本編④ リゾート島のバカンス
--そして現在、水の惑星の人工島リゾート島--
三人は観光客で賑わう入管を抜けた。
レオリスとアナスタシアがホテルへチェックインに向かう一方、メディアは依頼人である人工島のオーナーと面会していた。
「今日は来ていただきありがとうございます。今回の任務は“監視”です。島の一角に触手生物らしき存在が確認されていますが……今のところ被害はありません。観光客も異変に気づいておらず、騒ぎになるのを避けたい。ですから、調査と何かあった際の対処をお願いします」
「うん!わかった」
メディアは満面の笑みで小さく頷く。
「つまり、倒すんじゃなく見張ればいいんだね」
「はい。よほどの危険性がある場合以外は、報告してくだされば十分です」
「わかった〜」
「それと、アクアスフィアでは水着が正装ですので、それにならって人工島内でも水着でお過ごしください。お付きの方々にもよろしくお願いします」
「了〜解〜」
小型の触手生物が発生した岩場に向かうと、そこには確かに極小の触手生物が岩の隙間から顔を出していた。
大きさはナマコほど。海風に揺れているが、観光客の目に留まるほどの存在感はない。
メディアは腰をかがめ、艶刃を抜かずにじっと観察する。
「……動きは鈍いし、人に襲いかかる感じもしないなぁ」
指先でちょんと突いてみると触手は驚いたように岩陰へ縮こまってしまう。
「可愛い……これは駆除対象外だね」
メディアはチョーカー型の通信端末を操作し、リオンと支配人へ状況を報告する。
『確認した。現状は無害だな、今のところは放置しても支障はないだろう。だが警戒は怠るな』
『承知しました。では、バカンスをお楽しみください。無論、監視も忘れずに』
メディアは「了〜解〜」と通信を切った
「他の触手生物もこれくらい可愛かったらいいのに……それはそれとしてパフェ食べ放題、プール泳ぎ放題、海堪能し放題!クジラフロートの出番だ〜!」
今のところ、触手生物に危険な兆候はない。
こうしてメディアたちは、監視任務という名の“リゾートバカンス”をスタートさせたのだった。
メディアはクジラフロートを抱えて海に飛び込み、波に揺られながら大はしゃぎしていた。
「ひゃっほー!レオリス〜、こっちこっち〜!」
レオリスはビーチチェアに座り、読書をしていたが、結局メディアに手を引かれ海に入る羽目になる。
「えへへ〜!遊ぶときは遊ぶのが一番だよ!」
そんな中、アナスタシアは時折「ちょっと飲み物を買ってくるわね」や「仕事の電話がかかってきた」と席を外すことが多かった。
最初は気にもしていなかったが、二度三度と繰り返すうちに、メディアは首をかしげる。
「アナスタシアさん、なんか忙しそうだねぇ。せっかく一緒に来たのに」
それにレオリスは淡々と答える。
「う〜ん…お母さん、お店でも忙しそうだから色々とやらないといけない事があるのかも」
「そ〜なんだ〜」
メディアは納得したようなしないような顔をしていた。
昼食の時間、海辺のレストランで待ち合わせしていたが、アナスタシアはまた遅れてやって来た。
「ごめんなさい、少し人混みで迷っちゃって……」アナスタシアは柔らかく微笑むが、どこかぎこちない。
メディアはサンドイッチを頬張りながらじっと彼女を見て、口いっぱいで言う。
「アナスタシアさん、なんか隠してるの?」
「え?何も隠していないわよ?ただ、少し用事があるだけ」
アナスタシアはやんわりとかわし、話題を変える。
レオリスはそんなやり取りを静かに見守っていた。
「お母さん、無理しないでね」
とだけ言って、それ以上は追及はしなかった。
アナスタシアは一瞬だけ表情を揺らしたが、すぐに笑顔を作り直す。
「ありがとう、レオリス。……ほら、せっかくの休暇なんだから、楽しみましょう?」
メディアはまだ首をかしげていたが、目の前の特大デザートパフェに気を取られてすぐに機嫌を直した。




