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第五章3

 第五章 受け継がれし王の魂3


 レファナートの案内によって辿り着いた、封印の間と呼ばれる場所は宝物庫よりも更に広かった。


 でも、広い割には息が詰まりそうな空気が充満している。何というかエネルギーのようなものがうねりを上げているというか。

 

 その上、中央には直径が十メートルはありそうな巨大な魔方陣があって、薄い光を発していた。

 

 この魔方陣がザナルカダスのいる異界へと通じるゲートというわけか。


 俺の世界へと通じるゲートとは大きさがまるで違うし、何か大きな存在が通ることを考慮した上で作られたようにも見える。

 

 とにかく、このゲートに封印を施せば良いのだが、それにはまずレヴァナートと交信しなければならない。

 

 そのためにはレヴァナーグの剣を使用する必要があるのだ。


「じゃあ、やるよ」


 そう言って、俺は魔方陣の前に立つとレヴァナーグの剣の切っ先を天に向かって翳す。言葉はいらないし、ただレヴァナーグの剣と心を通わせれば良いのだ。

 

 今の俺にはそれができる。

 

 するとレヴァナーグの剣が俺の意思に呼応するかのように徐々に光り始めた。果たして善神レヴァナートはどういう形で降臨することになるのか。

 

 何だかワクワクするな。

 

 だが、そんな俺の心に冷水を浴びせかけるように、耳が痛くなるような静けさに包まれた広間に不気味な声が響く。

 

「ほう、あのヴォラクロスを倒してここまで来るとは。幾ら子供とはいえ、さすが王の魂の担い手と言ったところか。何にせよ、我が前に現れられたことは褒めてやろう」


 悦に浸ったような声はどこからともなく聞こえてきた。


「誰だ!」


 俺は周囲を見回したが、レファナートとガステューク以外は誰もいなかった。まさかこの声の主がレヴァナートじゃないよな。


「我が名は邪神ザナルカダス。知っての通りアグナスティア王国をこの手に収めようとする者だ」


 その声に反応するかのように魔方陣が強い光を放ち、チカチカと明滅した。どうやら声は魔方陣から発せられているようだ。


「お前がこの国の支配を目論むザナルカダスか」


 俺はザナルカダスを名乗る姿の見えない相手に向かって恫喝した。


「その通りだ。にしても、お前のように勇者とでも言うべき人間が、再び現れるとは思わなかったぞ。今度こそ、この国は私の物になるとばかり思っていたが、とんだ邪魔が入ったものだ。やはりアグナスはどこまでも我が野望の前に立ちはだかるようだな」


 ザナルカダスは言葉とは裏腹にまるで俺が来るのを待ち望んでいたような声で言った。


「なぜ、お前はこの国を支配しようとするんだ?」


 俺は何気ない質問をしていた。


「なぜと聞かれると返答に苦しむな。そもそも、力のある者が世界を支配したがるのに理由が必要なのか?」


 この愉悦を滲ませたような言葉には、俺もグッと奥歯を噛みしめる。意外にも正論だったので反駁できなかったのだ。


「理由もないのに世界を支配して何が面白い」


 迷惑にも程がある。


「それはただの人間に過ぎない、お前には理解の届かない感情だ。ましてや、お前はまだ子供ではないか。なら、人の上に立とうとする心など持ち合わせてはいだろうし、それでは尚更、世界に覇を唱えようとする、我が野望は理解できないだろうよ」


 ザナルカダスは嘲るように言うと、言葉を続ける。


「いずれにせよ、私とてこんな小さな島にある国を支配したところで面白くも何ともない」


 ザナルカダスは心底、つまらなそうに言った。


「どういうことだ?」


「はっきり言ってしまえば、この国を支配するのは大陸へと進出する足がかりのようなものだ。だから、人間たちにはわざわざ飛行船を作る技術も与えてやった。むろん、大きな力を持つ国としての豊かさもな」


 邪神なら、飛行船になど乗らなくても大陸には行けると思うし、そんなものを人間に与えて何になると、頭の回転が悪い俺は考える。


「この国の支配がただの足がかりだと?」


「そうだ。大陸には私のような邪神や悪魔たちが跋扈している。その中には私の力を超える者すらいて、人間の国を裏から支配しているのだ。そんな連中と渡り合うには私もしっかりと地盤を固めなければならない」


 そこまでして支配を拡大する必要があるのか?


