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櫻雨-ゆすらあめ-  作者: 弓束しげる
◇ 二章十一話 酒盛りの墓 * 慶応元年 六月
229/235

若者と年長者

「じゃ、焼きそばご馳走になりまーす」


 土方も端に腰を下ろした後、三人が丁寧な所作で山南に手を合わせたのを見守ってから、藤堂は遠慮なく折箱と引裂箸を手に取った。


 沖田も愁介もぱっと顔を上げると、藤堂に倣って目の前の串にそれぞれ手を伸ばす。


「私達は焼きイカご馳走になりますね!」

「微妙な背徳感があるけど、オレもいただきまーす」

「文句言うんなら食うんじゃねぇよ」

「うるさいですー。オレは祭りも墓参りも総司と約束してたんだから、後から割り込んできた人が横やり入れないでくださーい」

「……ちっ。おい総司、酒寄越せ」

「いいですけど、近藤先生にも土方さんには飲ませすぎるなって言われてるんですから、土方さん、加減してくださいよ」

「あれっ、もしかしてそれ、めっちゃいい酒じゃない?」


 沖田が傍らにあった一升瓶を取り上げて栓を抜いた途端、ふんわりと漂った芳醇な香りに藤堂が身を乗り出す。


「そうなんですよ! 山南さんのためにって、先生がいいの出してくださいまして。藤堂さんも飲みます?」


 懐から出てきた器に注いでそれを墓に供えた後、沖田は手を出して待ち構えていた土方を見ぬふりして、藤堂と、ついでに斎藤の猪口にもそれぞれ酒を注いでくれた。


「……おい、総司」

「うわっ、んまっ! 近藤さんありがとー!」

「確かにこれは……いいものだな」

「ですよね。私も今日だけはちょっと舐めちゃおうかなー」

「おい総司」

「総司、オレにもちょっとだけ舐めさせて」

「もちろん、いいですよ。えーっと、愁介さんの器……」

「舐めるだけならこっち猪口余ってるから使ってよ。ほら(はじめ)、これ松平に渡したげて」

「ああ」

「ありがとう、藤堂さん」

「おい総司!」


 しびれを切らした土方の呼びかけに、沖田のみならず全員が揃って端にいる土方を振り返る。意図せずではあるが、四人あまりに綺麗に揃った動きを見せてしまったからか、土方はわずかに気圧されたように身を引いた。


「……お前らな……」


 続く言葉はなかったが、顔が苦々しく歪められ、そこに呆れが混じっていることだけは充分に伝わった。


 ぷっと沖田が小さく笑い、「はいはい。ごめんなさい、土方さん」とようやく改まって土方の器に酒を注いで手渡す。


「ガキどもが揃って大人をからかうんじゃねぇよ」

「若者の集いにおじさんが一人まじっちゃうからだよ」


 舌打ちをした土方に、愁介が酒を文字通り舐めながら切り返す。


 土方は般若のごとき眼光で愁介を睨んだが、愁介は沖田の陰にさっと隠れ、その沖田と、それから藤堂が「ぶはっ」と遠慮なく噴き出したことで、土方の圧は完全に削がれた。


「……おい斎藤、お前、こっち来いよ」


 憤懣やるかたない様子で酒を煽った土方は、せめて落ち着いた話し相手をとでも考えたのか、斎藤へ目を向けてあごをしゃくってくる。


 が、今度は藤堂がわざとらしくハッとした様子で口元に手を当てて、


「えっ。土方さんがオレから(はじめ)を取ろうとしてる……タスケテ山南さん……」


 などと絶望めいた声を上げるので、今日ばかりは斎藤も便乗して頷いた。


「土方さんには申し訳ありませんが、ご遠慮申し上げます」

「なるほど仕方ないね。山南さんの藤堂さんへのご加護が働いちゃったんだね」

「確かに山南さんなら、藤堂さんに味方しますよね」

手前(てめ)ぇら全員覚えてろよ……」


 さらに便乗した愁介と沖田の言葉に余計苦々しく顔を歪めながら、土方はとうとう諦めた様子で芝居の(かたき)役のような捨て台詞を吐いて焼きイカを頬張る。

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