第四章3
第四章 恐るべき敵との死闘3
「あんた、本気でそれを言ってるの?もし、そんなことをしたらもう後戻りはできなくなるのよ?あんなことがあって、気が動転しているのは分かるけど、もう少し冷静になって考えなさいよ」
家のリビングで、俺と向き合っているレファナートは険しい顔をする。ちなみに町が元通りになった後、俺たちはすぐに自宅へと帰ってきた。
そして、帰ってくるや、俺は自らの意向を隠すことなくレファナートに伝えたのだ。
「分かってる。でも、俺は冷静だから安心してくれよ。とにかく、今度のことで、俺も自分の甘さを思い知ったんだ。だから、明日になったら決着を付けにアグナスティア王国へと行くつもりだ」
俺は忸怩たるものを感じつつも、勇ましい声で言った。
「そう」
てっきり喜んでくれると思ったのに、レファナートは意外にも難しそうな顔をした。でも、俺は揺るぎない決意を胸に言葉を吐き出す。
「もう、二度とこんな事を繰り返したらいけないんだ。イビルナートだって次は助けてくれないだろうし、俺の周りにいる人たちをこれ以上の危険に晒すわけにはいかない」
もし、今日の戦いで自分の知り合いが死んで、その上、イビルナートがいなかったらと思うとぞっとする。
結局のところ、全て丸く収まったのは運が良かったからに過ぎないし、都合の良い救いの手などもう誰も差し伸べてはくれないだろう。
だからこそ、俺のいる世界を二度と戦いの場にはさせない。
「そっか。だけど、今のあんたにザナルカダスやヴォラクロスと戦う勇気が持てるかしら?言っておくけど、あいつらもゲリュディオンと同じくらい恐ろしい敵よ」
レファナートは脅す風でもなく、ただの否定しようがない厳然たる事実を口にした。
「分かってる。でも、いくら恐ろしくても絶対に逃げたりはしない。必ずそいつらを倒して、アグナスティア王国だけじゃなくて、この世界の平和も守ってみせる。でなきゃ、今回のことで一度は死んでしまった人たちに申し訳が立たない」
対岸のできごとだと思っていられる時期は終わったのだ。だとしたら、これから先は自らの意思で行動するしかない。
でなければ守りたい物は守れないのだ。
そして、今や、その守りたいものの中にはレファナートの命も含まれている。
「ふふっ」
レファナートは口元を緩めると、意味深な顔で笑った。
「俺、何かおかしいことを言ったかな?まあ、自分でもかなり無茶なことを言っているのは分かってるけど、この覚悟は本物だぞ。だからこそ、これから先はお前のやる事に文句を付けたりはしないし」
いきなり無鉄砲なことを言って呆れられたのかもしれない。
「いえ、そういう意味じゃないわ。何だが、急に逞しい顔をするようになったから、見直してただけ。私も今のあんたなら心置きなくパートナーとして認められるわ」
レファナートは宝石のような瞳を揺らめかせると、俺の顔を見詰める。
「パートナーか」
響きの良い言葉だ。でも、今の俺にその言葉に報いるだけの力はあるだろうか。
「そう、共に戦う相棒よ」
レファナートの相棒という言葉には特別な重みを感じだ。
「それはガステュークのことだけだと思ったけどな。でも、お前がそう言ってくれるのなら俺も不服はないよ。だから、必ずその信頼に応えられるような活躍をしてみせる」
まあ、何を持ってして、相棒と定義するのは難しいところかもしれないが。でも、レファナートが俺を相棒と認めてくれたことは素直に嬉しい。
「その意気ね。ま、ガステュークは肝心なところで役に立ってくれないから、これからは相棒じゃなくてペットにしようかしら?もっとも、ペットならドラゴンより猫の方が断然、良いけど」
レファナートは肩の上にいるガステュークを横目にして、からかうように言った。
「ちぇ、言ってくれるぜ」
ガステュークは悔しそうに口をヘの字にする。でも、その遣り取りが今の俺にとっては微笑ましかったりするのだ。
「冗談よ。とにかく、今度の戦いではあんたの力も絶対に必要になるし、せいぜい頼りにさせて貰うわよ。その代わり、もしヘマをしたら本当に肉屋に売り飛ばすからね」
レファナートの声はいつになく弾んでいた。
まあ、ガステュークの力は俺にとって未知数だが、きっとレファナートが信頼を寄せるだけの力があるのだろう。
「そいつはコワイな。でも、全て片付いたら、串焼きを三十本は食わせて貰うからな。ついでに高い酒も思う存分、飲ませて貰うし覚悟しておけよ」
ガステュークはあくまで食べ物に執着する。そこからは気負っているような様子は全く感じられない。
「はいはい」
レファナートはガステュークの言葉をさらりと流した。
「なら、まずはレヴァナーグの剣を盗み出す計画を立てようか。王宮にいるザナルカダスやヴォラクロスを倒すためにはレヴァナーグの剣がないと話しにならないんだろ?」
俺は熱を帯びた口調で言葉を差し挟んだが、レファナートは深刻になる風でもなく、滑らかな声を発する。
「ええ。でも、そのことなら心配しないでよ。もう、私の頭の中では計画はできあがってるもの。後はちょっとした準備をするだけだし、あんたの手は煩わせないわ」
レファナートは悪戯っぽく笑った。
「なら、そっちの方は君に任せるよ。けど、俺にできることがあったら遠慮なく言ってくれよな。できるだけ役に立てるように努力するから」
ま、俺が協力しなくても、レファナートのやることに手違いはないだろう。
「分かったわ。じゃあ、明日の朝になったらさっそく王都に行くわよ。そして、全ての決着を付けてやるわ」
レファナートは奮起するように言った。
「ああ」
俺もここぞとばかりに力強く頷く。
こうして、アグナスティア王国だけではなく、俺自身の未来もかけた戦いが始まることになった。
第五章に続く。




