第38話:未来へ繋ぐ一球、愛のダイヤモンド
9回裏、2アウト。ランナーなし。
スコアは1対1のまま、紀伊プラムスの運命はマウンド上のしみまるに託された。
キャッチャーボックスに砂織の姿はない。彼女はベンチで右肩を固く固定し、祈るようにしみまるを見つめている。
打席に立つのは、ネオ・アイアンズの最終兵器、アイアン・シン。
「計算終了。捕手が交代したことで、君の投球精度は15%低下した。……この確率は、絶対だ」
シンの瞳が赤く発光し、しみまるのリリースポイントを精密にロックオンする。
魂のオーバーライド
しみまるは、ベンチの砂織と目を合わせた。
声は届かなくても、彼女の視線が語っていた。
(……しみまる君。あんたの腕は、もう誰にも、何にも縛られてない。……自分の心のままに、投げなさい!)
しみまるは深く息を吐き、右腕を掲げた。
かつての黄金の光も、機械の駆動音もない。
だが、その腕には、砂織の涙の温度、父・大和の理想、そして和歌山の風が宿っていた。
「……シン。君の計算には、『愛』の変数が足りないんだ」
しみまるが振りかぶる。
その瞬間、彼の脳内チップ(休止中)ではなく、心臓が爆発的なエネルギーを右腕へと送り込んだ。
シュゴォォォォォォンッ!!
放たれたのは、この日最速の148km/h。
生身の限界を超えたその白球は、シンの予測演算ラインを物理的に「捻じ曲げて」内角へと食い込んだ。
「――ストライイクッ!! バッターアウト!! 試合終了!!」
審判の声とともに、スタジアムが揺れた。
紀伊プラムス、独立リーグ優勝。そして、悲願のNPB参入権獲得。
歓喜に沸くナインがマウンドへ駆け寄る中、しみまるは真っ直ぐにベンチへ向かった。
砂織が、不自由な右肩を庇いながら歩み寄る。
「……やったわね、しみまる君」
「……はい。砂織さんが、僕をここまで連れてきてくれました」
しみまるは、全観衆とテレビカメラの前で、砂織の前に膝をついた。
ポケットから取り出したのは、安価なペアリングではない。彼が1年目の年俸を全て注ぎ込んで用意した、本物の、そして唯一無二の婚約指輪。
「砂織さん。僕は、これからもあなたと一緒に野球がしたい。……あなたの隣で、人生という名のマウンドに立ち続けたい。……僕と、結婚してください!」
一瞬の静寂の後、スタジアムは今日一番の拍手に包まれた。
砂織は顔を真っ赤にしながらも、凛とした声で答えた。
「……もう、遅いぐらいよ! 最高のリード、期待してるからね、旦那様!」
数ヶ月後。
春のキャンプ地。そこには、背番号19を背負い、元気に腕を振るしみまるの姿があった。
そしてバックネット裏には、コーチ兼マネージャーとして、鋭い視線を送る砂織の姿も。
「しみまる君! 今の球、甘いわよ! 晩御飯抜きにするわよ!」
「わ、わかってますよ砂織さん!」
からくりに始まり、生身の愛で結ばれた二人の物語。
彼らが次に目指すのは、日本一、そして世界一の夫婦バッテリー。
和歌山の青い空の下、しみまるの投げたボールは、どこまでも高く、どこまでも明るい未来へと伸びていった。
紀州プラムス:しみまる(背番号19)
2027年度 最終個人成績(独立リーグ)
| カテゴリ | 項目 | 成績 | 備考 |
| 投手部門 | 勝利数 | 12勝 2敗 | リーグ最多勝。勝ち星の全てに砂織が関与 |
| | 防御率 | 2.84 | 序盤は苦しむも、後半は驚異の安定感 |
| | 奪三振 | 145個 | 「心の共鳴」による予測不能の出し入れ |
| | 最速 | 148km/h | 最終戦のラスト1球で記録(自己最速タイ) |
| 打撃部門 | 打率 | .312 | 投手専念のため打席数は減少 |
| | 本塁打 | 12本 | ここぞという場面での代打本塁打が光る |
| | OPS | .920 | 依然としてリーグ屈指の脅威 |
獲得タイトル・表彰
* 独立リーグ年間MVP(満場一致での選出)
* 最優秀バッテリー賞(白浜砂織と共に受賞。史上初のカップル受賞)
* ベストナイン(投手部門)
* 和歌山「愛のシンボル」特別賞(マウンドでのプロポーズを記念して)