「お前は人間を使って戦争でもするつもりか?」


 俺はようやくザナルカダスの意図を察して、剣呑な声を放った。


「まあ、そんなところだ。人間など私にとってはゲームの駒のようなものだからな。それを動かしてこの世界の支配者の座を巡る戦いに参加するのは実に楽しい。これこそ、神にのみ許された娯楽だな」


 神を名乗る奴はどの宗教でも人間を玩具のように扱うし、ろくなもんじゃないな。


「救い難い思考を持った邪神だな。人間を使った戦いをゲーム感覚で楽しむなんて」


 まあ、そういうことを楽しいと思える感情は簡単には否定できない。俺の世界にも人殺しや戦争をテーマとして扱った娯楽がたくさんあるからな。


「それは民衆の上に立つ王や指導者とて同じだろう。幾ら綺麗事をほざいたところで人は絶えず争い続ける。お前は知らないかもしれないが、始めに私の力を利用してこの国を支配しようとしたのは人間の方なんだぞ」


「何だって?」


 それは新事実だ。


「当初の私はその人間に力を貸していたに過ぎない。それなのにその人間は、いざこの国を支配できる地位に就いた途端、私との関係を一方的に破棄しようとした」


 ザナルカダスは愚かな奴だと言って、続けて言葉を吐き出す。


「だから、私も我慢ならなくなって、そいつを殺してやったのだ。そして、今度は私が自らの手でこの国を支配しようとした。もっとも、その時はあのアグナスによって阻まれたが、今度はそうはいかんぞ」


 ザナルカダスは悔しがる風でもなく、むしろ、愉快げですらある声で言った。


 例え負けてもザナルカダスにとっては全てがゲームに過ぎない。だから、基本的に面白ければそれで良いのだろう。

 

「なら、今度は俺がその野望を阻んでやる」


 そう言って、俺は敵愾心に満ちた顔をする。身勝手な理由で人の命を奪う奴を看過することはではない。


 ここらで、俺が引導を渡してやらないとな。

 

「面白い。こういう奴がいるから、私も人間という生き物には興味が尽きないのだ。ならば、この私を打ち倒して、見事、この国を救ってみせるのだな。ただし、この私に刃を向けて生きて帰れるなどとは思うなよ」


 それは実にラスボスらしい台詞だった。ザナルカダスも腹立たしい奴ではあるが、自らの役どころは心得ているようだな。


 こっちも相手がヒールに徹してくれるのなら、思う存分、戦うことができる。だが、戦うと言っても肝心のザナルカダスはゲートを通れない。


 なのに、どうやって戦うつもりなんだ?

 

 俺はとりあえずレヴァナーグの剣を使って再びレヴァナートとの交信を試みようとすると、いきなり魔方陣から光りが膨れあがる。

 

 そして、魔方陣から現れたのは上半身は腕が四本もある人間で、下半身は巨大な蛇のような体をした化け物だった。

 

 それにしても何というおぞましい姿だ。

 

 こいつと比較すると、あのヴォラクロスがそこらにいるモンスターとたいして変わらないように思える。

 

「お前は力が強すぎて、ゲートを通れないんじゃ?」


 ヴォラクロスよりも一回り大きい化け物を見て、俺は圧巻とも言えるプレッシャーを感じた。


「今の私は本物の私の分身に過ぎない。だが、分身と言えども、お前たちを血祭りに上げるには十分すぎるほどの力を持っているぞ」


 ザナルカダスは邪悪としか言いようがない笑みを浮かべると言葉を続ける。


「少なくとも、かつてアグナスと戦った時よりも今の分身であるこの私の方が力は上だし、それが何を意味するのか、その身で特と味わうのだな」


 そう言って、ザナルカダスは蛇の足を蠢かせる。本物よりも力の劣る分身だから、ゲートを通ることもできたということか。


「分身だか何だか知らないが、お前を倒してゲートを封印してやる。行くぞ」


 俺は悠長にレヴァナートと交信している暇はないと思い、すぐさまレヴァナーグの剣を構えると、いつでも光りの刃を放てるように神経を集中した。


「来るが良い。この私の計画を狂わせてくれたお前たちには相応しい死を与えてやろう。せいぜい、あの世で神に刃向かってしまった己の愚かさを呪え!」


 そう高らかに言うと、ザナルカダスはいつの間にか手に握られていた四本の剣を大きく振り翳して襲いかかってきた。


 俺は迷わずレヴァナーグの剣を振り下ろして、あのヴォラクロスでさえ一撃で仕留めた光りの刃を放った。

 が、ザナルカダスはそれを余裕綽々といった感じでかわす。

 

 その蛇の下半身からは想像もできないほど変則的な動きが取れるようだ。しかも、見た目に反して敏捷性もある。

 

 すると今度はザナルカダスが四本の剣から俺と同じように全てを断ち切るような光りの刃を放ってきた。


 俺は迫り来る四本もの光りの刃を何とか避けると、すぐさま反撃に転じようとする。

 

 そこへレファナートがスパークする特大の光りの球を放ったが、ザナルカダスは慌てる素振りも見せずにその光り球を光りの刃で迎撃する。


 その瞬間、広間を揺るがすような大爆発が起きて、辺りに目も眩むような光りが乱舞する。

 それを受け、俺は戦々恐々といった顔をする。


 この場所は広くはあるが、こんな大きなエネルギーがぶつかり合えば、床や天井が崩落する可能性もある。

 とはいえ、そんなことを気にして戦えるような相手ではないだろうが。

 

