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惑星ムンド管理官、転生者を監視する。  作者: 山田村
第五章 歴史

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第57話 アイルランド国 1486年 国王




 全員が無傷で教会へと帰還した。

 待ち構えていたダニエルやメイソンたちに事の結末を報告し、北アイルランドの住民たちの安全が確保されたことを伝える。マリアは翌朝に病院へ向かい、アルフィー達の治療をすることをダニエルたちと約束していた。

 真夜中ということもあり、開いている店などどこにもない。私たちはメイソンの拠点の厨房を借り、私が数品調理してみんなで会食をした。久々にあおった強い酒が、心地よい眠りへと誘ってくれた。


 翌朝、目を覚ますとマリアはすでに病院へ出かけた後だった。

 昨夜、ダニエルとマリアからは「教会で働かないか」としつこく勧誘された。私は「やり残したことがあるから」と断り、スコットランドの懸案を解決してからだと返した。

 今回の報酬として「召喚魔法」について尋ねると、上の者に相談するとのことだった。

「杖を提供してもらっただけでも、その価値は十分にあるわ。私からも、それにアルフィーとイーサンからも後押しさせてもらうわね」

 マリアはそう言って微笑んでくれた。


 北アイルランドを離れた私たちは、かねてからの懸案だったスコットランドの山賊拠点を急襲した。賊どもを掃討し、未解決だった問題を片付けていく。

 スカイ島の住人であるウィローはいまだ捕まっていないようだが、猫獣人のルビーが問題だった。いっそ船でスカイ島の港まで行き、地元のエルフにお願いしようかと相談していたら、バレリアが言った。

