本編⑦ 事件発生
ザバァァッ!!
足元の波間から触手が伸び、メディアの脚を絡め取った。
咄嗟に艶刃に手をかけたが、砂に足を取られ、バランスを崩す。
次の瞬間、強い力で海へと引きずり込まれていった。
海水が口に入り、視界が青空から海中へと沈んでいく。
だが、艶力によって水中でも地上と変わらず活動できるメディアが、溺れることはない。
「く……そっ……!離してよ!」
メディアは脚に絡みついた触手を振りほどこうともがく
「これは普通の触手じゃない。」
メディアの違和感が確信へ変わった。
海の中、複数の光る眼のようなものが彼女を見つめている。
無数の小さな触手が一斉に揺れ、あたかも“誰かの指令”に従っているかのように。
両足に絡みついた触手は、まるで意思を持つかのように彼女をさらに深みに引きずり込む。
しかしメディアの瞳には恐怖よりも闘志の炎が宿っていた。
艶刃を握り、紫の光の刃を成形し、両足に絡みついた触手を切り裂いた。
「水中だろうと……艶力の力で関係ない!」
体は海の中を滑るように動き、まるで魚のように自在に泳ぎ始めた。
闇の中から次々と伸びる無数の触手。
細いものが手足を狙い、太いものが背後から締め上げようと迫る。
その動きは偶然ではなく――統率された「群れ」のようだった。
「……やっぱりおかしい! 普通の触手生物じゃない!」
メディアは一閃。
光刃が水を切り裂き、触手を数本まとめて斬り払う。
海中は一瞬、紫の光に照らされた。
だが、斬っても斬っても次から次へと現れ埒が明かない。
「一気に叩く!」
艶力を両脚に集中させ、水を立て続けに蹴り抜いた。
「艶脚斬――!」
水中にブーメラン状の光の刃がいくつも発生し、海の流れを押しのける衝撃波となって群れを一掃する。
数十本の触手がまとめて吹き飛び、海の中で霧散した。
残る小さな触手が震えるように後退していくのを確認すると、メディアは勢いよく水面へと浮上する。
「しょっぱ〜い〜っ!」
濡れた髪が煌めき、彼女は砂浜に泳ぎ戻った。
だが心の奥には、先ほどの違和感が強く残っていた。
「……やっぱりあれは“ただの触手生物”じゃない。誰かが、操ってる!」
普通の触手生物なら、獲物に飛びかかる本能の塊のはず。
なのに、群れは一糸乱れぬ動きで彼女を取り囲み、まるで“命令”を受けているようだった。
本来、群れで行動する触手生物には、必ずリーダーとなる個体がいるはずだ。
しかしリーダーらしき触手生物はいなかった。
背後に“意思”を持った何かがいる。
波音が静かに押し寄せる砂浜で、今起きたことをリオンに報告し、メディアはひとり空を見上げた。
「休暇のつもりでいたけど……」
拳を握り、その瞳は真剣な光を帯びていた。
「これは……遊んでる場合じゃないね」