 一方、ザナルカダスは爆煙が消えると、間を置かずに四本の剣から繰り出される光りの刃を乱れ打ちする。

 とんでもない数の光りの刃が一瞬にして放たれた。

 

 あんなのとても避けられるような攻撃じゃないぞ。

 

 だが、レファナートは一斉に飛来してくる都合、十六本もの光りの刃をかろやかな動きで避けて見せた。

 しかし、やはり無理があったようで、その内の一本がレファナートの肩を掠める。

 

 レファナートは肩から血を迸らせながら激痛に耐えるように、歯を食いしばる。

 

 俺は狙われているレファナートを助けるように強力なエネルギーが込められた光りのヴェーブを放った。

 これはヴォラクロスとの戦いで学んだ技だ。

 

 そして、光りのヴェーブは広間の床をバリバリと砕きながらザナルカダスへと一直線に迫る。

 だが、ザナルカダスも四本の剣を同時に振り下ろして、対抗するようにエネルギーの組合わさった巨大な光りのヴェーブを放つ。

 

 その一撃は俺の放った光りのヴェーブを飲み込んで、大質量のエネルギーと共に俺へと押し寄せてきた。

 

 あなんなのを食らったら、俺の体などひとたまりもない。

 

 それを走り抜けるように避けると、俺は狙い澄ましたようにすかさず光りの刃を放つ。

 こんな単発的な攻撃が当たるとまでは思っていないが、動きを停滞させ、攻撃の手を休ませることくらいはできるはずだ。

 

 だが、その考えは甘かったようで、俺の放った光の刃はさらりと簡単に避けられてしまい、ザナルカダスはすぐ様、反撃に移ろうとする。

 

 すると今度はザナルカダスの攻撃を妨害するように、レファナートが光りの球を連続で放った。

 しかし、それもザナルカダスが乱れ打ちした光りの刃に相殺される。

 

 その上、相殺されなかった光りの刃はレファナートの方にそのまま飛来して、彼女のローブを切り裂いた。

 

 だが、レファナートが血を流す様子はない。

 

 光りの刃がレファナートの体に触れなかったのは運が良かったと言えるだろう。

 

 その結果を受け、俺はひとまず息を整える。

 

 レヴァナーグの剣を使って戦っているというのに完全に力負けしている。距離をとっての戦いではあちらの方に利があるようだ。

 

 だとしたら接近戦に持ち込まなければ勝機はない。だが、飛来する十数本にも及ぶ光りの刃をかいくぐれるとはとても思えない。

 

 さて、どうする。

 

「どうした、勇者たちよ?そのような戦いぶりではとても私は倒せんぞ。これでは昔のアグナスの方がまだ戦い甲斐のある相手だった。やはり王の魂の担い手とはいえ、お前のような少年ではその力を扱うには荷が重すぎると言うことだな」


 そう言うと、ザナルカダスは泰然とした態度で、その場に直立する。やはり分身とはいえ、ヴォラクロスよりは遙かに手強い相手のようだ。


 俺はレファナートに目配せをする。


 するとレファナートも示し合わせたように頷いた。それから、俺は疾風のように走りながら光りの刃をザナルカダスに放つ。

 

 当然のことながら、ザナルカダスも俺の接近を許さないように、必殺の威力を秘めた光りの刃を乱れ打ちしてくる。


 たちまち俺の放った光の刃は小規模の爆発と共にかき消され、飛来してくる残りの光りの刃が、かまいたちのように全て俺に降り注いだ。


 だが、俺は走るスピードをいささかも緩めはしない。


 なぜなら、彼女を信頼してるからだ。

 

 するとレファナートがそんな俺を援護するようにたくさんの光りの球を放つ。それは今にも俺の体を切断しようとしていたザナルカダスの光りの刃とぶつかり合う。


 その瞬間、俺とザナルカダスの間で空間がはぜ割れたような大爆発が起きる。危うく俺もその爆発に巻き込まれるところだったが、寸前のところで身を捻って難を逃れる。


 そして、爆煙によって俺の視界は遮られたが、俺はザナルカダスから垂れ流される強力な魔力を感じ取る。

 

 もちろん、魔力を感じ取れるのもアグナスの力だ。

 

 俺はその魔力を辿るように煙の中から飛び出すとザナルカダスの前へと肉薄する。これにはザナルカダスも虚を突かれたように、目を見開く。

 

 その隙を突くように、俺はザナルカダスに差し違える覚悟で斬りかかった。ザナルカダスも四本の剣で、俺を切り刻もうとする。

 

 俺は必死にその攻撃を食い止めて、ザナルカダスの懐に飛び込もうとした。だが、なかなかそのチャンスを作り出すことができない。

 

 ザナルカダスの剣の腕前は相当なものだし、繰り出される四本の剣の攻撃は凌ぐだけで精一杯だ。

 