「ウィローを探してみたらどうでしょう?」

 なるほどと思い、港の商業ギルドでスカイ島の商人であるドランの所在を尋ねると、「月初めに来る」という。ドランが来たら会いたいとことづけを残し、その場を後にした。


「あそこの宿の飯、まずいんだもん……」

 エラがそんな不満を漏らすので、私が作るからと説得して数日。ようやくドランが訪ねてきた。

「初めまして、スカイ島のドランです」

 挨拶する彼の後ろにはウィローの姿があり、私は複雑な心境で彼女を見つめた。

「初めましてドランさん。冒険者のイザベルです。実は……」

 私は山賊退治の経緯と、ルビーのことを話した。

「あぁ、知っていますよ。猫獣人が避難してきたという話ですね。分かりました、なんとかしましょう」

 ドランは快く承諾してくれた。

「これは、山賊から没収した金貨です。ルビーの食事代として持っていってください」

 私は強引に袋を押し付け、ルビーとの別れを済ませた。


 あとは聖女グレースだ。

 指定の場所に到着すると、気配は薄いものの、確かに「何か」がそこにいた。私は目標に向けて聖光治癒を放つ。

 すると、まるで蒸発するかのように、明るい霧状の何かが天に向かって消えていった。エラがその場所に駆け寄る。

「イザベル、あったぞ! グレースのワンドだ!」

 お宝好きのエラがぴょんぴょんと跳ねて喜んでいる。

「少し補修すれば使えるけど、どうする?」

「アンナに研究させるわ。いい勉強になるでしょ」

 エラの提案通りにすることにした。

「それにしても、今回のグレースは前と違って存在が希薄だったわね。悪魔と何か関係があったのかしら」

 私が首を傾げると、エラは真剣な顔になった。

「それは興味深いな。前はもっと強かったのか?……因果関係は断定できないが、悪魔との親和性が強かった可能性はある。だが、あくまで不確定だ」

 関係ありと考えた方が自然かもしれない。

 私たちは明日、再び北アイルランドへ向かう予定だ。


     * * *


 いつもの広場にあるメイソンの店に寄り、彼を呼んでもらった。

 現れた部下から「西の教会へ来ていただきたい」と案内され、しばらく後をついていく。建物の中には、マリア、そしてアルフィーとイーサンの姿があった。

 互いに挨拶を交わすと、アルフィーがにこやかに話しかけてきた。

「おぉ、この方が新しい聖女様ですか?」

「マリア様と無事に再会できて良かったですね。……それと、私は鍛冶屋ですよ」

 私が付け加えると、イーサンが感心したように言った。

「イザベル、貴方の作った杖は実に興味深い代物だ」


 そこへ、ダニエルが二人の老人を連れて現れた。

「こちらは教会の外交部責任者、セオだ。そしてもう一人は、召喚魔法を含む魔術部門長のジョセフだ。以後、よろしく頼む」

「ジョセフです。イーサンとは同僚になりますな」

 挨拶もそこそこに、セオが本題を切り出した。

「実は、悪魔の消滅後にダブリンの街を調査しました。……宮殿を含む半径十キロほどが、完全に無人化しています。もともと我らの影響力が強い都市でしたが、王族を含め有力な貴族がことごとく消え、国として成り立っていません」

 セオはマシューを真っ直ぐに見つめた。

「そこでマシュー王子。……貴方に、この地を統治してはもらえないだろうか。我ら教会が全面的に後押しします」


 とんでもない提案だった。

 マシューはだらしなく口をあんぐりと開けて呆然としている。私はこっそり肘でこづいて、彼の意識を現実に引き戻した。

「このまま放置すれば、アイルランドの民が不憫でなりません。どうか早急な決断と行動を。これは教皇閣下からの切なる願いでもあります」

 ダメ押しの一言に、マシューはようやく口を開いた。

「……分かりました。引き受けます」

 その決断を聞き、セオは事務的に、だが迅速に話をまとめた。

「では、アイルランドに我が北アイルランド国を編入し、州として支える手続きを開始しましょう。なにせ事務方が全滅しましたからな。地方の貴族を急ぎ招集して会議を開き、マシュー王子の母君のご実家にも協力を要請しましょう。この機に乗じて隣国がちょっかいを出してくる可能性もありますが、悪魔を退ける力があれば問題ないでしょう」

 私たちは流れるような手際に身を任せ、アイルランド王宮へと向かうことになった。


 教会関係者と共に、数日かけて馬車でダブリンへと向かう。

 人々は生き残ってはいたが、悪魔の影響か活気はなく、街全体が呪われているかのように重苦しい雰囲気に包まれていた。

「王宮に入る前に、市民の現状を回復させることを優先しよう」

 マシューの提案に、教会関係者も異を唱えず従った。

 一番広い広場に住民を集め、広範囲の治癒魔法を施すことにした。教会の広報を聞きつけ、人々がぞろぞろと集まってくる。


「市民に告ぐ! これより、悪魔の影響で体調を崩した皆に対し、悪魔を退治したマシュー王子一行が治癒魔法を無料で施術する! これはマシュー様の強いご意向である!」

 宣言と共に、市民から歓声が上がった。

 まったく、うまいものだと感心してしまうが、苦しんでいる市民を助けられなければ統治者として認められないのも事実だ。

 私とエラは、広範囲に向けて治癒魔法を発動させた。集まった市民は歩ける程度の軽症者が多かったため、効果はてきめんだった。

 入れ替わり立ち替わり数回繰り返し、日が傾きかけたところで一旦切り上げた。「明日もやる」と告知し、ようやく王宮へ入る。


 王宮内では、教会関係者が手不足の中で走り回っていた。

 事務方の欠如を痛感した私は、ラシーヤにヘルプを要請した。差し当たりアンドロイド百体、足りなければ随時追加、という手はずだ。

 数分後、「マシューの関係者」というていで現れた彼らは、不自然なほど自然に溶け込み、雑務をこなし始めた。

 最終的に送り込まれたアンドロイドは、合計五百体にのぼった。事務に三百、警備に二百。新生アイルランドの歯車が、ようやく回り始めた。


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