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惑星ムンド管理官、転生者を監視する。  作者: 山田村
第五章 歴史

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第54話 アイルランド国 1486年 聖光




 聖職者から預かった魔道具と魔導書について、エラに解説してもらうことにした。


「教会はこのように、秘匿された本を多く蔵しているようだな。これは太陽光に近い光を放ち、対象への精神攻撃をリセットする魔法だ。実によくできている。ただし、聖属性が低い者が使っても効果は薄い。この魔道具の方は、同じ魔法を放つための触媒だな。これも使い手次第といったところか」


 エラの分析は的確だった。私は魔道具の構造をスキャンし、その内容を分析して、さらなる改良を加えることにした。

「太陽のエクスプロージョン」の魔法は、書物を読み込むことで習得できそうだ。道具の製作も考えたが、まずは魔法の訓練を優先する。エラと数時間ほど研鑽を積むと、それなりの成果が得られたため、いよいよ魔道具の制作に取り掛かった。

 実験のためにいくつかサンプルを作り、最もバランスの良かったものをベースにして、自分たちの杖を組み上げる。


 数日後、私とエラの専用杖が完成した。「太陽のエクスプロージョン」は、一キロ先まで届く危険な威力の武器へと変貌を遂げた。

 預かっていた品を返却するため、メイソンと合流する。エラの提案もあり、安全を担保するために「回復魔法の本」を追加で借りられないか交渉してもらうことにした。サンプルとして作った杖を、いわば「餌」として差し出す条件だ。


「上の者に相談してまいります」


 そう言って下がったメイソンに代わり、例の聖職者が姿を現した。


「この二冊をお持ちしました。一つは広範囲治癒魔法……戦闘中でも深い傷を瞬時に塞ぐもの。もう一つは『聖光治癒』、肉体と精神を同時に癒やす魔法です。現在、教会にこれらを扱える者はおりません。ですが、あちらの三本の杖の出来栄えを拝見し、これらを提供することに決めた次第です」


「今、中身を拝見しても? 内容次第では、これらも杖に組み込める可能性がありますから」


 私がそう告げると、聖職者は「そのつもりで持ってきたのだ」と言わんばかりに深く頷いた。

 エラがじっくりと本の内容を読み解いていく。もう一冊はバレリアが速読し、その内容を私に伝達してきた。


「これは聖属性への親和性がかなりウェイトを占めるな。儂ではあまり効果を出せん。だが、聖職者が杖で力を増幅させれば可能かもしれんぞ。あとは……イザベル、お前次第だ」

「『太陽のエクスプロージョン』の術式を応用すれば、形にできるかもしれないわ」


 私の言葉に、聖職者は「本当ですか!」と声を張り上げて歓喜した。

 彼らの生業は本来、癒やしや魔を祓うことだ。失われていた魔法が復活することは、彼らにとって何よりも重大な関心事なのだろう。

 数日後にまた伺うと約束し、その場は解散となった。


 翌日から、私は魔法陣を魔導図面に落とし込み、工作機でプレートに印字した。

「太陽のエクスプロージョン」「広範囲治癒」「聖光治癒」――それぞれのプレートを組み込んだ三層構造。中心には魔力を増幅させる魔石と、オリハルコンをベースにした新素材を配置し、新たな杖の試作機を完成させた。

 テストの結果、エクスプロージョンは問題なく作動した。問題は残り二つの治癒魔法だ。

 エラに相談すると「教会の現場で試せ」と言う。メイソンを呼び出して事情を説明すると、療養所と隔離病棟があるという。彼が聖職者に話を通しに行き、数分後には迎えの馬車がやってきた。


 施設は郊外にあるらしく、移動中の馬車内ではしつこいほどに勧誘を受けたが、私はきっぱりと断った。ただし、魔道具の提供や仕事としての協力は惜しまないこと、その代わり報酬として情報提供を求めることは強く主張しておいた。

 そんな会話をしているうちに、現場へ到着した。


 病棟では三十名ほどの患者が横たわっていた。

「端から奥まで、一気に発動させるわ」

 そう告げて呪文を唱える。派手な光こそ出なかったが、空気が震えるような波動が伝わった。結果、全域にわたる治癒効果が確認された。

 次に杖を聖職者に渡し、誰でも使えるか試してもらう。すると、見事に魔法が発動した。彼は呆然とし、やがて自らの手で成し遂げた奇跡に酔いしれるように、ケラケラと笑い始めた。


「あー……壊れたな」


 エラがボソリと呟くと、彼はハッと正気に戻り、いつもの陰気な様子へと戻った。

 次は特別病棟だ。ここは精神疾患、内臓疾患、そして感染症の三棟に分かれている。

 まず訪れたのは、内臓疾患の末期患者がいる部屋だった。


「おー、ダニエル。また見舞いに来てくれたのか。ありがとう。忙しいのに済まないねぇ……」


 患者が声をかけた。あの暗い聖職者――ダニエルは、よく見舞いに来ているらしい。近親者だろうか。ダニエルがこちらを見て頷く。

 私は呪文を唱え、「聖光治癒」を発動した。

 柔らかな光と熱が患者を包み込む。男は少し咳き込むと、口から何か異物を吐き出した。そして、ゆっくりと深く呼吸をした。


「なんだ……気分がいい。水が飲みたい」


 私がコップの水を渡すと、彼は健常者のような勢いで飲み干した。

「……何をした?」

「『聖光治癒』の実験よ」

 私の答えに、彼は「なんと!」と叫んでベッドから起き上がった。

「成功だ。恐れ入った。儂はかつて、その研究をしていたのだ。……その杖から発動したのか? 貸してみろ」


 彼は杖をまじまじと眺め、しきりに頷いた。

「もしかして、この図面は魔法陣を回路化したものか?」

 この老人は「本物」だ。私は正直に答えた。

「その通りです。太陽のエクスプロージョンを参考に、治癒魔法を刻みました。オリハルコンと魔石を用いた新素材の増幅装置も付いています」

「そんな発想、お前さんは天才だね。少し使ってみたいが……いや、待てよ。『太陽のエクスプロージョン』だと? 悪魔でも出たのか?」


 話が逸れそうになったので、私はダニエルに合図を送り釘を刺した。

「先生、病み上がりですからお大事に。頑張りすぎてまた倒れられては困ります」

「ダニエル、すまんな。しかしこれを見て黙っていられるわけがないだろう、分かってくれ、儂の性分だ」


 熱くなる二人を余所に、私は告げた。

「これは試供品として置いていきますから、後でいくらでも実験してください。これから精神病棟と伝染病棟の患者さんも診たいのですが」

「それもそうだ。儂も付き合おう」


 そうして精神病棟へ向かう途中、先生の腹が派手に鳴った。ひとまず椅子に座ってもらい、温かいスープを渡して休憩を取る。

 先生はエラをじっと見つめ、「お前、ウェールズの魔女か?」と問いかけた。

 エラは「知らん! お前こそ教会の脳みそ……いや、狂人の脳だったか」と返し、先生は「違う、教会の頭脳だ!」といがみ合っている。


「イザベル、お菓子」

「イザベル、儂にもだ」


 結局、似た者同士のように張り合う二人であった。


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