 なので、俺は腰に下げていた剣を抜くと、それを即座にザナルカダスに投げつける。ザナルカダスもその剣を蠅でも追い払うように弾き飛ばそうとした。

 が、ヴォラクロスとの戦いで、既にヒビが入っていた剣は空中でバリンと砕け散る。破片が宙を舞い散り、それを目にしたザナルカダスの剣の動きが緩慢になった。

 

 俺はその絶好のチャンスを見逃すことなく、渾身の力を込めて剣を一閃させた。その一撃は上手い具合にザナルカダスの肉に食い込み、その腕を切り落とす。

 

 それから、続けざまに俺はザナルカダスな動きを凌駕するような攻撃を加えようとしたが、唐突に繰り出された巨大な蛇の足が俺を側面から薙ぎ払った。 

 

 それによって、俺は横へと大きく吹き飛ばされて、ゴロゴロと床を転がる。受け身が取れて、すぐに立ち上がれたのは僥倖だった。

 

「この私に手傷を負わせるとはたいしたものだな、少年。私もお前を少しばかり侮っていたようだ」


 ザナルカダスは余裕を滲ませながら言葉を続ける。


「だが、このような生温い攻撃では千年たとうと私は倒せんぞ。我が暗黒の再生力の前にはこの程度の傷など意味をなさないことを知るが良い」


 ザナルカダスが、そう猛るように叫ぶと切り落とされた腕が瞬く間に復元された。


 はっきり言って、これは再生とか、そんなレベルの回復力じゃない。強いて言うなら、具現化だろうか。

 

 その上、床に落ちたはずの剣もまるで手品のように復元されたザナルカダスの手に戻っているし。

 

 再び、何事もなかったように四本の剣を付け入る隙のないように構えるとザナルカダスは俺やレファナートと対峙した。


 しばし睨み合いが続く。

 

 俺はすっかり怖じ気づきながら、金縛りにでも遭ったかのように動けなくなる。それは離れた場所で攻撃の機会を窺っているレファナートも一緒のようだった。


 俺はどうやったらザナルカダスに勝てるのか考え倦ねる。


 そうこうしている内には、ザナルカダスはレファナートに攻撃の矛先を向けて、またしても熾烈を極めた光りの刃を乱れ打ちした。

 

 さすがに今度は避けられないと判断したのか、レファナートは目の前に光りの膜のバリアを張る。

 だが、そのバリアは布きれのようにいとも容易く切り裂かれる。

 

 それを受け、レファナートも瞬時に特大の光りの球を作り上げ、それを放とうとした。だが間に合わない。

 

 過剰なまでのエネルギーが込められた光りの球と、荒れ狂うように飛来する光りの刃はレファナートの眼前でぶつかり合い、エネルギーの光りを激しく迸らせるような大爆発を引き起こした。

 

 その凄まじい衝撃によってレファナートの体は冗談のように吹き飛ばされて床へとしたたかに叩きつけられた。

 

 そして、ボロ雑巾のようになったレファナートはそれっきり動かなくなる。持っていた杖もへし折れていた。

 

 するとガステュークがいきなり巨大化して、怒りの咆哮を上げながらザナルカダスに灼熱の炎をお見舞いする。

 

 その熱波は俺の肌をもチリチリと焦がす。

 

 だが、炎に包まれたザナルカダスはまるで熱さを感じていないように火の海の真っ直中を進み出ると、軽い動作で光りの刃を放った。

 

 それは動きの鈍重なガステュークの腹をズバッと切り裂く。ガステュークはギャーと悲鳴のような声を上げて、呆気なく床に倒れた。

 

 それを受け、俺はかつてないほどの恐怖を感じて、ブルブルと心の底から震え上がった。

 

「これで厄介なレファナートは片付いたことだし、残すはお前だけだな。子供にしては良く戦ったと褒めてやりたいところだが、生半可な力を持ってしまったのが運の尽きだ。最後は私の恐ろしさに打ち震えながら死ぬが良い」


 ザナルカダスは自分の勝利を確信したように哄笑を響かせた。


 俺ももう駄目だと、諦めにも似た気持ちで膝をつきそうになる。レファナートと二人がかりで戦ったのにまるで歯が立たなかった。

 

 自分一人ではとても太刀打ちできる相手ではない。

 

 万策尽きた。

 

 だが、どうしようもない窮地に立たされ、気持ちが折れそうになった俺の頭にまたしてもアグナスの声が響いた。

 

(やはり、今のままではザナルカダスには勝てぬか。ま、分かりきっていたことだが。こうなったら私と融合するしかないぞ、テッド)


 アグナスの言葉に俺は思わずきょとんとした顔をする。融合するという言葉の意味はすぐには飲み込めなかったが、それでも不吉なものは感じた。


(融合だって?)


