本編⑥ ハナエの過去
リハーサル中に照明が落下した一件でライブは延期になりフェアリーアラモードの運営は騒然としていた
ステージ裏に逃げる人影を見た後にリズに遭ったというメディアの証言、防犯カメラの死角に仕掛けがされていた痕跡、ハナエの反応からアイリスは二人を候補に入れた。
「リズか……ハナエ、どちらかの可能性が高い」
真剣な目で二人のプロフィールや経歴などの資料に目を通しているアイリスがメディアに告げる。
「でも、二人ともステージで練習してたよ?」
メディアはまだ信じきれない様子で首を傾げる。
「確かに。ただ触手生物を使った可能性もある」
とアイリスが返す。
「リズは最近奇行が目立っている。それにハナエは……どうやら惑星「ワイダ」の出身なの」
「惑星「ワイダ」…」
メディアの目が大きく開く
ーー惑星「ワイダ」ーー
独自の宗教観と文化を持ち、触手生物を「恐怖の象徴」ではなく「神聖な存在」として信仰している惑星。
ワイダの人々にとって触手は「豊穣と繁栄の神」とされており、触手巫女については「神を産む巫女」と神格化されている。
その為、行きすぎた信仰の果てに触手教団が生まれ、女性を攫い触手巫女にしていたが数年前に壊滅している。
触手=恐怖や犯罪の象徴とされるが、ワイダではむしろ犯罪などに使う事を「神への冒涜」とされており触手教団の様な行きすぎた信仰や誰でも触手巫女にする事を嫌う人の方が多い。
「8年前の事件もフェアリーアラモードのメンバーを触手巫女にする為に触手教団が襲ってきた事件だったわね」
アイリスは何かを思い出したかの様に俯いた
「ハナエちゃん……すごくいい子だもん…」
「それはわかってる…ワイダも触手生物を犯罪に使うのをよしとしない人達もいる…だから…」
メディアの言葉にアイリスが顔を上げた。
「アンちゃんが困ってたらすぐ助けるし、リンリンが落ち込んだ時は一番に声をかけてた……あたしにも凄く優しくて……」
メディアはぎゅっと拳を握る。
しかし次の言葉は重かった。
「でも……“ワイダ”って聞いた瞬間、頭をよぎったんだ。…触手生物達に奪われた人達の亡骸……あんなのは神ではないって……」
アイリスは静かに耳を傾けている。
「いつものハナエちゃんを信じたい…けど………もし裏切られたらどうしようって……!」
声が震え、目尻には涙が滲んでいた。
メディアは心を落ち着かせる様に数回深呼吸をして強がるように顔を上げる。
「………でも、あたし……信じたいんだ。ハナエちゃんが“そんな子じゃない”って、自分の目でちゃんと確かめたい。」
アイリスはそんな彼女の肩にそっと手を置く。
「それでいい。疑いながらでも、信じたいと願うなら……それはもう立派な答えよ。だからこそ、犯人の可能性がある限りはその可能性を潰さないと無実とは言えない」
アイリスは優しく答える。
「わかった……」
メディアは腕で涙を拭い、顔を上げると胸の奥に芽生える使命感に決意の表情を浮かべた
アイリスは思わず笑みをこぼす。




