?」

「まさにそこが一番の疑問だが、今回の試作品では明確な目的までは設定していない、と横取の説明だ。つまりこのままだと戦太郎の赴くまま破壊活動が続く」

 法源浩一郎が声を荒げた。

「そんな馬鹿なことってあるのかよ。事前説明では試作品には位置情報装置も組み込まれていないと聞いてるぜ。どこにいるか分からないじゃないか」

 法源の剣幕に対策部長は言葉を失いかけたが――

「まあ落ち着いてくれ。見失ったとはいえ行動パターン解析ではおおよその見当はついている」

 対策部長は言うと設置してある液晶から地図を映し出した。

「今いる場所がこの青い点、潜んでいると思われるのが赤い円内だ。深夜を迎えたら動き出すに違いない。その前に捕捉だ」

 じっと見つめる三人。

「みなとみらい、本牧、山下……海側か。しかし広すぎるぜ」

「君たちはこの円内を捜索してくれ。万が一発見しても無闇に手を出さないように。相手は殺戮マシンだ。見つけたらこの位置情報装置を貼り付けてくれ」と六個のGPSを差し出した。

 対策部長の声に神室は言う。

「貼り付ける? 随分原始的なやり方だわ。それもどうやって?」

「シールを剥がしてくれ。粘着物質で塗られている。投げつければ張り付く。失敗しても良いように3個づつ渡す――だが再度申し伝えるが、くれぐれも手を出さないようにな」

 神室と法源に三個ずつ手渡された。

「手元が狂ったら台無しだわ」と神室。

「仕方ねえ、やるか」と覚悟を決めた法源だった……



 以下、その4に続く


※本作は、執筆における誤字脱字の校正および構成の補助として、AIツール(Gemini、Copilot、ClaudeAI:全てフリー版)を利用しております。物語の核となるプロットや描写は、作者自身の手によるものです。

より良い作品をお届けできるよう努めてまいります。


その4ではGドロイドとバイオボーグの戦いを重点的に書く所存です。手を出すな、と命令されても手を出さずにはいられないシチュエーションを考えております。そこに天馬楓がどう絡んでゆくのか? 

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