 俺はその意味を計りかねるように尋ねた。


(そうだ。お前と私の魂が融合すれば、お前は私の持つ全ての力を吸収することができる)


(全ての力)


 その力さえあればあのザナルカダスを倒すこともできるのか。俺は藁にも縋るような気持ちでアグナスの言葉に耳を傾ける。


(そうだ。八百年もの間、受け継がれてきた王の魂の力がお前の物になるのだ。それは私が取り憑いてきた歴代の王たちの力を取り込むことも意味する)


(でも、そんなことをしたら)


 俺にはその提案が、何かとんでもないリスクを抱えているように思えた。簡単にできるようなら、アグナスももっと早く、それを実行していただろうし。


(心配するな。お前の人格に影響が出たりすることはない。ただ、そうなると私の人格は消えてしまうことになるが)


 アグナスが消えるだって、と俺は心の中で素っ頓狂な声を上げた。


(そんなの駄目だ。お前が消えたら、何のために戦っているのか分からなくなる。それに消えるのならむしろ俺の人格の方だろう)


 俺はアグナスを思い留まらせるように言った。


 もし、戦っているのがアグナスだったら、もう少し良い勝負できていたはずだし、勝つために消えるとしたら俺の方だ。

 

(あまり悲しいことを言ってくれるな)


 アグナスは涅槃にも達してしまったような穏やかな口調で言うと、言葉を続ける。


(そもそも、お前は私のために戦っていたのか?それは違うだろう?お前はただこれ以上、目の前で人が傷つくのを見たくなかっただけだ)


(だけど)


 俺はあくまで食い下がる。だが、俺の本心はアグナスが一番、良く知っているので、気の利いた反論はできなかった。


(そんなに深刻になるな。私はもう十分すぎるほど生きた。例え、自分の人格が消えることになっても何の後悔もない。本来なら、私はとっくの昔に死んでいたはずなのだからな)


 アグナスは吹っ切れたような声で言った。


(アグナスはそれで良いのか?)


 そう簡単に割り切れるようなことじゃないだろう。


(ああ。私も自分の人生に幕を下ろせるような機会が来るのを、ずっと待っていたのだ。だが、お前のおかげで、ようやく魂だけの存在などと言うかりそめの生から、解放されることができる)


 魂だけの存在として生きるのが、どんなに大変だったかは想像もつかない。


 でも、それは決して悪いものではなかったはずだ。なのに、アグナスはそれを俺のために擲とうとしている。

 

(そうか)


 俺は意気消沈したように声を絞り出した。


(これ以上、迷っている暇はない。お前もレファナートは助けたいはずだ。彼女のために私の魂を真の意味で受け入れてくれ。それがひいてはこの国を救うことにもなる)


 アグナスの真摯な言葉を聞いて、俺は俯せのまま倒れているレファナートを一瞥する。このままでは自分も彼女も確実に死んでしまうし、他に選択の余地はない。


(分かったよ)


 俺はどこか清々しい気持ちで言った。例えアグナスの人格が消えてしまっても、アグナスが培ってきたものは俺の体に残るのだ。


 それはまさに心のどこかで生きていると言っても良いだろう。なら、そんなに悲観するようなことじゃない。

 

(お前と出会えて本当に良かった。もしも、生まれ変わる事ができたなら、お前とはもっと違う形で会いたいものだな・・・)


 アグナスが、そう願うように言い終えると俺の額がもの凄い熱を帯びる。すると色々なイメージや言葉が急激に頭の中に流れ込んできた。


 今、まさにアグナスの魂が蓄えてきた八百年分の情報が、俺へと引き渡されようとしているのだ。


 これには俺も戦慄にも似た高揚感を感じだ。そして、心の中で(さようなら、アグナス)と別れの言葉を告げる。


 俺も短い間だったけど、お前と暮らせて本当に良かった。

 

 もっとも、こんなことになるなら、もう少しアグナスと語らう時間が持てたら良かったのにと軽い後悔の念に苛まれたが。

 

「神への祈りは終わったか?ならば、心置きなくあの世に行くことだ。そしたら、すぐにでもレファナートと再会させてやろう」


 ザナルカダスは俯いていた俺が顔を上げると、勝ち誇ったように言い放った。だが、すぐに俺の目を見ると、不可解とも言える顔をする。


「もう、負けないぞ、ザナルカダス」


 俺は恐れという感情をどこかに置き忘れてしまったかのように言った。


「何だと?」


 ザナルカダスは先程とはまるで打って変わった別人のような顔をしている俺を見て、すぐに危険なものを感じたようだった。


 すると俺は床を蹴ってまるで弾丸のように広間を駆け抜ける。


 当然、ザナルカダスも矢継ぎ早に光りの刃を乱れ打ちしてきたが、あいにくと今の俺にとってはそのスピードは遅すぎる。

 

