焼きイカの本音
薄く苦笑いを返し、斎藤は藤堂にかじられたイカをそのまま己で頬張る。
藤堂も気にせず新しいイカ串を手に取ってかぶりついたところで、ふと、それまで互いと蝉の声しか響いていなかった墓場に、第三者の声が聞こえてくる。
「いやー……でもさすがに墓前で酒盛りは罰当たりにならない?」
「うーん、どうでしょう。まあ山南さんご本人なら止めたかもしれませんねぇ」
「ばれなきゃ問題ねーんだよ、ばれなきゃ」
どこかで聞いたような会話に斎藤と藤堂が揃って振り返れば、首をかしげる愁介とそれに並ぶ沖田、そして二人の後ろに続く土方が墓の出入り口から姿を現した。
途端、こちらに気付いた三人の内、土方だけがぎくりと一瞬ばかり肩を強張らせる。
が、沖田と愁介は何てことのないように軽く手を挙げ、花咲くような笑顔を揃って向けてきた。
「あっ、斎藤さん、藤堂さん」
「二人もこっち来てたんだ。オレ達もお邪魔していい?」
沖田の手には一升瓶が抱えられており、愁介の手には、焼きイカより少し辛めの香ばしさが漂う折箱がいくつか抱えられていた。
「んっふふ、もっちろーん! ね、一」
藤堂はぱっと一段明るくなった笑みをこぼし、行儀悪く食べかけのイカ串を口に咥えたまま三人の居場所を空けるように横へずれた。斎藤も口の中の物を飲み込めておらず、もう開き直ってやはり行儀悪くもぐもぐと咀嚼を続けたまま頷き、藤堂に倣う。
「あ。焼きイカまみれだ」
「じゃあ、こっちは焼きそばまみれで大正解でしたね!」
愁介の抱えていた折箱は焼きそばだったらしく、丁寧に軽くふたを開けてイカ串の隣に五つほど並べられていく。
嬉しそうにそれを眺める藤堂の横顔を見て、斎藤は今になりようやく、藤堂が焼きイカばかりを大量に買い込んだ意味を悟った。
――初めから、期待していたのだ。こんなふうに、誰かが、己と同じように山南と祭りを過ごそうとしてくれることを。そうしてその誰かと、イカ串を分け合えるようにしたかったのだと。
ただただ本気でイカばかり食べたかったのだろうかと、少し首をかしげていた斎藤は、今更になって気づいた己の鈍さを口の中の物と一緒に呑み込み、誤魔化した。
「土方さーん、突っ立ってたらそのお花、萎れちゃわない? 供えたげてよー」
一人、少しばかり離れた場所へ立ち尽くしたままでいた土方へ、藤堂が明るく呼びかける。
土方はいつかと同じく、今もまだ藤堂への感情を処理しきれていないのか、どこか気まずそうに軽く息を吐いてから歩み寄ってきた。そうして、ぼそりと呟く。
「……近藤さんは、永倉らと一緒に明日来るそうだ」
ほとんど独り言のようだったが、間に斎藤、愁介、沖田と三人挟んでいてもしっかり届いたようで、端にいた藤堂は「そっか」とやはり嬉しそうにまなじりを下げた。




