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櫻雨-ゆすらあめ-  作者: 弓束しげる
◇ 二章十一話 酒盛りの墓 * 慶応元年 六月
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夢現も好き勝手

 藤堂が斎藤の猪口に酒を注いでくれた後、斎藤も同じように藤堂から水筒を受け取りその猪口に酒を注ぎ返す。


「じゃ、乾杯~」

「ああ。乾杯」


 二人で器を軽くぶつけ合った後、藤堂は山南の墓にも向けてそれを掲げた。


「何か、ほんと目まぐるしい一年だったよね」

「そうだな。京に入ってからはこちら、ばたついたこともあったが……やはりこの一年が一番大変だった」

「……ちょっと夢(うつつ)なとこも、まだあるよ」


 そうあごを引いた藤堂の瞳は山南へ向けられたままで、むしろ夢であれば良かった、という想いも透けて見えた気がした。普段は凛としたその眉が、わずかに下げられる。まるで、己の口にした言葉に対し、罪悪を感じてでもいるかのようだった。


「いいんじゃないか。夢現でも」


 言えば、藤堂が少し驚いたように斎藤を見る。


 瞬く目を見返しながら、斎藤はちびりと軽く舐めるように酒を口にして軽く肩をすくめた。


「何を思うかは、誰に制限されることでもないだろう」

「……でも何か、勝手な気もしない? みんな頑張ってんのにさ」

「平助は……以前の俺(ヽヽヽヽ)が、地に足をついて見えたか?」


 飾らず問えば、藤堂は口元にかすかな苦笑いを浮かべて、またひとつゆったり目を瞬かせる。


「そう訊かれれば……まあ、そうね」

「俺が今になってようやく地に足をつけられるようになってきたのは、平助のお陰も大きい」

「おい、照れるじゃんよ!」

「事実だから仕方がない」


 本気の照れくささからか藤堂は茶化そうとしたが、斎藤は敢えて知らぬふりで真面目に返す。


 が、それで追い詰めたいわけでもないので、直後に目を逸らして焼きイカの串に手を伸ばした。かじりつけば、塩気の効いた甘辛いタレが口の中に広がって、より強い香ばしさとかすかな磯の香りが鼻腔を抜けていく。暑さと人混みでそれなりに汗をかいていたからか、ほとんど冷めているそれが随分と旨く感じられた。


 斎藤は、己がかじったそれを敢えて藤堂にも差し向けた。


 口の中の物を咀嚼し、飲み込んで。


「……俺は平助みたいに気の利いたことはできないが、とりあえず一緒に飲み食いするくらいはできる。今はそれで良しとしてくれないか」

「……良しも何も。最高じゃん」


 藤堂はまだ照れたように口をもごもごさせていたが、行儀悪さも気にせず斎藤の手にあったイカをそのまま受け取らず頬張った。口元に付いたタレをやはり照れくささを誤魔化すように少し粗雑に拭いながら、「んまっ」と噛み締める。


「勝手上等だろう。そもそも、新選組は勝手に京に残った連中が作り上げた組織だしな」

「んっふ……それはそう」


 斎藤の呟きに笑い、口から出そうになったものを慌てて手で押さえながら藤堂は深く頷く。


 新選組の成り立ちが、本当にそうだったのだ。


 将軍警護を目的に浪士組として江戸から京へ上ってきたのだが、京へ着いた途端に江戸へ帰ると言った浪士組の頭に逆らい、ただ来ただけで帰れるか、と勝手に京に残った。それが、新選組の一番初めの成り立ちだ。


「あと、墓で酒盛りしているのも本当に勝手だと思う」

「んぐっ……っふふ、それもそう」


 追い打ちをかけると、少々むせそうになったのか、藤堂は堪え切れない笑いに肩をさらに震わせながら己の胸をトントンと叩いた。

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