 俺は華麗な動きで、光りの刃を次々とかわしていく。歴代の王たちが鍛え上げた反射神経が今の俺の体にも感覚として染みついているのだ。


 だがら、今はその感覚に身を委ねれば良い。


 そうして、全ての光りの刃をかわすと今度は俺の番だと言わんばかりに走りながら、レヴァナーグの剣で全てを打ち砕く光りのヴェーブを放った。

 

 それに対し、ザナルカダスも同じく光りのヴェーブで、迎え撃とうとした。そして、二つのエネルギーが真っ向からぶつかり合い、今までで最も凄まじい爆発が起きた。

 

 俺はその爆発から逃げるのではなく、あえて突っ込んだ。

 

 いくら爆煙が視界を遮ろうと、俺にはさっきよりも遙かに鋭敏化した感覚で、ザナルカダスのいる場所を捉えることができるのだ。

 

 俺はその感覚だけを頼りに、レヴァナーグの剣の力で薄いバリアを張りながら、煙の中を突き進んでいく。

 

 そして、煙の壁が途切れると、次に現れたのはザナルカダスの前だった。

 

 だが、ザナルカダスも俺の出現を予知していたようで、回避不能とも思えるタイミングで繰り出した四本の剣で俺の体をバラバラにしようとした。


 だが、俺はその剣を余裕すら感じさせながらいなしていく。防戦一方だった、さっきまでの戦いぶりが嘘だったかのように。

 

 俺は迫り来る全ての斬撃を軽々と捌ききった。これにはザナルカダスも驚き入るように目を瞬かせる。

 

「こ、これほどの動きが人間ごときにできるはずがない。一体、この短時間で何が起こったというのだ?」


 ザナルカダスは繰り出す攻撃が、ことごとく通じなくなったのを見て、まごついたような声を上げた。


「アグナスやアグナスティア王国の歴代の王たちが俺に力を貸してくれているんだ。お前の動きなんて、もう止まって見えるぞ」


 そう、俺は真の意味で王の魂を受け継いだのだ。その魂に込められたたくさんの王たちの思いが俺の体を突き動かしている。

 

 だからこそ、アグナスや歴代の王たちためにも俺は絶対に負けられない。


 俺が頑然と言い放った言葉を聞いて、ザナルカダスはギリッと歯ぎしりをする。


「なるほど、道理で手強いわけけた。だが、その程度の力で、この邪神ザナルカダスを打ち負かせるなどとは思わぬことだ。今一度、私の恐ろしさを思い知らせてくれるわ」


 ザナルカダスから凄まじい、闘気が発散される。それは不可視のエネルギーとなって、津波のように俺の方へと押し寄せてきた。


 だが、その闘気も今の俺にとってはそよ風のようなものだ。

 

 すると、先ほどよりもさらに早さと鋭さを増した斬撃が一斉に俺の体に襲いかかる。

 

 俺は慌てずに、その斬撃を剣舞のように軽いステップでかわしながら、レヴァナーグの剣とより深く心を通わせようとする。


 アグナスと融合するまでは俺もレヴァナーグの剣をあくまで、ただの武器と見なしていた。

 だが、それは違った。


 レヴァナーグの剣は人間のように心や意思を持った生きた存在なのだ。その力を引き出したければ、心を通わし、レヴァナーグの剣の了解を得なければならない。

 

 だからこそ、歴代の王たちの知識を手に入れた俺はそれを真に理解し、レヴァナーグの剣にもっと力を貸してくれと訴えかけた。


「よくぞこの私をここまで追い詰めた。だが、それもこれで終わりだ、死ね!」


 そう叫んだザナルカダスの壮絶とも言える剣技によって繰り出された悪夢のような斬撃が、四方から迫り来る。


 確かにこれはかわしきれるものではないが、俺は自然体で待ち受ける。一方、ザナルカダスはこの猛攻を防げるはずがないと会心の笑みを浮かべた。

 

 だが、俺はカッと目を見開くとレヴァナーグの剣の力を完全に解放して、迅雷のごとく剣を一閃させた。

 

 すると、その神域にも達した一撃はザナルカダスの手にしていた四本の剣を一度で粉々に砕く。


 まるでガラス細工のように。


 そして、俺は全ての思いをレヴァナーグの剣に託し、今や守るものが何もなくなったザナルカダスに全身全霊の力を込めて斬りかかった。

 

「こ、こんなことが・・・」


 天空にも届きそうな強烈な光りを纏ったレヴァナーグの剣の一撃はザナルカダスの体を頭から真っ二つにしてのけた。


 まさに一刀両断。

 

 その自らの敗北という結果をすぐに受け入れられないのか、ザナルカダスは今にも二つに分かれようとしている自分の体を虚ろな目で見て、声にもならない声を漏らす。

 

 まるで少し前に俺に倒されたヴォラクロスのように。

 

 その声を聞き、俺はいくら神とは言え、人間をあまり見くびってくれるなよと言ってやりたくなった。

 

 それから、ザナルカダスの体は鮮血を巻き散らせながら二つに分かれてドサッと床に倒れる。

 死闘を繰り広げて、ボロボロになった広間に元の静けさが戻った。

 

