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からくり野球〜土壇場のジョーカー〜  作者: 水前寺鯉太郎
3年目

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41/46

第41話:侵食される右腕、暴走する「五つの人格」


 ウエスタン・リーグ中盤戦、対中日ドラゴンズ戦。

 砂織は産休に入り、自宅からリモートでしみまるのバイタルと義手をモニターする「遠隔女房役」を務めていた。

 5回裏、ピンチの場面。砂織がタブレットを叩く。

「しみまる君、ここは**【鎌鼬(キレ特化)】**に換装よ! 外角低めにズバッと決めなさい!」

「了解、砂織さん!」

 しみまるがベンチ裏で予備のアタッチメントを装着した、その瞬間だった。

 義手の接続端子から、どす黒いノイズがしみまるの視界をジャックした。

『――ターゲット確認。……プログラム「イカロス」起動』

「う、わあああああッ!!」

 しみまるの右腕が、本人の意志を無視して激しく駆動音を上げ始めた。


 黒金博士が血相を変えてモニターに飛びつく。

「馬鹿な! 外部からのハッキングだと!? ……これは、かつての帝都タイタンズが遺した、義手を兵器に転用するための凶悪なウイルスだ!」

 マウンドに戻ったしみまるの右腕は、もはや制御不能だった。

 **【雷鳴スピード】の超振動と、【綿雪スロー】**の制動が同時に発生。

 右腕の中で「速く振れ」という命令と「止まれ」という命令が衝突し、火花を散らす。

「し、しみまる君! 外しなさい! その腕を今すぐパージ(切り離し)して!!」

 砂織の悲鳴のような通信が耳元で響く。

 だが、ウイルスによってロックされた義手は、しみまるの生身の肩に食い込み、外すことができない。


 バッターボックスには、中日の主砲。

 しみまるの意志とは無関係に、右腕が勝手に振りかぶる。

 全身のバネが「殺戮モード」へと強制的に書き換えられ、放たれた白球は、スピードガンの限界を超える180km/hを計測。

 キャッチャーのミットを弾き飛ばし、バックネットのコンクリートを粉砕した。

「……あ、あぶない……逃げてください!」

 涙を流しながら叫ぶしみまる。

 右腕は、今度は**【空蝉(変化)】**の機能を暴走させ、ボールを握り潰さんばかりの力でうねり始めた。


 自宅のベッドの上、砂織は大きくなったお腹を抱えながら、必死にキーボードを叩いた。

「……私の旦那を、勝手に操らないでよ!!」

 砂織は、かつてしみまると交わした「愛の共鳴ハート・リンク」のログを、ウイルスの深層部へと流し込んだ。

 冷徹な破壊プログラムの中に、二人のデートの記憶、胎動を感じた時の喜び、そして「二人でパパになろう」と誓ったあの日の温もりが、データとなって侵入していく。

『……エラー。……論理不整合。……「愛」は演算不可能です……』

 パシィィィィィィィンッ!

 義手から黒い煙が上がり、強制ロックが解除された。

「……ハァ、ハァ……。砂織、さん……?」

「……しみまる君、今よ! その腕を捨てて、予備の『生身に近い標準腕』に切り替えて!」

 しみまるは、暴走した義手を引き剥がし、地面に叩きつけた。

 マウンドには、ボロボロになった少年と、彼を救った「遠く離れた妻」の絆だけが残っていた。

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