「俺の勝ちだな、ザナルカダス」


 俺は絶命して、灰色の塵となって消えていくザナルカダスの体を見下ろす。厳しい戦いだったが、何とか勝てて良かった。


 でも、こいつはただの分身だし、真の意味でザナルカダスに勝利したとは言えない。喜びに浸るのはまだ早いのだ。


 俺はレヴァナーグの剣を再び天に翳すと、今度こそレヴァナートと交信しようとする。これ以上、魔方陣から何か現れない内にゲートの封印をしてしまわないと。

 

 今の俺にはもうザナルカダスのような強敵と戦える余力は残ってないからな。

 

 そして、レヴァナーグの剣が一際、眩い光を放ち始めると、俺の前に宙に浮かんだ一人の男が現れた。

 

「アグナスは良い後継者を見つけたようだな。私もお前の戦いぶりを拝見させて貰ったが、実に見事だった。今のお前は本当に勇者と呼ぶに相応しい」


 そう言うと、精悍な顔つきをした男は俺を見て、温和そうな笑みを浮かべる。その白い衣を着た体からは絶えず神々しい光が放たれていた。


「あなたはどこにいたんですか?」


 俺は神を前にしていると知り、敬語で話しかけていた。


「私はどこにでもいる。お前がレヴァナーグの剣さえ持っていれば、いつでも会えよう。とはいえ、あまりくだらぬことで呼び出して貰っても困るが」


 男は曖昧な答えを返してきたが、俺は気にしないように務めた。神様の言葉にいちいち突っ込みを入れるのは失礼だしな。


「そうですか。でも、あなたが善神レヴァナートで間違いないんですよね?」


 もし、違かったらどうしよう。


「そうだ」


 男、いやレヴァナートは底知れない力を感じさせる声で言うと、俺を安心させる。でも、見ていたなら助けてくれれば良かったのに。


「なら、とにかく、ゲートの封印をしてくれませんか?このままだと本物のザナルカダスが現れかねませんし、そうなったら俺とて勝てる自信はこれっぽっちもないんですから」


 既に力は使い果たしている。


「分かっている。今度は二度と解かれないよう、ゲートに厳重な封印を施そう。そうすればあと千年はザナルカダスもこちらの世界には来れまい」


 レヴァナートはあれほどの戦いがあったというのに無傷で残っていた魔方陣に手を翳すと、俺には意味が分からない呪文を唱え始めた。


 すると魔方陣に描かれた記号や文字が変化して、最後には魔方陣からも光が失われる。途端に広間から重苦しい空気が消えた。

 

「終わった」


 俺は虚脱したような顔をしながら呟いた。


「いや、終わりではない。この世界にはザナルカダス以外の邪神や悪魔も数多くいる。お前が望まずとも、いずれは奴らとも相まみえることになるだろう」


 それを聞き、俺は冗談じゃないぞと言いたくなったが、レヴァナートはみなまで言わせずに声を張り上げる。


「それが、王の魂を受け継ぎ、レヴァナーグの剣を持つ者の宿命なのだ。だから、お前は誇りを持って、悪と戦わなければならない。それがアグナスの魂に報いる唯一の方法でもあるのだからな」


 レヴァナートはそう一方的に宣言すると、体から目も眩むような光を放ち、それから忽然と俺の前から姿を消した。


 まったく、神様っていうのは厄介なことばかり押しつけてくるんだな。

 

 俺が途方に暮れたような顔をしていると、背後から足音が聞こえてきた。

 

「よく、やったわね、テッド。正直、人間とは思えない戦いぶりだったわ。私も今のあんたの力は怖いくらいよ。でも、レヴァナートにすら認められたあんたなら、その力は正しく使っていけるんでしょうね」


 片足を引きずりながら、レファナートが歩み寄って来る。その肩にはガステュークもいて、体の痛みに顔をしかめていた。


 とにかく、二人とも命に別状がないようで、何よりだ。


「ああ。けど、この力は単純に俺のものになったんじゃない。自分を犠牲にしてまで、俺に力を託してくれたアグナスの人格は消えてしまったし。だから、これから先、どうしたら良いのかは自分でも良く分からないんだ」


 俺は天を仰ぎながら、寂寞とした声で言った。それを聞き、レファナートは無理に明るく振る舞おうとする。


「きっと、深く考える必要なんてないのよ。アグナスだって、後悔はしてないだろうから。それにあいつは死に場所を求めていたようだったし、最後の最後でこの国のために力を尽くせたんだから満足してるんじゃないの?」


 そう考えられるのなら、俺も少しは救われた気持ちになれるのかな?


「そうだよな。いや、きっとその通りだ。アグナスの声はもう聞こえないけど、やっぱり俺の心の中ではあいつは生きていると思うんだ。あいつの思いは言葉では表現できないけど何となく伝わってくるし」


 俺は温かな感情に満たされながら言った。


「それは良かったわね。でも、あんたはもう王の魂に縛られることはないわ。私も、これ以上、あんたに望むことなんてないから、心置きなく肩の荷を下ろしなさい」


「そうだな」


 俺が弱々しく笑うと、レファナートはどこか空元気を感じさせるような声を発する。

 

「ま、ゲートの封印は終わったし、これでひとまずザナルカダスの驚異はなくなったと言えるわ。けど、本当に大変なのはこれからよ」


 そう言うと、レファナートは血まみれの手をギュッと握った。


「そうだな。でも、俺ができるのは、たぶんここまでだよ。後はお前やこの国の人たちが自力で何とかしなきゃ。きっとアグナスもそれを願っている」


 アグナスの思いを無駄にはして欲しくない。


「ええ。私も責任を持って、この後始末はするつもりよ。だから、あんたも安心して元の世界に戻りなさいよね」


 レファナートは力のこもった声とは裏腹に、何だか泣きそうな顔をしていた。


「私としては、いつまでもあんたにこの世界にいて貰いたいけど、そうはいかないんでしょ?」


 そう言った、レファナートの目は潤んでいた。


「ああ」


 となると、もうレファナートとも会えなくなるのか?

 

 少なくとも、会うに値する明確な理由がなくなったのは確かだ。が、俺は理由など抜きにして、彼女と共にいたいと思っていた。

 

「そ、そうよね。一緒にいたいなんて、思ったら駄目だよね。あんたにはあんたの生活があるんだし」


 レファナートは顔の表情をクシャクシャにしながら言った。なので、それを見た俺は力強く口を開いた。


「でも、何かあったらすぐにお前の元に駆けつけるよ。俺とお前はパートナーなんだから、これからもその絆が失われることはないさ」


 我ながら恥ずかしいことを言っているな。


「ありかとう。やっぱり、私、あんたのことが・・・ううん、やっぱ何でもない」


 レファナートは本当に切なそうな顔をして、俺から視線を逸らした。その様子が、今の俺にはたまらなく愛おしく感じられる。


 別にこいつのことを好きだと認めているわけじゃないが。

 

「そっか」


 俺はやれやれと苦笑しながら、疲労しきった体を休めるように、その場にしゃがみ込もうとした。


 が、そんな俺の胸にグサッと鋭利な何かが突き刺さる。

 

 信じられないといった顔で、俺が胸を見るとそこからは光りの槍が突き出ていた。俺は流れ出す大量の血と共に体から急速に力が抜けていくのを感じた。

 

「な、何?」


 レファナートは青ざめたような顔で俺を見る。すると負の想念に満ちた声が、広間に響き渡った。


「よ、良くも、ザナルカダス様を封印してくれたな。殺してやるぞ、レファナート!」


 俺が振り向いた先にいたのは満身創痍といった感じで杖を振り上げているジュダだった。


 だが、その顔には理性をかなぐり捨てたような、ギラギラとした憎悪の感情が渦巻いている。

 光りの槍を打ち込んできたのはこいつだったか。

 

 我ながら、迂闊だった。

 

 でも、奴が生きていたと言うことは、やっぱりレファナートは非情に徹しきれなかったんだな。

 

 まあ、それを責めるつもりは毛頭ないが。

 

 それを受け、レファナートは鬼のような形相で、すかさずジュダに光りの球を放った。

 

「ギャー」


 そう悲鳴を上げたジュダの体は光りの球の直撃を受けて、バラバラに千切れ飛んでしまった。

 もちろん、即死だろう。


 正真正銘の悪党が辿る、相応しい末路と言ってしまえばそれまでだが。


 ジュダから視線を移すと、レファナートは急いで俺の肩に手を回し、血の気が失せた俺の顔を覗き込んだ。


 しかも、その顔からは大粒の涙がこぼれ落ちようとしている。

 

「しっかりしてよ、テッド。ここまで来て死んだりしたら絶対に駄目!わ、私はあんたのことがっ」


 そう悲痛な声を上げて、レファナートは俺の胸に手を置いて必死に出血を止めようとする。

 だが、溢れ出す血は増える一方だ。


 でも、とにかく気が強くて、尊大極まりないこいつも泣くことがあるんだな。

 

 やっぱりレファナートはとびっきり可愛い女の子だと、俺はこんな時になって、そのことを再確認する。

 

 そして、薄れゆく意識の中で、俺はアグナスが自分を犠牲にしてでも、俺に力を貸してくれた本当の気持ちが分かったような気がした。

 

 それは国を救うと言うよりは、ただ自分の大切な人の笑顔を守りたい。おそらくは、そんな単純な動機から来るものだったのだろう。 

 

「後のことは任せたよ、レファナート」


 そう言って、心の底から満ち足りたように笑うと、俺の意識は深い闇の中へと呑み込まれていった。


                エピローグに続く。


 



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